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2 節間ー3. シーラ・リュスタル=ミルレンディア.3







「見えてきたよ、アリオーネ団の根城だ」


 一週間駱駝に跨り続けてようやく、あたしとセグレスはその目的地に到着した。


 外から見た様子は、ミルレンダインの根城にも似ていた。ごつごつした岩が大きな円蓋をつくり、岩場を広く覆っている。入り口は木組みの門。遠目からも見える位置に、門番役の女が二人、槍と盾を手に立ってる。


 ミルレンダインと明確に違うのは、その円蓋も、壁も柱も、多分人の手で作られたんじゃないかってこと。どうやって作ったのかは想像もつかないけど、自然にできたものにはどうにも見えなかった。


「あの門のところが入り口だね?」


 セグレスに確認する。


「そうだけど……。まさかっ、このままつっこむつもりかっ?」


 もちろんそのつもり。頷くと、セグレスは慌ててあたしの前に回り込んだ。


「冗談だろ、無策で敵の懐に入り込むなんて自殺行為もいいとこだ! まずは作戦を練ろう、な?」


 セグレスが、必死になってあたしの足を止めようとする。それはまぁ、当然だと思う。


 でもあたしはあたしで、ひとつの直感を持ってた。根拠なんてホントに何にもない、いつもの勘に比べてもただの想像――というより妄想に近い直感なんだけど。けど、ここでこれに従う方が、あたしらしい気がするんだ。


 狂ったリズムを元に戻すために、ここではあたしは、自分のこの直感に従いたかった。


「まぁ、まるで何にも考えてないってわけじゃないしさ。まずは一回、正攻法で行こうかなと思って」


「いやいやいや、でもな。ちょっと待て、な? 連中、特にマンドルマの奴は、従わないならシーラを殺せって命令した奴だぞ。まともな話なんてできるわけないだろ」


 強く止めようとするセグレスを、それよりも強く押し切って、あたしはアリオーネの根城、入り口に駱駝の鼻面を向けた。「どうなっても知らないぞ」なんて、結局どうにかなったら尻拭いをしてくれる苦労性のセグレス。諦めの溜息を吐きながら重い口調ですぐ後ろをついてくる。


 それでも、セグレスもほんの少しだけ、楽しそうに鼻で笑ったのを、あたしは聞かなかったことにしてやった。


「止まれ」


 門番の二人の女が、いよいよ門の前に立ったあたしたちの足を止める。


「セグレス・ローマイアだ」セグレスが先に名乗る。「頭領の命を果たし、セラムよりミルレンダインの頭を名乗る者を連れてきた」


「…………よし、通れ。伝令! 頭領様に、ご報告してこい」


「は」


 道を遮るように槍を突き出していた門番が、その槍を収め、後ろを向いて別の女に指示を出した。同時に、もう一人の門番が木戸を開けてくれる。


 導かれるままに中へ入ると、途中でセグレスと引き離された。


「客人はこちらへ。頭領がお待ちです」


 鼻から下を薄い布で隠した目の鋭い女が、あたしを駱駝から降ろし、円蓋の中央方面にある扉に、あたしを案内した。円蓋の下は、石の壁と柱で細かく区切られていた。団員の居住区やら何やらがある中、中央の一番大きな部屋が頭領の部屋、っていう造りなんだろう。


 その広い部屋は、岩で囲まれたとは到底思えない、華美な装飾が施されていた。一面の壁は、恐らく外国から取り寄せたんだろう、細かな刺繍が施された大きな織物で覆われ、床にも、踏み心地のいい毛足の長いふかふかの絨毯が敷き詰められている。円蓋部分は、外から見たらただの岩だったんだけど、中から見ると大きく円環状にガラスが張られた部分があって、外の明るさを引き込んでいる。


 ガラス部分以外の天井は、剥き出しではあるんだけど、それでもよく見る岩肌とは違う、大理石とか何とかで覆われているような、真っ白な色を見せている。天辺からは鎖につながれて、金色の多灯式照明燭台(シアンディライア)が煌びやかに吊るされてる。


 そして、ぐるりと部屋を見回すのもそこそこ。一番すごいものが部屋のど真ん中に置いてあった。グァルダード本部やセラムの宿にもなかったほどの、大きくて瀟洒で柔らかそうな、薄いピンク色のベッドソファ。白い透かし(レーエス)の装飾布がかけられている。


 その上に、それはいた。


 肘置きに大きな頭を乗せて、金色の髪を肘置きからはみ出させて、肉に塗れた頬と体を億劫そうに横たえて。目鼻や首や腰、人の体に必要なあらゆるものを肉に埋もれさせ、表情も顔面の肉の重みで潰れた蛙みたいに歪ませながら、こちらを見ていた。濃い紫の服を体に巻き付け、横に二人の若い青年を侍らせ。一人はグラスの乗った盆を持ち、一人は大きな扇でそのソファの上のものを扇いでいる。


 あれ。思ってたよりずっと難しそうなイキモノだな。さっきまでの直感じゃ、もうちょっと意思の疎通ができるんじゃないかって思ってたんだけど。……ううん、見た目で判断しちゃダメ。最初の自分の直感こそ信じるべきだよ。


「フフ」


 おっと意外。第一声より前に零れた、そのイキモノの最初の声色。何やら笑うようなその声は、だけど声ばっかりは女のあたしから聞いても随分色っぽい、艶やかな音色だったんだ。


「よく来たねぇ、マウファドの娘っ子。歓迎するよ」


「それはどうも。ええと、アリオーネ団現頭領の、マンドルマさん、でよかった?」


「マンドルマ・リルタ=アリオーネだよ。人の名前は事前に調べて覚えておく方がいいわね。特にアタシみたいな有名人の名前はね」


「それは失礼したわ。なら、賢明なマンドルマ頭領にあたしの名乗りなんて不要なわけか」


「躾のない小娘だこと。自分の名前もろくに言えないなんて」 


 にまりと、腹を撫でられた蛙みたいな、潰れた顔を見せた。


 おおっと、こいつはめんどくさいぞ。セグレスの話を聞いたときにはいけ好かない奴だと思ったけど、やっぱりそのときの感覚の方が正しかったのかな。うん、実際に対峙してみて今のとこ、あたしの全身が「コイツ嫌い」って言ってるんだけど……。まぁでも、もう少し話をしてみようじゃない。





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