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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十八節 黒幕の気配
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2-18-2.「グランディアが、この国の中枢に人間を送り込んでるってことか」







 まず一枚。レマが紙を、皆の真ん中に提示する。そこには彼の略歴が書かれていた。


「グランディア出身のダザルト人。五八歳、男性。若い頃の素性は不明でますが、記録の限りではグランディアで近年急速に成長した宝石商。莫大な資産の持ち主で、グランディア国王家にも顔が利くとか利かないとか。

 それが五年ほど前、グランディア本国の店を全て畳み、国籍もダザルトに移して活動拠点をこのハーン市に移動。今ではベイクードや近隣村落にも数々の別邸を建て商人グァルドでもナンバースリーに数えられる実力者に成り上がったでます。

 グランディアでの彼はいわゆる意味での宝石商、だったそうでますが、現在の彼は石であれば何でも扱ってるでます。建築用の石材や、石炭燃料、研究用の化石なんかまで」


「持っていた栄光を手放して、この国で一からやり直して、たった五年で以前よりもさらに大きく伸し上がったってことか。……それが早いのか、妥当なのか、いまいちわかんないけど」


 俺が独り言のように呟くと、だけどレマは律義に拾ってくれる。左手で、二つに結わえた髪の先をくるくるといじりながら。


「早いと思うでます。ただし、カルガディアが並の実業家だったとしたら、でますけどね」


「と、言いますと?」セーラさんが、したり顔で先を促す。


「一連の彼の動きには、グランディア王国の諜報部が関わっている、っていう情報が先日入りました。母国の屋敷や店舗を手放しても損害はまるでなく、ダザルトへの入国についてもお膳立ては全て整っていて、人の繋がり、物の流れを構築するに当たっても実はあらゆる援助を受けていた。……って話もあるそうでます」


「ンだよ、そんなのイカサマじゃねーか」


 ゼノンがつまらなそうに鼻を鳴らした。机から離れて床に胡坐。膝の上に右肘で頬杖を突き。


 違う。問題はそこじゃない。


 さざと、風が雨粒を窓に吹き付ける音がした。


 問題はそこじゃなくて、つまり――。


「つまり、グランディア王国が、ダザルト国の中枢に人間を送り込んできている。……ってことか?」


「そういうことでます」


 レマが、珍しく鋭い目付きで頷いた。右手で、次の資料をみんなの真ん中、カルガディアの略歴の上に重ねて置いた。紐で綴じられた束になった紙だ。


「一番上は、二か月前にベイクードのグァルダードでもらった資料でます」


 言われ、紙に目を落として、俺は確かにと頷いた。それはグァルダードで見せられる仕事依頼書そのもの。というか、書かれている内容も俺たちが受けたあの仕事そのまんまで、ひょっとして、数か月前にも俺は同じこの紙を読んでいたんじゃないだろうか。


 仕事内容、カルガディア邸からシカリッドの集落へ嫌精石を運ぶこと。


 受諾条件、十名以上の複数人で臨むこと。


 成功報酬、云々……。


「グァルダードで受け取ったのは、これだけの内容だったのか?」


「そうでますよ。この紙があれば、あとから他の町のグァルダードからでも仕事の詳細が追えるんでます。この二か月で付け足して調査したのが二枚目以降――」


 そう言って、レマがゆっくりと紙を一枚めくった。


 二枚目には、恐らく人の名前だと思われる言葉と、一行程度の略歴が、ずらりと並んでいた。小さな字で詰め込まれていて、一枚の中に四十人分は情報が並んでいる様子。そのどれもが、横に線を引かれて消されていた。


「受諾者の名前とその後の行方、……でます」


 セーラさんが、その束を自分の手許に引き寄せ、ぱらぱらとめくる。三枚目以降は全て名簿で、八枚、同様の内容が続いていた。時々、線が引かれずに三角の印が脇に書き添えられた名前もあった。


「ざっと計算して、三百余名と言ったところでしょうか。皆さんのその後の行方が調査できたのですか?」


「そんなんどうやって調べんだよ。グァルダードだって仕事が終わった後の番犬の動向なんか探れねーだろ」


 ゼノンが口を挟んだ。


 確かにその通りだ、と俺も頷く。ハルトスにそんな仕事を振られたとして、そんな雲をつかむような仕事、どう手を付ければよいやらまるでわからない。


「その後と言っても、調べたのは一点だけ。その後生きているか、死んだか、だけでます。各支部に同様の情報提供依頼を流したところ、まぁそのリストに載っているだけの結果が出たわけでまして。あ、消された名前が死亡確認。三角名前は現状行方不明ということでます」


 それに、そこまでの情報精度は求めなかったでますからね。消された名前の中にも実は生きてる、みたいな人も何人かはいるかもしれないでます。カップを持ち上げお茶を一口飲みながら、レマはそう付け足した。


「なんだよそのザル調査。それで何がわかるってんだよ」


 ゼノンの悪態に、ミディアが大きな溜息を吐いた。


「アンタってホント頭悪いわよね。精度の低い調査からはわかることがないって、本気で思ってるわけ?」


 挑発され、ゼノンが立ち上がり机の板を思い切り叩く。慣れてないハドラがびくりと肩を震わせ、怯えを見せていた。


「じゃあ何がわかるってんだよっ」


「いい? 仕事受諾者総勢三一四名。うち、生存確定と判別できたのはウェルとシーラ、サディオとセグレスの四名のみ。あとは全員、バツか三角がついてる。あたしは砂漠の日常がどうかなんて全然知らないけど、これがバシバシ異常だってことくらいはわかるわ。いくら殺伐とした毎日だからって、これが正常だったら国家としての真っ当な人口推移なんて望めない」


「あ? なに言ってんだ、意味わかんねーよ」


「これだけの大人数が死んだり行方不明になっている。つまり、この仕事を請けた方々が、何らかの理由で、誰かに、命を狙われているということですね」


 セーラさんが口を挟んできた。


 うぐとゼノンが二の句を飲み込む。思いがけない角度から悪態を牽制され、黙らざるを得なくなった格好だ。


 実はこれ、ゼノンが黙らされただけじゃなくて、ミディアが用意していた罵倒の続きを飲み込まざるを得なくなったっていうストレスも発生してる。最早この二人の言い合いは、二人の間だけで完結したコミュニケーションの形らしいからな。うん、余計な口は挟むもんじゃない。




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