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2 節間ー1. シーラ・リュスタル=ミルレンディア.1








 宿のベッドの上に、あたしとウェル、二人きりだった。


 二人で話がしたいと、ミディアに頼んで一晩部屋を代わってもらった。彼女は今頃、隣室でゼノンと一緒にいるとはず。少なくとも、今晩この部屋に戻ってくることはない。


 ウェルの寝顔を見詰める。油断しきったその顔に、あたしもふと気を緩ませてしまう。


 静かな寝顔、その額にそっと口をつけ、それからゆっくりと顔を上げて、彼の体の上から下までを目でゆっくりと睨めた。


 ゆっくり話がしたいんだ、と言ってウェルを呼び出し、酒瓶をしこたま買い込んだ。穀物酒も果実酒もごちゃ混ぜに、二十本は並べたかな。こんなに買ってどうするんだよ、とウェルも苦笑してた。


 下らない話をたくさんして、それからかなり酒が回り始めた頃、少し真面目な話をした。


 いつもあたしを助けてくれてありがとう、なんて柄にもない。それでも、酒の力を借りてそんなことを言いたい気持ちになっちゃったんだ。……ううん、白状すると、酒の力を借りてそんなことを伝えるのは、今夜の目的のひとつ。


「さっきからごめんなさいだのありがとうだの、どうしちゃったんだ? シーラらしくもない」


「何それ。あたしだって謝罪も感謝もするよ。必要があればね」


「よく言うよ。散々無理矢理押し倒そうとして、薬まで盛ろうとして、俺は一度だって謝ってもらったことなかったぜ?」


「それは謝る必要ないことだし。女が男を奪うための手段なら、どんなものでも罪にはならないんだよ」


「いやなるし」


 冷静にツッコみながら酒を呷るウェル。相変わらず流されない奴だなぁ、ウェルは。


「でもさ」軽く笑って、あたしは聞いた。なるべく、冗談めかして。「実際ウェルは、あたしのこと、まだ、好きじゃないんでしょ?」


「語弊があるなぁ」めかした冗談をしっかりと受け取ってくれたみたいに、ウェルも笑って。「恋愛対象じゃない、だけだよ。友達として、仲間として、シーラのことは好きだ」


「その、恋愛対象じゃない女のために、なんでウェルはそこまでしてくれるの?」


 もうひとつ用意していた本題に、そっと入った。ウェルに気付かれないように、そうっと。


「なんでって、言った通りだよ。シーラは大事な友達で、仲間だ。きっかけはともあれ、この国に来たばかりで右も左もわかんなかった俺にいろいろ教えてくれた。シーラが困っているのなら、今度は俺がシーラの力になる番だ、って思ったんだよ」


「ウェル……」


「もちろん、俺の中にミルレンダインのみんなの仇を取りたいって気持ちも、マウファドを倒すほどの連中に真っ向勝負で勝てるくらい強くなりたいって気持ちも、本当にあるよ。マウファドの気持ちにも応えたいしね。それはそれで本当だけどさ」


「父さんの気持ち?」


 聞き返すと、ウェルが少し慌てた。口を押え、「あ」と声を漏らして、小さくグラスを傾けて喉を湿らせる。そして。


「……まぁ、別に口止めされたわけでもないしな」


 小さく、独り言ちた。


「なに?」


「いやその、マウファドに頼まれたんだ。シーラのことを頼むって。一人で歩けるようになるまで、傍にいてやってほしいって」


「は?」


「最初は意味がわかんなかったけどさ。言われた直後にヴォルハッドの襲撃があって。まるでマウファドの奴、未来が読めていたのかなって――、実際そんなわけないんだけどさ。もしほんとに読めてたら、まずはミルレンダインを守る対策を第一にしてただろうし」


「…………」


「でもなんか、タイミングが絶妙過ぎてさ。とにかく俺にはマウファドのあの言葉が、遺言みたいに思えちゃったんだ。だから、マウファドの遺志に応えるためにも、シーラの傍にいようって決めたんだ」


 饒舌に語るウェル。その言葉の多さが、口調の熱っぽさが、あたしの腹を煮え立てた。あたし自身、何に対してだかわからない、急になんだか全部どうでもよくなって、机の上に並べた酒瓶を全部ひっくり返して割って、部屋に火をつけてやりたい気持ちに駆られた。


「じゃあ、ウェルは父さんの遺言だったからあたしと一緒にいてくれたわけっ?」


 違う。


「え? いや、マウファドに応えたい気持ちもあるって言っただけだよ。実際マウファドにも世話になったしさ。ちょうどそれが俺のやりたいことと合致してるなら――」


「あたしを子供扱いして! 父さんも仲間もいなきゃ何にもできない世間知らずだって思って!」


 違う、違う。


「な、……何怒ってるんだよ。シーラが世間知らずなんて、そんなわけないだろ? ここまで俺がどれだけお前に頼って、色々教えてもらったと思ってるんだよ」


「そんなんだったら最初から大っ嫌いだって言われた方がよっぽどマシだよ! 魅力の欠片もない女だけど遺言だから仕方なく一緒にいてやるよって言えばいいじゃない!」


 そうじゃない。ウェルがそんな風に思ってるわけじゃないことは、あたしだってわかってる。そんなことであたしは怒ってるわけじゃなくて――。


「どうしたんだよ、シーラ。おかしいぞお前。本気でそんなこと言って――……」


「父さんの気持ちに応える前にあたしの想いにも応えてよっ! ファザコンの幼馴染なんかより、そこらの娼館の花売りなんかより、あたしが一番ウェルのこと大好きだよ? ねぇ、ウェルはそんなに、あたしのことが嫌い?」


「シーラ……」


 多分、結局、あたしが言いたかったのはそれだけのこと。


 気付けばあたしは椅子を倒して立ち上がって、ウェルのすぐ前にまで歩み寄って、ウェルのすぐ鼻の先に顔を近付け睨み付けてた。


「や、……近いって」


「答えて。ウェル」


 じっと、見つめる。ウェルの両肩を掴んで。もうごまかせない。ウェルにも、あたし自身にも、ごまかすことを許せない。




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