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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十八節 黒幕の気配
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2-18-3.「ハルトスがまともなアドバイスをするなんて珍しい」







「まぁ、そういうことでますね」結局、話の続きはレマが引き継いだ。「ちなみに今回の調査では重要視してないでますが、実はこの三一四名、全員同じ仕事を請けたわけじゃないでます。おおよそ内容は類似してるでますが、行き先がまちまちで、シカリッドの集落のほか、バルタザルのオアシス、ポンピラの宿、バーラ丘陵の補給地点など、近い範囲内での違う場所が指定されていたでます」


 レマの説明を聞き、その事実は自分の記憶の中にも薄っすらと存在していたような気がした。確かあの時、依頼人からそんな説明を受けた気がする。様々なルートに分けて運搬する、というような――。


「さらにそこから、たとえばシカリッドの集落に運ばれた石は、二番目の仕事によってマグドアールのオアシスまで運ばれ、三番目の仕事でリザーダンの倉庫跡まで運ばれてきたでます。つまりおおよそのまとめでますが、第一にベイクードからシカリッド周辺の中継地点へ、第二に中継地点から中継地点へ、そして最後にマグドアール周辺の中継地点から、リザーダンの倉庫跡まで運搬する。三段階の仕事が依頼、完遂されていたようでます」


 なんだそりゃ、めんどくせー。悪態をついて考えるのを面倒がり始めるゼノン。ミディアも俺も、この時は反応しなかった。少なくとも俺は、今の話を頭の中で整理するのに精いっぱいだった。ミディアが同じような状況だったかは知らない。


 そして、別のところに反応を見せる奴もいた。


「リザーダンの倉庫跡……」


 蚊の鳴くような小さな声で、ハドラがレマの言葉を復唱する。彼にとっては意外な名前だったか。けどさすがの俺も、いちいち確認しなくてもわかってる。リザーダンの倉庫跡。それはつまり、元々ハドラが管理していた、今はヴォルハッドが根城にしている、あの闘技場のような建物のことだ。


 サアァと一瞬、雨粒が強く窓板を叩く音がした。風が強くなってきたらしい。


「三つの段階、それぞれに三百人前後のケーパが関わっていたでます。一方重複して二ルートを運搬した人は名簿の限りではいなかった。つまり、全体で千人近くものケーパがこの仕事に関わっていて、少なく見積もっても半数以上の人間がその後殺されたり行方がわからなくなっていたりするんでます」


「それは、細かく調査をしていないから『少なくとも半数以上』ってことだな」


 俺が聞くと、レマとミディアが同じ表情で静かに頷いて寄越した。


 つまり、恐らくほぼ全員、ってわけだ。


 机の上に手を伸ばし、シアコリットをひとつつまむ。口に放り込むと、仄かな甘みと、そんなもの微塵も残さず吹き飛ばしてしまう程の強烈な苦みがぶわっと広がった。


「この仕事の依頼を出したのが、件のカルガディアでます。そして、大量の嫌精石を専任のケーパの手を使ってベイクードの港からヴォルハッドの根城まで移動し、そして運搬に関わったケーパたちを殺して回っている。……この事実から、どんなことが想像できるか、でますが」


 レマはもう一口お茶を口に含んだ。


 お代わりをどうぞと、セーラさんがポットをレマのカップに近付け、傾ける。まめなことだ。


「そりゃ簡単だろ」


 またしてもゼノンが反応した。ようやく立ち上がって机に両手をかけ、全員の視線を一身に集めて得意げに。


「運び仕事の請け負い人を殺してくってことは、積み荷と行き先を隠したいからだ。それっきゃねーさ」


「いえ、その線は薄いと思うでます」鼻息荒く推理を披露したゼノンに対し、レマは冷静に、その言葉を一蹴した。即断否定され、また一段階ゼノンの機嫌が悪くなる。


「何でだよっ」


「運び荷や行き先をごまかすことが目的なら、グァルダードにバカ正直に仕事内容を残し過ぎだと思うんでますよ。でも実際に、倉庫跡には大量の嫌精石が運び込まれていて使われていた。皆さん、それを確認してきてくれたんでますよね」


「はい。倉庫跡で大量の嫌精石が使用されているのは、確かに確認致しました」


 セーラさんが答える。


 俺も、ハドラも、頷いて補った。


「隠すつもりがあるなら、そもそもハドラさんを見逃しているのも解せないでます。あちこちに『ヴォルハッド団がリザーダン倉庫跡にいる』痕跡を残しておいて、運搬に関わったケーパだけを執拗に殺して回るなんて、片手落ちにもほどがあるでますよ」


「じゃあテメェは何でだって思うんだよっ!」


「それがわからないんでますよねぇ。あれこれ想像はできるんでますが、どれもこれも決め手に欠ける、と言うますか」


「そちらの紙は、どのような?」


 苛立つゼノンをごまかすように、セーラさんがつと話を逸らした。


 ああ、こっちでますか?とレマが最後に残っていた一枚の紙に手を伸ばす。


「これは、この砂漠の歴史を、ミディアさんにも手伝ってもらいながら簡単にまとめてみたものなんでますが」


「はぁ? レキシぃ? こんなとこでオベンキョーさせられんのかよ」


 両手を広げて、ゼノンが床に大の字寝そべった。聞いてられるかと話題に匙を投げたよう。多分、ここまで何か言うたびにミディアなりレマなりに否定され続けた、その分のストレスもあるのだろう。


 気にしなくていい、と俺はレマに目で伝えた。


 セーラさんも同意見、穏やかな微笑みで小さくレマに頷いていた。


「それにしても――」そして話題を戻す。「確かに、ここに来て歴史の振り返り、なんてのはちょっと脈絡薄いな。どういう流れなんだ?」


 俺が努めて穏やかな声で聞くと、レマもうぅんと首を捻りながら頭を掻いた。


「あちしもよくわかってないんでますけど、実は先日、本部の組合長に調査途中経過の報告書簡を送ったところ、返信で言われたんでますよ。『歴史も踏まえて、全体を眺めてみろ』って」


「ハルトスが?」


 目を丸くした。あいつがそんな、一見まともに聞こえるようなアドバイスをするなんて珍しい。俺はてっきり、セーラさんが先に仕組んでおいた流れなのかな、とか思ってたんだけど。


 改めて、レマが三枚目の紙を皆の前に提示した。


 ゼノンを除くみんなの視線が、そこに集まる。俺も、セーラさんとハドラの間から、背伸びをして覗き込む。


 紙面には、レマの言葉通り本当に簡単にまとめられていて、とてもわかりやすかった。




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