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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十七節 ハーンの街の少年剣士
123/177

2-17-3.「セーラさんもお変わりないようで」







 ともあれ宿だ。街並みがわかりにくくあちこち探し回ってしまい、やっと一軒見付けた時にはすっかり日が暮れてしまっていた。


「いらっしゃいませ、お早いお付きで」


 小さな宿の玄関広間。窓がなく、蝋燭の明かりだけで灯された薄暗い広間の一番奥に、髪の毛が薄くなった壮年男性がこちらを見て小さく会釈した。商売っ気のない、といってライトラールの宿ほど投げ槍でもない、適度な距離感の挨拶だった。


 建物自体もよい雰囲気だった。装飾は最低限でざっかけなく、さりとてぼろいわけでもない。煉瓦でできた壁。木造の天井と床。ガラス張りの窓は大きすぎず、さらに分厚い白いカーテンが吊られていて、日差しの強さによっていつでも陽の光を遮れるようになっている。


 客室の様子も確認する必要はあれど、第一印象としてはなかなかのもの。少なくとも俺はいいんじゃないかと思ったし、ミディアも横でうんうんと頷いていた。


 受付の男に確認を取ったところ、値段もまた、今の手持ちでも四人で一か月は泊まれる程度の手頃なところ。ヴォルハッドの調査をしながらグァルダードで稼ぎを上げて生活の基盤を整えるのに、一か月あれば十分だろう。……むしろ、それまでに全部終わらせたいくらいだ。


 建物の最上階、五階に並んだ二部屋を取り、寝台の上に剣と小さくまとめた荷物を投げ下ろして、大きく一つ息を吐いた。寝台が二つと荷物を入れる大きなロッカーが一つ、それだけの部屋だったけど、十分に清潔で安全だった。


「あいつがいないと部屋割りもすぐに落ち着いて、楽なもんだな」


 ニヤニヤとゼノンが笑う。


 やめろよ。俺は少しした苛立ちで答えた。今あいつがいないことをそんな風に言われるのが、あまり気持ちよくなかった。


 部屋に荷物を置いて、すぐにまた外に出て、ミディアとレマと合流する。次の予定は食事。先にそう決めていた。


「いい部屋だったな」


 俺が言う。


「フツーでしょフツー」


 ミディアが答える。


「できたら、書き物ができる机があると嬉しかったでます」


 レマが素直に肩を落とす。


 そうか、情報収集班にはそういう需要もあったかと、別角度の見方に感心した。




 宿に隣接した食堂に入ると、ここでまた驚きの出会いに襲われた。


「え。うそ、ねーちゃんっ?」


 最初に反応したのは向こうだったけど、最初に声を上げたのはゼノンだった。


 店の入り口に程近い席に、セーラさんが座っていた。少年と二人、向き合って食事をしていたよう。入り口向きに座っていた彼女が真っ先にこちらに気付き、例の優しそうな穏やかな微笑みで小さく右手を振ってよこした。


「お久しぶりです。皆様ご壮健のようで何よりですわ」


「お陰様で。セーラさんもお変わりないようで」


 寄っていって挨拶を返す。別に何やらの感情を込めたつもりもなかったんだけど、口から出た言葉はちょっと冷たい感じになってしまった気がする。どうも、俺も彼女の迫力に飲まれてしまっているのかもしれない。


「もしよろしければご一緒にどうですか? 少しお話したいこともありますし」


 そう言って、空いている隣の席を指差すセーラさん。そりゃあ構わないけど……、言葉を途中にしながら、俺はそっと彼女の向かいの席に目を向けた。


 突然現れた俺たちに委縮するように、彼は、小さなグラスに注がれた飲み物を両手で抱えて、繰り返しちびちびとその端に口を付けていた。


 薄い麦穂の色の前髪でその目をしっかりと隠し、濃緑の上着をしっかりと着込んだ肩を小さく丸めて。表情もよくわからず、座っているので身長も測り辛い。なので特定が難しいんだけど、更に言っちゃえば少年か少女かすら確証持てないんだけど、それでもぱっと見の印象だけだと十二、三くらいの男の子、……だろうなと思う。


 俺が少し困りながら彼のことを見ていると、少年はびくりと肩を震わせ、怖ず怖ずとグラスを机に置いた。


「彼のことなら気になさらないでください。と言いますか、ぜひ彼のことを皆様に紹介したかったのです」


「へぇ。ただのあなたの趣味かと思ったけど、私たちにも関係のある人なの?」


 早速、椅子を引いてどっかと尻を落としながら、ミディアが棘のある言葉をセーラさんに投げつけた。無闇に喧嘩を売るなよと、俺はわざと声に出してミディアに言う。セーラさんはどうやら気にしていない様子で、相変わらずにこにこと微笑んでいた。


 皆、続けて席に座る。二人掛けの机を横から動かしてきて、総勢六人、座る席を確保して。ミディアはセーラさんの並び、反対の角。間にゼノンが座り、三人並ぶ。レマはミディアの正面。レマにもまだセーラさんのことを紹介していないのに、済ました顔で端の席に座る度胸はさすが。最後に俺がレマと少年の間に座ると、少年がびくりと右肩を震わせて、こちらを見て寄越した。


 全員が席に着いた頃合い、女性店員が声を大に近付いてくる。この店も店員が客の注文を運んできてくれる形らしい。けど選べるメニューは肉か魚の二種類だけ。とりあえず全員肉料理を頼み、ついでにゼノンを除く三人は酒も頼んだ。




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