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2 節間ー11. シーラ・リュスタル=ミルレンディア.11







 いいさ、あたしがリードしてやる。


 大勢の人間に囲まれながらも異様な静けさに包まれた、曰く闘技場。もう誰も余計なことを言う者がなくなったタイミングで、まずはあたし。サディオの陰から弾けるように飛び出して、中央の男にナイフを向けた。


 ギンッ!


 慌てた表情で、男があたしのナイフを受け止める。剣とナイフの刃が交わる。


 上目遣いに笑顔を見せてやり、それからすっと体を引く。


 受けた男の周りの三人が、アタシがいた場所に得物を振り下ろした。遅い。あたしは体を引いた後。


「シーラッ!」


 すかさずサディオが寄ってくる。


 サディオも遅いよ。横顔で、左の目だけで合図してやる。


 あたしと入れ替わるように前に出て、今度はサディオが、男の一人に切っ先を向けた。


 避ける男。サディオはさらに幾度となく、細剣をしならせ変幻させた突きを繰り出す。


 今度はあたしがサディオの援護。風の魔法を操って標的以外の態勢を崩させながら、あたし自身は姿勢を低くしてうちの一人の足許を狙う。


 脛を狙ったナイフの一閃。


「シーラ、下がれ!」


 繰り出そうとした瞬間、サディオに怒鳴られた。


 素直に下がったけど、誰かに狙われていたわけじゃなかった。なんで止めたの? 風の形を変えながら聞く。


「シーラは前衛には向いてない。俺が守るから、なるべく後ろにいてくれ」


 何だそれ。あたしはムッとして、もう一度ナイフを握り直した。


 敵の中にも魔法使がいる。恐らく緑の短髪。あたしが集中を乱れさせると、遅まきながら辺りの空気を今度は敵が支配してくる。


 一度主導権を渡してしまったあたしは、風の動きを読むことに集中し、サディオに攻撃が集中しないよう細かい妨害をすることに注力した。


 黒い肌の剛毅の男が、サディオの背中を斧で狙っている。


 あたしはそこに、魔法を大きく注ぎ込む。巻き起こった旋風は、砂を拾い上げ黒肌の男の背中を押し、体勢を崩させる。


 今度はサディオの脇を狙って、長い槍の先が横から伸びてきた。巻き上げた砂をその切っ先にふるい落とし、槍の先を地面に押し付けた。


 サディオの動きは振るわない。


 槍も斧も、剣も。向かってくる刃の全てを自分に向けさせようと、さっきから変な体勢ばかり取っている。一人を狙えば肩口を貫く暇くらい何度かあったはずなのに、一人に隙を作らせたらそのまま、もう一人の方に向き直ってまた同じことを繰り返している。 


 埒開かないじゃん。もどかしさに、あたしは奥歯を噛み締める。


「フフ、楽しませてくれるねぇ」


 マンドルマの声が耳に障る。



 実質四対二。――セグレスがまるで戦意を見せていないので、そういう戦況になってるんだけど、四対二でも五体二でも戦い方次第でどうにかなると読んでたあたしの見込みは今のところ完全に外れている。サディオがあたしを下がらせ、一人でどうにかしようと躍起になっちゃってるからだ。


 あたしだって戦える。状況を打破するには、まずそれをサディオに認めさせることが不可欠だ。


「サディオッ、一旦下がって――」


「まだいける! シーラはそこにいるんだ」


 敵の剣をいなしながら、あたしの声を遮りサディオが叫ぶ。


 ダメだ。サディオにあたしの声が届いてない。もっと普段から、サディオと一緒に仕事をこなしておくべきだったな。


 そんなあたしたちの状況に、敵ももうとっくに気付いている。にやにやと笑みを浮かべながら、サディオを嬲るように殺気の薄い攻撃を繰り返している。


 もっと疲れさせて、いよいよ動けなくなったところで勝負を決める。そういう狙いなんだろう。


 キッと奥歯を鳴らしつつ。もういい加減、後ろを守ってばかりいられないと、あたしも直接攻撃に出ることにした。


「ま、待てシーラ!」


 今度は聞かない。


 サディオの制止を無視して、あたしはナイフを奥の緑髪の男に向けた。


 風の壁が迫る。


 あたしはそれを、ナイフで切り裂く。


 いよいよ緑髪の男の目前まで迫ったところ。あたしがナイフを横に振るうと、男は手にした棍棒の柄でそれを弾いた。


 まだまだ。あたしは何度となく、男の顔を切りつける。十や二十じゃ利かない。小さい傷をいくつもつけようと、何度も何度も、切って、切って、切り続けた。


 男もそのうちの半分くらいは棍棒で防いできた。けど、残る半分くらいは防ぎきれず、顔に、額に、首や肩に、小さな傷をいくつも作った。


「この小娘がっ! 顔に傷付けてんじゃないよ、死にたいのかいっ」


 マンドルマが怒声を浴びせて来たけど、一瞥も向けない。ただひたすら、目の前の魔法使の意識を封じることに集中した。


「ラトルスッ」


 いずれ援護が入るのは読める。特にこいつの場合、助けに来るのは槍を持った青の長髪、と当てが付けられた。似たような顔立ちだ。多分兄弟だろう。


 すっと突き出された槍の先。あたしはひょいと跳び上がって、その刃の部分に足を乗せた。


「何ッ?」


 青髪に与えてやるのは、驚く隙だけ。目を瞠ったその二、三瞬後には、槍の柄の上を駆け上り、青髪の手許にまで走り寄った。そしてそのまま、身を回転させた勢いの蹴りを一つ。


「――……っ!」


 入れようとしたあたしの体。最後の一歩のところで軸足を奪われ、槍の柄から落とされた。


 転ぶのはまずい。何とかバランスをとり、青髪のすぐ脇のところにしゃがむ形で体勢を整える。


 あたしの軸足を奪ったのは緑髪の魔法の風。「大丈夫かっ」と棍棒を握りながらこっちに駆け寄ってくる。


 あたしは素早く跳び退って、二人から距離を取った。




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