表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/177

2 節間ー14. ボズロ・アルガス=ファーランダ.1








「一体何を考えてるんだ、お前たちは!」


 喚くジジィが一匹。


 さっきからあちこち歩き回っちゃ目を見開き、止まったと思や両手を広げて回転する。声がうるさきゃ動きもうるさい。ガゼルダが横にいなきゃ、俺様一人だったらさっさと殺してるとこだ。


「もう何度しくじった? たかが野ネズミ数十匹駆除するのに、何度失敗したと思ってるんだ!」


 うっせーな。こんな上がんねー仕事、さっさと終わらそうなんて気にもなんねーんだよ。


「三度だぞ! 私が聞いてるだけで三度だ! あのミルレンダインの残党ばかり、どれだけ時間をかけりゃ気が済むんだ!」


 テメェで数えてわかってんじゃねーか。いちいち聞くんじゃねーよ。


「ああくそ。本当なら計画はとっくに第二段階に進んでるはずだって言うのに……。お前らの使えなさと言ったら」


 クソジジィ。さすがに調子に乗り過ぎだな。目の前の木の机を思い切り蹴飛ばし、椅子から立ち上がってナイフを抜いてやった。あア?と首を傾け威嚇しながら。


「ボズロ」


 ジジィは肩をいからせ、びくびくしながらこっちを睨んでやがったけど、俺様が一歩近付くよりも先に、ガゼルダが俺様のことを止めた。奥の部屋に続く扉。その前にある二段の石段に腰を下ろし、さっきから腕組みの姿勢でずっと考え事をしてやがった。


「…………チッ」


 仕方ねぇ。ガゼルダの顔を立てて、舌打ち一つで許してやろう。俺様もまたどっかと椅子に尻を落として、それ以上の言葉は飲み込んだ。


「悪いな、サリナス。こちらも不慣れなことが多くて、皆戸惑っているんだ」


 ガゼルダが下手に出やがった。だってのに、ジジィは調子に乗ったまま。


「ふざけるな。殺し以外に得手のない連中が、その殺しすら不慣れだと? 言い訳にしてももう少し気の利いたことが言え――」


「遅れてすみません」


 ジジィのたわごとを遮って、緊張感のねぇ声が一つ。


 ガゼルダの方じゃねぇ。ジジィの背後にあった錆びた鉄の扉を潜って、そいつは空気を読まずにこの部屋に入ってきた。こっちはこっちでいけ好かねぇオッサンだ。


「どうしたんです? 何か問題でも起きたんですか?」


「どうしたもこうしたもないわっ! こいつらが、またぞろ運搬屋どもの始末に失敗したなんて言ってきたっ! こんな簡単な雑用もこなせないんじゃ話にならんと説教していたところだ」


「失敗したんですか」


「正確には、成功したかどうかわからない、ってところだ。何せうちの連中は、殺すのは大得手だが殺した相手をいちいち確認するのは不慣れでな」


「こいつ……、まだ言うかっ」


 ガゼルダの、……今度のこれは軽口だな。それを受けて、ジジィが怒鳴った。


 後から来たオッサンは、今のやり取りだけでここまでの話の流れを理解したらしい。ふむとガゼルダを見、ジジィを見て、顎を二、三撫でてからにやりと笑った。


「成程。状況はわかりました。サリナスさん、確かにヴォルハッドの皆さんは、標的を選って狙うような細かい仕事は苦手でしょう。もう少し時間を取りましょう。本国には、順調だと答えればいい」


「ふ、ふざけるなこの若造が! 陛下より賜ったこの重要な任務、虚偽の報告などどうしてできよう――」


「虚偽ではありません。事実、計画は順調です。ただ皆さんの得手不得手を考え、それぞれに割く時間の割合を再配分するだけです。ねぇ、ガゼルダさん」


 オッサンはにこりと人を垂らし込むような笑顔を見せ、ガゼルダに近付いてくる。


「第一段階にもうしばらく時間を割く代わり、第二段階に進めば今度は皆さんの得意な作業。そちらの方を、本来検討していた期間の、例えば半分でこなして頂く。そういうことでいかがですか」


「……ああ、いいだろう。そっちは任せておけ」


 ガゼルダが表情を変えずに頷いた。


 第二段階……。そいつぁ俺様も聞いてねーな。まぁ、ここで口挟んでまとまりかけた話をひっくり返す必要はねーやな。後でガゼルダに確認しておこう。


「サリナスさんも、それでどうですか?」


「……具体的にはいつまでに第一段階を終えるつもりなんだ」


 ほォ。糞ジジイも、オッサンの話なら聞く気になってんだな。ふざけたクズだ、さっさと殺してやりてぇ。


「そうですね。あと二か月ほど、でいかがでしょう」


「二か月っ? 取り過ぎだろう! 雨季も終わる頃じゃないか!」


「だからちょうどいいかと思いまして。第二段階は今よりもっと人をかける必要がある。雨も降っていない方が都合がいいでしょう」


 垂らし込んでる自覚があるのかないのか、全部計算の上なのか。外連味のない爽やかな笑顔で、ジジイの懐に入り込んでいく。ジジイはぬぅ、とひと唸り。悩む素振りを見せつつ、結局はオッサンの案に頷くつもりだって、もうバレバレの態度だ。


「…………今年中には第三段階まで進まねばならない。わかっているんだろうな」


「勿論。ねぇガゼルダさん、第二段階を二か月で完了させられますよね?」


「最善を尽くそう」


 ガゼルダが頷いて、話がまとまった。


 そこから、今度は細かい動きの話に移る。


 正直俺様にはあんまり詳しいことは理解ができなかった。ガゼルダの野郎、まだまだ俺らに話してないことがたくさんありやがったんだな。ま、この場に俺を同席させるのを嫌がりはしなかったから、隠しておきたかったってわけじゃなくて、単に話すのが面倒だっただけなんだろうけど。


 第二段階、第三段階の話だけじゃねぇな。まだまだ吐き出してない話がありそうだ、あとで全部吐き出させねーと。


「さて、スケジュールの調整がそれで順調、となれば今日の確認はこれでよいかと思いますが、いかがでしょう。今回初めてこの場に参加なさったボズロさんは、何かご意見などありませんか?」


 さて、と既にジジイは俺らに背を向けて扉の方に歩き出そうとしてる。


 俺様が喋ることなんてねーだろ。こいつらが何考えてんのか知らねーけど、ガゼルダがいいってんだったら今のところは何も言うつもりは――。


 いや。


「お前らが何企んでんのか俺様にゃいまいちわかんねーけどよ」一つだけ、言っておくかな。「ジジイが何を喚こうが、俺様たちは俺様たちの目的のために戦うんだ。お前らに使われるためじゃねぇ。ガゼルダが何て言ってるか知らねーが、それだけは譲らねーからな」


 オッサンを睨み付けながら。


 ジジイの背中にも刺さるように。


 わざとらしく殺気を発し、猛獣が毛を逆立てる如く言う。


 ジジイがびくりと肩を震わせるのは、見た。


 オッサンは、まるで子供が意地を張るのを物分かり良く見守ってるような、そんなふざけた顔で、俺様のことを見てやがる。


 こいつ。俺様はひとつ小さく舌打ちした。このオッサン、かわいげねーな。クソジジィみたく怯えて見せりゃ、こっちもこれ以上睨まないでやったってのによ。


「勿論ですよ」そして、細い目と穏やかな声音とを作って。「あなた方は、あなた方の望む未来を勝ち取って下さい。私たちの望む道とその道中が重なっていると思ったからこそ、私たちとガゼルダさんとは手を組んだんです。私たちの目的は、決してあなた方の道を阻むことじゃない」


 そんなことを、いけしゃあしゃあと言ってよこした。


 別に嘘だと感じたわけじゃない。本当だと信じられたわけでもない。そんな言葉を丸々鵜呑みにするほど純情じゃないってだけだ。白状すると、このオッサンの腹の裡はまるで読み取ることができなかった。


 俺様の発言が最後、それでこの場は完全にお開きとなった。


 ジジイとオッサンは、それそれどこかへ帰っていった。ガゼルダもようやく立ち上がって、すぐ後ろにある、根城の奥へと続く扉を潜っていく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ