2-16-7.「二手に分かれるか」
「つまり、ヴォルハッド団は、その仕事の依頼主と何らかの繋がりがあるってことかな?」
「恐らくそうだと思う」俺が答えた。「そうだよ、あの仕事自体、怪しいなとは思ったんだ。わざわざ外部に依頼を出す必要があるように見えなかったし、やけに金払いばっかりいいし」
「あるいは、依頼主がヴォルハッドの人間だったって可能性は?」
「それは薄いんじゃないかな。仕事の依頼主は、えっと、なんだっけな。ベイクードに邸を持ってる金持ちだって話だったけど」
「カルガディアって言ってた」
「ああ、そう。そいつだ」
またもセグレスに補われ、俺は少し恥じ入りながら指を振った。セグレスの奴、よく覚えてるな。素直にすごいわ。
「カルガディア……、サリナス・カルガディアか。聞いたことはあるけど――」
「ハルトスも知ってるのか。有名人なのか?」
「ダザルトの商人組合の重要人物だったと思う。もし同一人物ならね。多少の交流はあるから多分一度くらいは会ってると思うけど、正直顔は思い出せないな」
そっか、とシーラが肩を落とす。いやいや落胆する必要なんて欠片もないぞ。ここまで人物像がはっきりしてるなら、人となりの調査くらい簡単だろう。
「じゃあ、そのカルガディアの調査はハルトスに任せてもいいかな」
「え? 僕が調査するの? 僕、これでもグァルダードの組合長で、一応中立の立場なんだけどな」
「グァルダードとしてもヴォルハッドの情報は欲しいんだろ? それにもし商人グァルドの重要人物がヴォルハッドと繋がってるんだったら、俺達だけの問題じゃない、レアンとダザルトの国際問題にも発展しかねない」
半分くらいブラフをかましながら、然も当然の話だろとハルトスに視線を向ける。しょうがないなぁ、と頭を掻きながら了承してくれたので、どうやら功は奏したらしい。国際問題なんてあるわけないでしょう、なんて笑い飛ばされたら、黙り込むしかなかったんだ。
「じゃあレマ。悪いけど、ベイクードの支部長に確認を取っておいてくれる?」
「ぎにゃッ? あちしの仕事なんでますかっ?」
ああ、レマの無報酬業務を増やしてしまったか。それについてはちょっとだけ申し訳ない。まぁほんのちょっとだけだけど。
「結果については二、三日で出ると思うから――」「無茶でます! せめて十日――」「二、三日はみんな、この街で待機してもらえるかな。多分今後の予定もあったと思うけど、最低限情報の共有はしたい」
「は? 冗談じゃねーよ」声を荒げるはゼノン。「やっと連中の尻尾掴んだってのに、ただでさえ出発が遅れてんだ。これ以上のんびりしてられっかよ」
セグレスの回復を待つ一日が、どうやら随分長く感じられたらしい。ゼノン一人、早く西のヴォルハッドの潜伏地へ行きたくて仕方がなかったらしい。
正直、状況が変わった。得られる情報は残らず拾ってから動く方がいいし、それに――。
「ごめん、ゼノン。やっぱり、あたしはまだ西には行けない」
「あ?」
シーラが立ち上がってゼノンを振り返った。それから、部屋の中をぐるり見回し俺とミディアにも目を向けて。
「二人にも、ごめん。ヴォルハッドの連中は勿論、ボズロも、ガゼルダもみんなまとめてぶっ倒さなきゃいけないけど。……でも今はあたしは、死んだ仲間のためよりも、生きてる仲間のために動かなきゃ。あたしは、セグレスと一緒にアリオーネの根城に行く。ころころ意見を変えてごめんなさい」
決断まで早かったけど、その気持ちには重いものがあったらしい。シーラが「ごめんなさい」と謝るのを、初めて聞いた気がする。
怒鳴り付けようと構えていたゼノンも、何も言えなくなったようだ。握った拳のやりどころに困り、意味もなく自分の太腿を軽く叩いて終わった。
「まあ、それが正解でしょ」
ミディアも理解を示した。壁にもたれて腕を組み、吐いた溜息には若干の諦念も混ざったか。ともあれ、シーラの決断にふざけるなと罵倒を返すような人間は、ここにはいなかった。
「じゃあどうするでます?」やや冷えた空気の中、レマが二の句を求める。「全員でアリオーネ団のところに行くんでますか?」
「そりゃ――」
口を開いて言葉を発しようとして、ゼノンはそのまま、しばらく硬直した。
そして終に、代わりにひとつ息を発する。意気込みと現実とを擦り合わせた結果の溜息のようだった。
俺は、どうしたいか。
ゼノンの様子を目前に、自分の気持ちを見直す。
俺は、強くなりたい。そして、強くなった自分の証明に、ヴォルハッドを倒したい。その気持ちは、見つめ直してみれば、どうやら俺の中で一番強くなっているみたいだった。
ただ、マウファドとの約束は守りたい。
シーラを守っては、やりたい。
沈黙を破って、俺が出した結論は。
「……二手に分かれるか」
そういう、提案だった。




