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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十六節 グァルダード本部、襲撃される
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2-16-3.「因縁なら俺たちの方が深い。譲れないよ」







「話なら聞くぜ?」「ぐあ……っ」「片手間にな」「あぎゃあ……っ」「ほら何でも聞けよ」「う、うわぁあ――っ」


 悲鳴と、肉の切れる鈍い音とを合間に挟みながら、男は俺たちに話しかけてきた。歩調は、まるで緩めない。


 この状況で質問なんて思い付くか。腹の中で悪態をつき、ともかくも男の前に回り込もうと、足に、それから剣を握る拳に力を込めた。


「ぅらあああぁぁぁ――っ」


 豪快な声がした。


 ゼノンが、男のナイフを横から無理矢理に弾き、強引に動きを止めていた。足許には腹の出た男の顔。斬られるよりマシだろと、その頬を靴の底で思いっきり踏みつけている。


「へぇ」


 振るったナイフを弾かれたのが愉快だったとでも言うのか。男はべとついた笑みを浮かべ、やっと足を止めた。


「好き勝手しながら話なら聞くぜもねーだろうが。とにかく名乗れ! いい加減名前ぐらい教えやがれ!」


 男の足を止めた隙に、その向かった先、グァルダード受付の方に体を入れたゼノン。男の視線を正面から受け止める形で、大きな剣を右手に構えている。


 ぼんやり見ているわけにはいかない。俺とシーラもすぐその脇に駆け付け、道を塞いだ。


「なかなかやるじゃんか。いいぜ、ヴォルハッドのボズロ様だ。覚えときな、ガキんちょ」


「だっ、……誰がガキんちょだ! ラナマーヴェのゼノンだっ! ナメてんじゃねえっ!」


 ガギン、ゴギン、と(かね)(かね)の鳴る音がする。とてもそうとは思えない、粘ついた音。


 思い出す。この男――ボズロの剣。まるで水飴のようにしつこい刃だった。こんなに短いナイフで尚、同じく振り舞えるのか。


「はああぁぁっ!」


 遅れて俺も、剣を振り下ろした。前と後ろから挟み込めば、いかなこの男でも応じきれないだろう。


 そんな目算はあっさり崩れた。右手のナイフでゼノンの相手をしながら、ボズロは左手に着けた硬質の小手で俺の剣を受け止め、受け流す。


「余計なことすんなウェル! こいつは俺のエモノだ!」


「因縁なら俺たちの方が深い。譲れないよっ」


「はっは、ますますいいな。俺様相手に手出し無用だと!」


 二人がかりでも、ボズロの余裕は崩れない。


 いや、実は背後でシーラも風の魔法を使っている。空気を足に纏わりつかせようと、ボズロの動きを少しでも鈍らせようと。実質三人がかりだ。


「おらっ! ぅらあっ! どうしたどうした、もっともっと俺様を楽しませてみろや」


「抜かせっ、ンなことより他にも教えろ! お前の仲間の銃使いは何てンだ」


「あ? 銃使い? コルファスのことか?」


 ナイフを二回振るう、その一瞬の隙間。片方の眉を吊り上げて、怪訝な顔をするボズロ。


「そういやあの日、コルファスの奴も面白そうな相手に会ったって言ってたな。いや待て、おかしいぞ。あの変態野郎、珍しい銃を持った女がいたって言ってた気がするけど……。お前、銃も使うのか?」


「銃は使わねーし女でもねーよ! そんな奴のことなら知ってるけど――」


 一際大きく剣を振りかぶったゼノン。振り下ろした刃が、ナイフに触れて火花を散らす。


「俺よりそいつのことが面白かったってのかよ! ふざけんじゃねーぞっ!」


「俺様が知るかっ、コルファスに聞け!」


 強引にナイフを振り上げ力任せにゼノンの剣を押し上げるボズロ。本当に、こいつの腕力にはまるで限界が見えない。


 ゼノンと俺と、魔法援護のシーラ。三人がかりでどうにかボズロの相手ができている。そう感じていたのは、どうやら錯覚だったらしい。気付いたときには俺たちは、ボズロが目指していたと思しき職員控室の扉の前に立たされていた。


「さぁて到着っと。歓談タイムはここで終わりかな」


 にやり、口の端を歪に持ち上げてゼノンと俺を見下ろすボズロ。


 どう動くのか。角度もタイミングも読めないけど、腹積もりは読める。俺とゼノンとをその剛腕で弾き飛ばして、それから悠々と後ろの扉を蹴破るのだろう。


 わかっていて、構えが取れない。どの角度から攻撃が来ても、多分俺とゼノンはあっさり弾き飛ばされちゃうだろう。


 ゼノンも同じ読み。隣から歯軋りが聞こえる。


「さぁ。じゃあそろそろお開きにしようか」


「あたしにも聞かせなさいっ!」


 いよいよ。ボズロが握り締めた拳をゆっくりと持ち上げようとしたその瞬間、激しく声を上げたのは、シーラだった。


「ん? ああ、ミルレンダインの髭の娘か」


 振り返ったボズロ。ここまでの魔法援護なんて蚊の飛ぶ音程も気にしてなかったと言いたげに。それでも、シーラに対しても友好的な応対で。


「いいぜ、お前こそ聞きたいこともあんだろ。少しくらい相手してや――」


「なんでミルレンダインを襲った……っ!」


 ボズロの言葉に言葉をかぶせ。握った拳を震わせて、シーラが声を張り上げた。


「なんで、ミルレンダインを潰したっ!」


「そりゃ簡単だ。ヴォルハッドはいずれ砂漠中の全ての盗賊団とグァルダードを潰すつもりでいるからだ。順番が、遅いか早いかだけの話だよ」


「……なんでミルレンダインの順番は早かったんだ?」


「あ?」


 今度は俺が聞いた。


 ついさっき、みんなで情報共有し、議論した話。「アグロが情報を流したから」っていう一つの結論に落ち着きはしたものの、俺自身は何やらの違和感を覚えてた。こいつら程圧倒的な力を持った連中が、ボズロが引き渡せるような情報でわざわざ狙いを変えるだろうか。特にあの時は、雨季を迎える準備はしていたものの、特にミルレンダインに大きな隙があったタイミングじゃない。


「お前らの拠点が西にあるなら、もっと近場に手頃な盗賊団があるって話じゃないか。なんでわざわざ、砂漠を横断して東の端のミルレンダインまでやってきたんだ?」




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