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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十六節 グァルダード本部、襲撃される
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2-16-5.「何だって!」







「無事でましたか、よかったでます!」


 中に入ると、まずレマとミディアが出迎えてくれた。二階の会議室から、ここまで直接降りてこられるらしい。その道をレマに案内され、俺たちは一度二階に戻った。道すがらチラホラと見聞きできた様相、グァルダードの職員たちも随分浮足立っているようだった。


 外の様子がまだ正確に伝わっていないらしい。「ホントに大丈夫なのか?」「俺たちここにいていいのかなぁ」「けど、組合長が……」などと不安げな声を漏らしている。


「ったく、ここの連中ってば書類いじるしか能がないふわっふわな連中なのね」


 ミディアが舌打ちする。呆れる以上の苛立ちが含まれているようだったけど、真意もわからないしふわっふわの意味もよくわからなかった。


 二階の会議室に戻ると、そこには男が一人で座っていた。


「シーラっ!」


 男はこちらを見るや、真っ先にシーラの名前を口にした。心がざわついた。髪はボサボサ、肌もカサカサで、顔色もどす黒かったけれど、その男は、俺の記憶にもある相手だった。


「……うそ、セグレスっ?」


 シーラが息を飲んだ。


 セグレス・バルド=ローマイア。ミルレンダインの団員。サディオの親友で、あの何とかって金持ちの嫌精石を運ぶ仕事を一緒にやったメンバーだ。


「シーラ……、やっぱり生きてたのか。ああ、ウェルも、ゼノンも一緒か……。よかった。……本当に、よかった……」


「本当にあなたなんだね、セグレス。今までよく無事で……」


 シーラもセグレスも、正面からお互いの両肩を抱き合って、床に腰を落として。目に涙を滲ませ言葉を震わせて、喜び合っている。


 俺もつい、抱き合う二人の肩に手を乗せ、涙ぐんでしまった。顔をくしゃくしゃにして、泣きそうになりながら喜んでいるシーラを見ていると――、と思ったけど、この目頭の熱さはシーラを見守っていた分だけじゃなくて、俺自身の喜びでもあるみたいだった。


「ミルレンダインの人?」ミディアが聞く。


「そうじゃねーか? 多分」ゼノンが答える。


「よかったでますねぇ、うんうん」レマが勝手に納得している。


 生暖かくも温度差の激しい他の三人の目を他所に、セグレスとシーラと、それから俺は、しばらく再会の感動に浸ってしまった。




 憔悴していたセグレスは、そのあと二晩眠り続けた。


 宿まで連れて行くことも難しく、グァルダードの詰め所の寝台を借りることができた。翌々日の朝様子を見に行くと、少しはマシになった顔色のセグレスがちょうど目を覚ましたところだった。安心したのか、その顔を見てまたシーラが涙ぐみ、それでまたセグレスの方も声を震わせる結果となった。


 衣服を替えて、食事をして、ようやくセグレスも人心地着いたと言った様子。短く揃えた胡桃色の髪と少し垂れた紺色の瞳が、精悍な面立ちを取り戻させていた。


 改めての情報共有の目的で、俺たちはまたグァルダードの一室を借りた。レマは勿論、ハルトスまで同席してきた。


「あとであちしがちゃんとまとめてご報告するでますよ?」


 首を傾げるレマに、ハルトスは爽やかに笑い。


「ありがとう、君の仕事を疑ってるわけじゃないんだ。ただ、この情報は自分で直に確かめておいた方がいいって、直感が働いたんだよ」


 そう答えていた。


 セグレスを部屋の中央に座らせ、シーラがそのすぐ正面に。俺は二人を見守るようにして一メトリ程のところに立ち、レマがすぐ横で机に向かいメモを取っている。ゼノンとミディアはそれぞれ別々の部屋の隅。ハルトスがシーラの後方、セグレスの顔が見える位置に立って。そして話が始まった。


「ミルレンダインの襲撃から生きて逃げ出せたのは、多分、シーラたちと俺たちだけだと思う。こっちはあと、サディオとジェブル、ヤツミナ元副頭領たち。それから、戦えない女子供が十二人」


 セグレスは、残りの十二人の名前も丁寧に列挙した。当然、全員シーラが知っている名前。噛み締めるようなその横顔は、彼らの無事を喜ぶより、呼ばれなかった名前のことを考えているように見えた。


「最初は勿論、ベイクードの町を目指したんだ。けど追手がかかっちゃって、逃げ切れないってなって。驟雨(サークォール)が降り出してくれたのはラッキーだったよ。俺達はあの辺りの水の出方は知ってるし、それのおかげで追手をうまく撒けたんだ。

 近くの岩場でさてどうしようってなったとき、ちょうど、北のアリオーネの連中が通りがかったんだ。全部で五〇騎はいた。率いてたのは今の頭領のマンドルマだった。なぜここにって訊いた答えは、『ヴォルハッドの動きを察し、古い友ミルレンダインの加勢に参じた』だった。

 ああわかってる。誰もそんなこと信じちゃいないよ。本当にその気があるなら、先に情報だけでも使いを出してくれりゃよかったんだ。多分大規模な潰し合いを期待して、不抜刀の一人勝ちを狙ったんだろ。

 わかってたけどな、俺たちもどうしようもなかった。連中に助けを求めて、今はみんなアリオーネの根城にいる。とりあえずは無事だけど、みんないいように使われてるよ。特にサディオはマンドルマに気に入られて、あいつの従者みたいな扱いだ」


 何だって! シーラと俺と、声を揃えた。ミルレンダインの仲間たちが。ジェブルさんが。サディオが。他所の盗賊団に頭を下げて助けてもらい、惨めに使われているなんて。是も非もない状況は容易に想像できる、とはいえ忸怩たる思いがする。


「それで? あなたはどうやって、ここまでやってきたの?」


 シーラが先を促した。うん、とひとつセグレスが頷く。


「この前、ミルレンダインを名乗る集団がセラム周辺にいるらしいって情報が、こっちに入ってきたんだ。シーラたちのことだね。サディオもジェブルも、もちろん俺も、絶対にそうだって喜んでたんだ。けど、マンドルマの奴は納得しなかった。あいつは、俺たちを抱き込むことでミルレンダインを吸収したもんだと思ってたらしいんだ」


「は? 何それ」


「うん、その話は僕んとこにも届いてた」


 シーラの憤りを遮るように、ハルトスが机に両肘をついて嘲笑した。俺もシーラも強くハルトスを睨み付けたけど、不満を最初に言葉にして出したのは、意外にもレマだった。


「聞いてないでますよ?」


「一昨日の騒ぎがなきゃ、もう少し早く伝えられてたね。ま、ミルレンダインの独立権を認めないぞなんて今さら抗議されてもさ。この前の会合に来てないんだから、こっちも聞く義理はないよ」


 なるほど。ハルトスの元にもつい数日前に届いた話で、しかも聞く価値が欠片もないたわごとだって解釈なのか。俺が納得するのと同時、シーラの憤慨が落ち着いていくのもわかった。




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