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2 節間ー10. シーラ・リュスタル=ミルレンディア.10







「大体、サディオ一人残して逃げられるわけないじゃん。あたしは生きてる仲間たち全員をここから助け出すために、来たんだから」


「助け出すって言っても。……俺だって他のみんなのことがなければ、一人だったらいくらでも逃げ出せたんだ。小さい子供たちもいるって考えたら、そうそう簡単には逃げられないよ」


「それはホントに感謝してる。今までみんなを守ってくれてありがとう」


 情けない声を出すサディオに、あたしは礼を言った。何を、と慌てるサディオ。早く歩けと、兵の槍があたしの腰巻の辺りを突っついてくる。


「サディオがみんなのことを守ってくれてたから、あたしが他のみんなのことを逃がすことができたんだ。今まで耐えてくれてホントにありがとう。だからあとは――」


 拳をぎゅっと握って、自分の胸を叩いて見せて。


「あとは、あたしがサディオを助ける番なんだよ」


 笑って言ってやった。


 ぐ、とサディオが唾を飲む音がした。


 わかってる。どうせあたしのことなんて、頼りないって思ってるんだろう。けど、この状況に陥ったところ、もう頼りなくても頼ってもらわなきゃ。まだ自分一人犠牲になればあたしのことを助けられるって思ってるんだったら、この賺した長髪を両手で毟ってやらなきゃいけない。


「だ、だけど――」


「ほら、そんなこと言っててももうどうにもならない。それよりこの後のことを考えよう」


 その目を見詰めて伝えると、サディオもようやく、言葉を飲み込んでくれた。わかったと。異の代わりに、頷いてくれた。こうなっちゃった現状について、今更ぐだぐだ言ったところで変えられないんだ。大事なのは、この後どうするか、だ。


 大きな円蓋状の石屋根に覆われた、アリオーネの根城。その外周沿いに、背を突っつかれるがままに歩き続けること十数分。月が根城の建物の向こうに隠れる頃合いに、大きな円舞台が見えてきた。高さ十センターンくらいの背の低い石にぐるりと囲まれ円形に切り取られた、砂の地面が剥き出しの、舞台とも呼びづらいその場所。


「着いたよ。ほら、前に出な」


 マンドルマに怒鳴られて石の囲いを跨ぐ。


 マンドルマ自身はまず取り巻きの男たち十人ほどを周りに侍らせ、更にその隣、砂の円を囲むようにアリオーネの団員たちを並ばせて、状況を整えた。ぐるりと囲めば逃げ出すこともできないだろう。不遜な笑みが、腹の裡を隠さず伝えてくる。


 それにしても――。腰に手を当てきょろきょろ周囲を見回して、思う。闘技場、なんて言うからどんなに仰々しいものかと思ったら、ただの集会所じゃないか。


 そう、集会場。うち(ミルレンダイン)でそう呼んでいた、根城の中央辺りにあった石舞台とちょっと似てる。根城の外にあるとか、普段は使われていないっぽいとか、違う部分もたくさんあるけど。


「……で? あなたの選ぶ五人っていうのは、どいつのことなの?」


 風景に向ける興味なんてそこそこだ。それより、戦う相手が気になる。


 あたし自身も、ナイフを抜いてくるくると、右の指で回しながら。サディオは既に細剣を構え、まるであたしを守ろうとばかりにあたしの前で腰を落としてる。


 マンドルマはじゅるりと舌なめずりをしながら。


「フフ、そう死に急ぐもんじゃないよ。アンタたちに見合う面子をゆっくり選んでやらなきゃいけないんだから。そうだねぇ……」


 そして、ふぅむと顎に――その肉が垂れ下がったぶよぶよした部分を顎と呼ぶなら、だけど――手を当て、周りに居並ぶ精悍な顔立ちの男たちの様子を、じろじろと睨め回した。うぅんと悩んで、やがて大きな声で名前を挙げる。


「カーグ、ダルシア、ラトルス、ルオ! こいつらを軽くヒネってやりな!」


 そうして名前を呼ばれた、マンドルマの取り巻きの中から四人。青年が前に進み出て、あたしとサディオの前に立つ。


 一人は金色に染めた髪を天に尖らせた、体の線の細い低身長の青年。一人は背が高くごつい体格の、黒い短髪、黒い肌の硬派な男。残る二人は少し似通った面立ち。青い長髪と緑の短髪、細い腕と引き締まった体格、対照的なところもあるけど、鋭く吊り上がった金の瞳と鋭い頬の線、整った端正な顔付はとてもよく似ている。


 共通してるのは、どいつもこいつも顔が良いってこと。ミルレンダインで一番顔が良かったのがサディオだったけど、こいつらみんな、そのサディオに並ぶくらいの整い具合だ。


 それがまた、マンドルマの趣味の悪さを強調する。知らず、あたしは額に大きく皴を寄せてしまっていた。


「四人でいいの?」


 ぶんぶんと首を横に振って表情をほぐしたあと、少しだけ皮肉を混ぜてマンドルマに聞いた。五人、と言ってなかったか。マンドルマはにやりと笑って。


「最後の一人はいま奥に呼びに行かせているよ、まぁもう少し待ちな」


 楽しそうな潰れた笑顔が帰ってくる。


 何か企んでいるなぁ、と右手で髪を掻き上げると、どうやら根城の中から最後の一人が姿を現したようだった。


「ほら、最後の一人、セグレスだ。アンタたちにゃ、馴染んだ顔だろ?」


 マンドルマの言葉に合わせるように、セグレスがあたしたちの前に立つ。二人の兵に背中を押され、無理矢理この場に立たされるような動き。伏し目勝ちに、そして少しだけあたしのことを責めるように、じっとこちらを見詰めている。


 だからちゃんと作戦を立てろって言っただろ。――目線の真意はわかってる。だからあたしは、ほんのりした笑みを返してやった。「大丈夫だよ、まだまだ策はあるんだから」目で語ってみたつもりだったけど、多分、伝わってない。


「セグレスも、あんたのお気に入りだったの?」


「ジョーダンだろう? こんなガキみたいなツラの男、アタシの趣味じゃないね」


 酷い言われようだ。セグレスだって、顔は結構いい方だと思うのに。まぁ確かに、ちょっと童顔なところはあるけど。


「そいつは雑用専門さ。

 ねぇセグレス。もしここでクソガキに負けるようなら、大事なところ切り落としてやるからね」


「……あんた、ホントに悪趣味だね」


「フフ、あんたみたいな甘ちゃんは、これで隙を見て逃げ出そうって気も起きなくなるだろ? 全員助けたいって奴が、まさか仲間が玉切られるってのに見捨てるわけにゃいかないもんねぇ」


 ぐちゃあ、と嬉しそうに顔を潰す。その表情はあたしの四肢を切り落とすぞって話をしていたときと同じ形で、成程この顔が、この女が趣味に蕩けたときの顔なのかと妙に納得した。


「さぁ、手並みを拝見といこうか」


 マンドルマの声音が、一つ低くなった。


 さっきからずっと隙なく構えていたサディオの斜め後ろで、あたしもいよいよナイフを握る手に力を込め、臨戦態勢を取る。


 敵の五人は横並び、あたしたちに向けて、扇状に並んで、剣だの斧だのそれぞれの武器を構えている。向かって右端の、セグレスだけはやや、足の爪先の位置が後ろに下がっている。


 サディオとセグレスが、少し乗り気じゃないかもしれない。そこだけが不安要素だった。




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