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2 節間ー4. シーラ・リュスタル=ミルレンディア.4








「ミルレンダイン団の現頭領、シーラ・リュスタル=ミルレンディア」通り一遍、名乗ってやる。「この度は、私の同胞たちを匿ってくれてありがとう。頭領として礼を言うよ。さぁ、みんなを返してちょうだい」


「アンタ、なんか勘違いしてるみたいねぇ」


 脂肪がたんまりと詰まった、煌びやかな紫色のドレスで(くる)んだ腹をゆすゆすと揺らしながら。


「アタシはマンドルマ。正確には、アリオーネ=ミルレンダイン団の現頭領さ」


「……ああ、そういえば、あなたはそのつもりだったんだっけ」


 セグレスに聞いた話を思い出す、彼女はみんなを助けることで、ミルレンダインを吸収したつもりでいるって話。


「でも悪いけど、あたしは正当なミルレンダインの次期頭領だったの。元々の頭領マウファドが死んだ時点であたしが頭領になった。他の団員がなんて言ったってそれは意味がない。あたしが認めてない以上、あなたはミルレンダインの長じゃないんだよ」


 そう言ってやると、マンドルマはぎょろりと、醜い目玉を大きく開いてこちらを睨んできた。ああや、いけないいけない。口喧嘩しに来たわけじゃないんだ。下手に出て機嫌を取る気はないけども、挑発に挑発で応えて剣を抜くしかなくなっちゃうのも望ましい展開じゃない。


「そうかい。それなら――」


「ああ、ごめんなさい。でもそんな話の前に、聞いておきたいことがあるんだけど」


「聞いておきたいことぉ?」


 またも目玉を大きく動かし、顔を大きく顰めてみせる。指先だけ動かして、片方の青年を自分の方に呼び寄せて。持たせたトレーからグラスを掴んで口の端っこにくいと流し込む。


 気にせずあたしは、話を続けた。


「あなたたちは、ヴォルハッドのことをどう考えているの?」


「はっは! 何かと思えばそんな話かい。どうとも考えちゃいないよ、あんな新興の寄せ集め集団」


「そうなの? じゃあ、アリオーネ団には相応の備えがあるってことなんだ」


「備え? 冗談じゃない。アンタたちが負けたからって、過大評価を他所に押し付けるもんじゃないよ。あんな連中に何の備えがいるね。もし連中がこのアリオーネを襲撃しようって腹でも、普段から厳重に警備を張り巡らしてるこの根城には到底入り込めやしないよ」


「ははぁ、成程ねぇ。じゃ、ここに籠ってりゃうちの前頭領、マウファド並の実力者が四人も揃った二百人からの戦闘集団に襲撃されても、守り切れるって寸法なんだ」


「……なんだって?」


「四人のうちの一人は、ついこの前はセラムのグァルダード本部に押し込み、数十人のケーパやらグァルディオンやらに囲まれてもろくに掠り傷もつけられず、悠々と帰っていったわ。そいつがどうやら連中の最強の札でもないどころか、更にその四人の後ろにはあのユイス=ゼーランドを名乗る人物がついている……、ってこんな話はもうそこらのグァルダードで聞いてるよね」


「…………」


 お、どうやらあたしの話を聞いてくれてるみたいね。まるきり無視される可能性もあったけど、思ったより小心みたいでよかったわ。さて、じゃあこの後はどう進めるか。


「もしよければ、協力しない?」


「協力だって?」


「そう、協力。あたしは、ここしばらくセラムでの活動を主としてきたからね。連中の情報なら、かなりの量持ってる。それに今現在も、あたしの仲間が奴らを攻略するために動いてる。手を結んで損はないと思うけど」


 胸を張り、強気に出た。こういう交渉事に明るいわけじゃないけど、虚勢だろうが弱気を見せちゃダメだってことくらいはわかる。


 ま、そんなことはマンドルマだって重々承知だろう。彼女の場合は弱みを人に見せたくない、負けず嫌いな性格の方が大きな要因かもしれないけど。とにかく彼女は、あたしの話を聞くなり、大口開けてがははと哄笑してみせた。


「そんな話にこのアタシが頷くとでも思ったのかい。アタシはね、オマエが思ってるよりもずっと、優しくて懐が広いんだ。だからアンタのことも、殺したりなんかしない。今ここで捕まえて、アタシが徹底的に教育し直してあげるよ。そしていずれは立派なアリオーネ団の兵隊として使ってあげようって思ってるんだ。


 その後になりゃ、アンタが持ってる情報なんて、アンタの方からどうぞどうぞと献上する気になってるさ。いいかい? ここでアタシがアンタと協力関係になる意味なんかカケラもない。その辺り、よく考えることだねぇ」


「あたしが、素直にあんたの言いなりになるとでも?」


「してみせるさ。時間かけてもね」


「時間をかけて、ね。鮮度の落ちた情報にどこまで価値があるかしらね」


 ぐっと、マンドルマの表情が歪む。笑顔と怒りの区別は付けにくいけど、感情表現自体は豊かだ。


「ねぇ、マンドルマさん。あたしは別に、あなたたちと喧嘩しに来たわけじゃないんだ。まずは話し合いがしたい。だからこそこうして、単身であなたの前に乗り込んできたのよ。あたしの願いは二つ。ミルレンダインの仲間たちを、なるべく早く返してもらいたい。それから、ヴォルハッドの連中をどうにかしたい。それだけだよ。もしあなたたちと手が組めるなら、あたしも、あなたが望むことを果たすためにできる限りを費やすよ」


「……アンタに何が用意できるって言うんだい。ミルレンダインの名前だって渡す気はないんだろ?」


「そんなものでいいの? いいよ、あげるよ」


「は?」


 ぐっとソファに右手をつき、上半身を起こしてこちらを睨んでくる。


 二人の青年が、ほんの少しだけマンドルマに近付いた。出過ぎないように、それでいて、マンドルマがソファから転げ落ちそうにでもなったらすぐに助けられるように、それとなく。


「そ、そんな……、そんな簡単に手放せるもんじゃないだろう! 何を企んでるんだい」


「何も企んでないよ」努めて冷静に。「名前なんかより、みんなを助ける方が重要なだけ」


「だ、だけどオマエ、さっきはオマエが認めなきゃミルレンダインの長じゃないって――」


「そうだよ? だから、正式に認めようかって」


 困惑ながらの怒声のいちいちに、声音を抑えながら答えていく。あまりの狼狽えぶりについつい小さな挑発を挟みたくなっちゃうけど、そこは我慢しながら。


 あたしの一存でその名を手放してもいいか、正直怖く思うところだってある。


 けど、所詮は名前だ。みんなの無事には代えられないし、おまけに、確かに団は壊滅したんだ。


「……ダインの跡継ぎも、もういないしね」


 マンドルマに隠しつつ一瞬目を伏せて、小さな溜息を吐いた。


「…………」


 マンドルマはソファに座り直し、組んだ右足の膝の上に、頬杖をついてこちらを睨んでいた。その表情、この上なく不機嫌な様子。利益不利益の計算が頭の中でどうなってるのかはわからないけど、少なくともあたしとの話し合いが思い通りに進んでない、そのことに対しては顔に出るくらい不満なんだろう。


 少し、待つか。


 あたしも一つ深呼吸して、姿勢を正し、しばらくの間口を噤んだ。




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