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2 節間ー12. シーラ・リュスタル=ミルレンディア.12







「シーラッ、下がれ!」


「ちょうどいいよサディオ! お互い二人ずつ倒せばいい!」


「ば……っ、バカ言うな、いいからお前は後ろに下がって――」


「…………チッ」


 サディオの言葉は、大きな舌打ちに遮られた。


 誰のもの、と目が音の主を探す間に、それはもう動いてしまっていた。


 素早い動きで全員の死角から飛び出したそれは、利き手一本で剣を一振り。青髪の槍を真っ二つに切って落とし、あたしのすぐ背後に立つ。


「お前らなぁ、そんな連携で戦えるわけないだろ」


「セグレス!」


 さっきまで直立無言を守っていた、セグレスだった。


 言葉は二人に向けて。けど、目線と口はサディオに向けられている。


「セグレス、どうして……――」


「ああぁあっ! セグレスっ! オマエ、アタシの命令に背いてタダで済むと思ってんのかいっ?」


 サディオの驚嘆はマンドルマの怒号に掻き消される。


 セグレスの答えも、サディオではなくマンドルマに向けて。


「さすがに、これ以上は束縛されるいわれもないよ。こんな勝負をまともにやったら、俺にとっちゃ勝っても負けても罰ゲームだ」


「ふざけるなっ! ええい、オマエたち! 三人まとめて縛り上げちまいなっ! 生皮剥いでハイエナのエサにしてやるっ!」


 観覧席から息巻くマンドルマ。


 セグレスは、今度はマンドルマを無視。サディオに向き直って指示を出した。


「サディオッ! シーラを信頼しろ! お前ひとり気張って盾になる覚悟決めたって、状況は悪化するだけだ」


 叫びながら、襲い掛かってくる青髪の鳩尾に剣の柄で一撃。あっさりと一人目を沈める。


「ルオっ! ……畜生、セグレスてめぇ!」


「やめろって。お前らに裏切り者扱いされる覚えはないぞ」


 砂の上に唾を吐きながら、セグレスが緑髪を睨む。


 睨みながら、手ではあたしに行けとサイン。すぐに受け取り、あたしはサディオの援護に走った。


 サディオの前には金髪のチビと黒いデカブツ。諸刃の剣と斧に睨まれ、細剣をどうしならせようか、狙いあぐねているようだった。


「シーラッ、危ないから前に出るなって――」


「いつまでも、サディオに守られてばかりの子供のあたしじゃないんだよ! いい加減わかれ!」


 あたしも、サディオの言葉を遮ってやった。


 そして巻き上げる旋風一つ。


 こっちと敵とのちょうど真ん中辺りに呼び起こした大きな風の柱は、大量の砂を掴みながら夜の空へと跳び上がっていく。


 すぐ目の前に即席の砂嵐を呼び起こされ、あたし以外の三人、敵の二人とサディオは、顔を守るように背中を丸めた。


 ――今。


「はあっ!」、


 浮かび上がった風の下に潜り込み、あたしはまず金髪の腱を狙ってナイフを振った。


「く……っ」


「チッ」


 捕らえたと思ったのに、金髪はすんでのところで跳び上がり、足を曲げてあたしの攻撃を避けた。僅かにあった手応えは、腱じゃなく、太腿辺りに小さなひっかき傷を作っただけだった。


「こ、こいつ……っ」


「サディオッ!」


 名を叫ぶ。反撃と、剣をあたしに向けてくる金髪の攻撃を避けながら。


 砂嵐に腰を屈めているサディオでも、あたしの声がすればこっちを見る。目線だけじゃまだ意図を噛み合わせられないけど、その中でサディオの動きと連携するためにはどうすればいいか、あたしも必死に考えてた。


「シーラッ! くそ、シーラから離れろっ!」


 案の定、サディオはすぐさまあたしの傍に駆け寄ってくれた。あたしに繰り出された剣、伸びた腕の隙間から、細剣の先を金髪の男の肩に向け。


「ぐうっ」


 針の先のように細い剣先を右肩に受け、思わず顔を顰める金髪。瞬間、あたしはもう一度男の足許をナイフで切り付けた。


 左足の甲に傷をつけられた男は、悶絶しながら、手から剣を落とす。


「大丈夫か、シーラ!」


「一撃も喰らってないよ、大丈夫」


 横目で笑い、さあとナイフを握り直す。


 そして、両手で握ったナイフの刃で、大上段からの大振りをしっかりと受け止めた。


「シーラッ!」


 黒髪の男が、あたしたちの隙と見て攻勢に出てきた。それをあたしは、ちゃんと見てたんだ。


 サディオもいい加減、あたしの名前を呼んであたふたするばかりじゃない。あたしに斧を振り下ろした黒髪の顔目掛け、鋭いひと突きを繰り出した。


「んぬっ!」


 首を曲げて避ける黒髪。


 二撃、三撃。剣を引いてはまた突いてを繰り返すサディオ。男はあたしから刃を離し、その切っ先を小さな動きで避ける。


 そして幾度目の攻撃を避けた後、男はまた、斧を振りかぶりサディオに振り下ろした。


 体を捻り、難なく避けるサディオ。


 お互い譲らない攻防。ここはやっぱり、あたしとサディオの連携が勝負を決める。あたしは息を整え、一進一退の状況にあるサディオの背中をじっと見つめた。


 そして、ナイフを投げる。


 同時に、「離れて!」叫んだ。


「フン!」


 投げつけられたナイフを、黒髪の男はつまらなそうに弾き落とした。


 その隙に、サディオが五歩退って距離を取る。彼に一息つかせるために武器を手放した。男には、あたしの行動がそう見えただろう。


「援護するから合わせてっ。上から!」


 雑な指示。これだけで理解してもらえるか、物凄く不安。


 もし、――なら。考えそうになって、ぶんぶんと頭を振った。


 今呼吸を合わせる相手はサディオだ。彼はあたしが生まれたときから、あたしを見てくれてる。信じなきゃ。


「はあぁっ!」


 サディオが、砂を蹴った。


 敵までの距離は、一瞬で縮まる。


 そしていよいよ互いの武器が相手の体に触れられる、そんな距離まで近付いた瞬間。サディオは高く跳びながら、両手を大きく開いて体を大きく見せた。


 あたしは風を爆発させた。瞬間の爆風が、サディオの体を五メトリほど上空へ舞い上げる。


 黒髪の男は用意していた斧での迎撃の行き先を失い、一瞬、構えに隙を見せた。


 中空を見上げる。空に舞ったサディオが、男に向かって落ちてくる。


 そして交錯する一瞬前。あたしは再び、風を起こした。


 空中でサディオの体が一瞬止まり、読み切れずに黒髪の男は斧を空振りした。


 勝負は決まった。サディオの細剣が黒髪の男の右肩に突き刺さり、男は斧を落としてその場に蹲った。




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