2 節間ー15. ボズロ・アルガス=ファーランダ.2
「おいガゼルダ」
すぐ後ろを歩きながら、口調を尖らせ話しかけた。
「お前、何だってあんな怪しい連中と手を組んだんだ?」
ガゼルダは振り返らない。足も緩めない。そして当然のように、答えようともしない。
「この前も例の、ミルレンダインの残党のガキにナメられちまったぜ? 他所モンの言いなりか、幻滅させんなよ、ってよ」
ガゼルダはまだ答えない。クソ、無視してんじゃねーよ。
「おい、聞けよガゼルダ!」
「利用価値があるからだ」
俺様が声を荒げたところでようやく一言。前を行く背中が、まだ振り返らず足も止めないまま、答えだけ淡々と投げてよこした。
「利用価値? あんな怪しげな連中にか?」
到底信じられない。というか、俺様に言わせたら奴らをそんな風には評価でない。ガゼルダの人を見る目はある程度信頼できると思ってるけど、奴らの話に限ったら、どうかしちゃったのかと首を傾げたくなる。
「大体、第一段階とか第二段階とかって何の話だったんだ? あいつら一体何をしようと企んでんだよ」
「砂漠の占有だ」
「……何?」
思わず、バカみたいな声で聞き返しちまった。
何だって? 砂漠の占有?
「俺たちの目的と同じだ。この砂漠を統一し、支配すること。違うのは、誰が支配するかってところだけだ」
「つまり、あいつらもこの砂漠を支配したいって考えてんのか。それじゃ、はっきり言って敵じゃねーか」
ふざけんじゃねぇ、そんな連中と組んでやがったのか。憤懣の声を上げるが、ガゼルダはまだ俺様を一瞥さえしない。ただその場に立ち止まって、一つ質問を投げ返してよこした。
「お前は、砂漠の統一とは具体的に何をすることだと考えてる?」
ただ一言、そんな質問を投げつけてよこすだけだった、
「ンなもん、簡単だろ。砂漠中の盗賊共を剣で捻じ伏せる。それだけだ」
「それだけじゃ足りない。歴史を振り返れば、そのことがわかる。
このレアンの国を初めて統一し、国家としての礎を築いたと言われているのは、ヴァルティア団の長ドレン・マウリだ。彼の残したヴァルティア団は、その後三百年に亘り砂漠を取りまとめたが、晩年には他団から『ウェンデの狗に成り下がった』と罵倒され、パミラ団に打ち倒された。
そのパミラ団は、初代頭領のゲド・カルハザードが盗賊グァルダードを建設し、複数団の代表による政治を目指したが、結局は砂漠支配を目論むウェンデとグランディアをどう封じるか、各団の意見をまとめきれずグァルダード長の実権を奪われた。
パミラ団を打ち倒したドルセス団の長バラバ・ドゥモールは砂漠の覇王を名乗ったようだが、政務をこなす力はなく、砂漠を統一したとは言い難い。その後は現在まで続く、グァルダードに実務を押し付けた諸団の割拠時代だ」
「何をしちめんどくせぇ歴史の講釈なんぞ」ガリガリと頭を掻きながら、俺様、ガゼルダの背中に不満を投げつける。「過去のバカどもの愚行に興味なんてねーよ。俺様たちは、そいつらのどれよりも強い。それで十分だろ」
ここでようやく、ガゼルダの野郎、俺様の顔を見てよこした。こいつのこの顔は知ってる。下に見た相手を諭すような悟った表情。こいつがたまに見せる、ムカつく部分だ。
「お前の脳筋ぶりは清々しくていいけどな。それだけじゃ、過去のバカどもと変わらない」
「ンだとっ?」
「この国を統一するためには、ウェンデとグランディアをどうするかをまず考えなきゃいけない。烏合どもを統一するだけなら、先人が既に果たしてるんだ。この国の統一を難しくするのはその先。一団統一が果たされたと見るや、その盗賊団を抑えれば砂漠の全てが手に入ると狙って手を出してくる、両国軍をどうやって躱すかが最重要課題なんだよ」
「…………」
「力で解決出来りゃ簡単だ。だがそれをしようってぇと、砂漠統一程度の実力じゃまるで話にならない。それこそウェンデとグランディア、両方の国を一度に潰せるくらいの力を持たないとな」
それを叶えてこそのヴォルハッドだろう、と言いたいところでその言葉をぐっと飲み込んだ。さすがにそれは夢を見過ぎだと、俺様もわかる。
ただ、無性に腹立たしい。ガキ扱いされて、いい加減イライラも頂点だ。
「で? テメーはどうするつもりなんだよ。砂漠統一なんて結局ムリだって、泣き寝入りしようって話じゃねーだろうな」
「フ」
笑いやがる。
ほンッとこいつはスカした野郎で――、待てよ?
「……そのための、糞ジジイどもなのか」
「ようやく、正解だな。
サリナスはグランディアの犬だ。ユイスもそのサリナスと共謀し、自らの野望を果たそうとしてる。ウェンデを追い払うのに利用価値があるし、グランディアと戦うにしても奴らの策を探る手掛かりになる」
「は、成程な」
要は、他所の国とのあれやこれやと、面倒な事柄をある程度連中に押し付けられるってことか。クソ、悔しいけどやっぱ、こいつ頭は回んだよな。
「そんで、連中の策に乗ったところの第一段階が嫌精石なわけか。この砦をあんな糞高ぇ石ころで取り囲んで、一体何しようっていうんだか」
「この砦はただの実験場だ。奴らは地下を使いたいようだが、俺たちは壁の特性を上手く使いこなせばそれでいい。何はともあれ今サリナスは、嫌精石を運ばせた番犬どもを、一刻も早く根こそぎにしたいらしい」
それもまた妙な話だ。運ばせたいだけだったら特定の連中を長期で使い、全部終わったら一遍に処分しちゃえばいい話だってのに。わざわざ中継地点を細かく作って、それぞれ違う連中を雇って運ばせて、そんでしばらく経ってから改めて関わった全員殺して回れ、だなんて。非合理なことこの上ない。
「よくわかんねーけど、まぁ、わかったよ。とりあえずお前の腹積もりは了解した。もうしばらくあいつらの茶番に付き合ってやるさ。ああでも、的を殺るか殺らねーか、いつ殺るか、その辺は俺様が自分で決めるぜ?」
「ああ。好きにしな。その辺りはあのユイス・ゼーランドがどうにかしてくれるさ」
「……なぁ」
「ん?」
「結局お前、あの男がホンモノのユイス・ゼーランドだって、本気で思ってんのか?」
聞くと、ガゼルダはひとつ笑いを挟んだ。喉の奥に何かを隠したような含み笑い。こいつがこんな楽しそうな顔を見せる瞬間は、なかなか珍しい。
「あいつは、胸中に黒い熱情を秘めてる。人を最も強くする熱情」
「復讐心、か」
「その通りだ」
呟き聞いた俺様に、ガゼルダは静かに頷いた。
こいつの持論だ。が、俺様も正しい意見だと思ってる。ある程度までは。
「あの男が偽物でも構わない。燃え滾る復讐心を胸に秘める限り、いずれ本物をも凌駕する実力に達せよう」
さすがに言い過ぎだ。ガゼルダを鼻で笑う。
「それじゃ、お前はあの男が、俺たちよりも強くなるってゆーのか?」
「お前が立ち止まっているならな。だが俺を超えることはできないさ」笑った俺様を笑い返して、ガゼルダはふと遠い目をする。「誰も、俺の裡にある怨嗟より大きな熱は持てない」
そうかい、気のない返事をした。
こいつが誰にどんな復讐心を抱いてるのかは知らない。縁あってつるんだ四人だが、互いの過去なんて語ったことはない。ただ、こいつの抱えてる闇が相当に深そうだってことは、普段の様子からもわかった。
面倒くさくなって、話題を変えてやる。
「あのミルレンダインのガキどもも、いずれ強くなってくるかな」
「そうでないと困る。なんのために見逃したのかわからん」
敵が、もっと強くなってくることをわざわざ待ち望む辺り、こいつも相当歪んでる。まぁその辺りの歪みは、俺様と大して変わらないわけだが。
「まぁでもあいつら、セラムじゃ随分いい顔色してやがったんだよなぁ。全然こっちを探りに来る様子もねーし。……親兄弟殺されたこと、ホントに恨みに思ってんのかな」
「……もし思っていないなら、その腑抜けた腹を、俺が掻っ切ってやるだけだ」
そんな静かな怒りを、想い歯軋りの音に乗せ、声にして聞かせてきやがった。おお怖ぇ。




