2 節間ー5. シーラ・リュスタル=ミルレンディア.5
「……そうまでして、ヴォルハッドを倒したいのかい? オマエは」
ようやく、マンドルマが口を開けた。
「……ええ」
慎重に、答える。
「もちろん、みんなを助けるのが第一。これは絶対に揺るがない、最優先事項だよ。ただ、それが適った前提で、奴らを倒したい思いも強い。実の父の仇だしね。それに、あたしと同じように奴らを仇と見て、一緒に戦ってくれてる仲間が、今はいる。その仲間のためにも、あたしはあたしの意志を貫かなきゃ」
ぐっと拳を握り締め。少しだけ、あたしはあたしの心の中をマンドルマに見せた。
あたしの中の、戦う理由。それはきっと、ウェルや、ゼノンやミディアや。いつもいつも好き勝手言ってくれるけど、それでも仲間として一緒に戦ってきたあいつらが、今も頑張ってるから。
「……そうかい」
深く大きく溜息を吐いて、マンドルマが徐に立ち上がった。
短い脚で巨体を支えている。見ていると心配になっちゃうけど、実際二人の青年もさらにもう一歩ずつマンドルマに近付いてきたけれど、さすがに彼女も立ち上がるだけで転がってしまうような醜態は見せない。
ゆっくりと、あたしの方に近付いてくるマンドルマ。互いに腕を伸ばせば手の平と平が当たるくらいの距離まで近付いてきて、そしてあたしを睨み付けて。
「アンタの気持ちはわかったよ。けどね、そんなものアタシにゃ何の関係もないね。アンタがどれ程助けたいと思っても、アンタがみんなって呼んでるその連中はもう、アタシの庇護下に入ったアタシのかわいい団員たちなんだ。ヴォルハッドとかいう生意気な新興連中を倒すのにも、アンタみたいな小便臭い小娘の手なんざ借りない。手を組む必要があるなら、西のザードでも、南のドルセスでも、もっと使える同盟相手がいっぱいいるさね」
更に一歩、二歩、近付いて。あたしの顔のすぐ前に、ほとんど見えない短い首をぐいと伸ばして。
「アタシにはアンタの手を取るメリットなんざどこにもない。欠片もない。アンタのそのくすんだ髪の先の枝毛の端ほどだってないってことを、アンタはやっぱりちゃんと理解してからここに来るべきだったね」
背筋を伸ばし、伸ばした首を引っ込めて。あたしより頭半分高い背で、あたしのことを見下しながら。
うぅん、やっぱりだめかぁ。あたしはあたしなりに、腹を割って話をしたつもりだったんだけど。まぁ、腹割ったら仲良くなれるなんて約束も無いしね。本当は無駄な争いは回避したかったんだけど。
「交渉決裂、か。……仕方ないかな。じゃあ、あたしからあなたに譲れるものも何もないし、ここはあたしの望みだけ通して帰らせてもらうね」
直立。
両手をまっすぐに下ろし、両足は肩幅より少し広く広げ。戦闘態勢のひとつ前、いつでもナイフを取りつつ逃げ出せるよう準備する。
いや、こんな図体の女だし、まずは一刀斬りかかってからの方が動きやすいかな。
「フフ、帰らせてもらう、か。目算はあるのかい?」
「当然。何も準備せず、敵になるかもしれない相手のど真ん中に来たりしないでしょ」
「ま、そうだろうね。じゃあこれも当然、予測してただろうね」
マンドルマはにやりと笑い、大きく後ろに跳んであたしと距離を取った。何こいつ、めちゃくちゃ機敏じゃん。
「アンタたち、アイツを呼んどいで!」
「は」
指示を受け、横に侍ってた青年二人が腰を曲げる。
そして扇を持っていた方の青年が、一つ大きく手を叩いた。ソファの後ろにあった扉がゆっくりと開き、中から一人、出てくる者がある。
息を飲んだ。マンドルマの言葉の通り、ある程度予測していた、とはいえ久方ぶりの再会に、なかなか、感情の昂りを押さえ込むのは難しかった。
黙って、ゆっくりと歩を進め、マンドルマと従者二人の横を素通りして。あたしの目の前に立って、ようやく足を止めた銀の長髪の青年。
「……サディオ」
あたしは彼の名を、震える声で呼んだ。
サディオは答えない。ただ昔からの愛具である細剣を握って、鋭い目であたしのことを睨み付けてる。振るうのは一振りだけか。
「さぁ、やっちまいな!」
そして、マンドルマの声を合図に、床を蹴りあたしに斬りかかってきた。
突き出される細剣。
中段のそれを、アタシは体を捻って躱し、次の一刀を更に屈んで避ける。
「はははッ、どうだい、かつての仲間に刃を向けられる気分は!」
ソファに戻って横になり、楽しそうに笑いながら挑発してくるマンドルマ。
この辺で、「サディオやめてっ、あたしのことがわかんないのっ?」とでも叫べば劇的なのかもしれないけれど。そんな悲壮感を演出してやれるほど、あたしは暇じゃないし、芸事が得意でもない。
サディオの目を見ればわかる。剣の筋を見れば言葉なんていらない。サディオは正気だし、あたしのこともわかってる。その上で、立場上どうしようもなくあたしに剣を向けている。
さて、この場、どうすれば収まるか……。




