2-15-4.「どういう意味だと返すほど、俺も物知らずじゃない」
「ここにいるだろ」
やっぱりにたりと目を細め、ぐっと首だけ前に寄せて俺の顔を睨め付けてくる。ここに?と一瞬訝った後、さすがにすぐに理解した。
「そういうこった。引き合わせたんだから俺の仕事は満了。後はあんたらはこいつとよろしくやって話を聞き、俺はあんたらの支払いで一晩好きな子と遊ぶって寸法だ。問題ねーだろ?」
「いや問題はあるな」
俺も上半身を机の上に乗り出させ、バラーバを下から睨み付けてやる。
「完了報酬は、情報に価値があることを確認したらって話だったはずだ。先に開示しろ、でないと金は払えない」
「それがなァ。コイツが、それじゃあ旨味がないって言うもんでな」
へへ、と頬を酒で赤らめ、頭を擦るバラーバ。どういうことだと睨み付けると、話にジーナが割って入ってきた。右手でゼノンの、左手で俺の太腿に手を伸ばし、擦りながらえへへと笑いかけてくる。
「ただ話をして終わりっていうんじゃ、私がつまらないもの。情報を持ってるのは私なのにさ。だから、話は上の個室でしたげる。どっちかが一晩私を買ってくれたら、話もするしサービスもするわ。悪くないでしょ?」
にひひ、と白い歯を揃えてジーナが笑う。
どういう意味だと真顔で返すほど、さすがに俺も物知らずじゃない。最初にハルトスにも教わった。この店はまず広間で酒と女たちの踊りを楽しみ、そこで選んだ女と今度は上階の個室に行くって流れだそう。
悪くないかと聞かれたら……。正直勘弁してほしい条件だ。
「実際、ジーナはどんな情報を持ってるんだ?」
ハルトスが口を挟んだ。これはいつものレマの仕事。相手の情報開示に不透明性があると、グァルダードの視点で質問を補足してくれる。
「ですから、それはベッドでって――」
「何についてか、くらい言えるだろ? どんな情報をいくつ持ってるのか。それで、この男に報酬を払う価値があるか決めようぜ」
ああ、それくらいでしたら、と頷いて、ジーナはうーんと指を下唇に当てた。
「そうですねぇ。私が持ってるのは、常連の、ヴォルハッドの一員って名乗ってた男のことなんですけど……。とりあえず思い付くところで、あいつの好みのタイプとか、好きな体位とか、プレイとか?」
心から、いらない。
「合間にどんな話をするかとか、……あいつが盗賊団に入ったきっかけとか。今はどこで活動してるかとか」
「それっ!」
バン、と両手で机を叩いてしまう。うわ何、びっくりした、とジーナが胸を押さえるけれど、脅かして悪いと謝る余裕も、俺にはない。
「活動拠点、聞きたい。教えてくれ。あいつらは一体どこへ行ったんだ?」
「……じゃあ、価値のある情報があるってことね。それなら交渉は成立。あとは、どっちが買ってくれるかって話だけど」
「う……」
なんなら二人で買ってくれてもいいわよぉ、なんてとんでもないはしゃぎ方をするジーナに、今度は俺が委縮する。しまったな、俺には彼女を買うつもりなんて欠片もないんだった。金はちゃんと払うから、何もしないで話だけってわけにはいかないものか……。いや、行くよなきっと。その方がジーナだって楽なはずだし、よし、提案してみて――。
「ウェル。ここは重要な情報を得るためだ。グダグダ言うのはやめようぜ」
と、まるで俺の心中を見透かしたように、ゼノンが声を低くしてそう言ってきた。
どういう意味だ、と背中に冷や汗を走らせながら聞く。ジーナ越しに見えるゼノンの横顔は、俯き加減に真っ直ぐ机のグラスを見つめ。――かと思うや、突然顔をぐわっと上げ、そのままの勢いで立ち上がってこっちを見下ろしてくる。
「ここは俺が行く! この女をしっかり攻めて、情報を根こそぎ聞き出してきてやるよ!」
いや、やる気なのかよ。
「きゃあ! あなたがお相手してくれるのね、嬉しいっ!」
ジーナも歓喜。どこまで本気が、どこから演技か知らないけど、立ち上がったゼノンの右手に腰を浮かして抱き着き、肩に頬擦りしながら肘から下を自分の胸に当てている。
へへ、と鼻の下を伸ばすゼノンに、酒を一口舐めながら一応確認する。
「……いいのか、任せて」
「おう! 大事なことは全部聞き出してくるから、安心して待ってろよ!」
「うぅん、奥の奥までちゃぁんと調べてねぇ」
わざとらしいジーナの甘え声に鳥肌が立ちそうになるのを必死に隠し。楽しそうにジーナの手を撫で始めるゼノンに、「そんじゃ頼むわ」と棒読みで答える。
じゃあ早速行ってくるぜと、まだ半分も中身の残っているそれぞれのグラスを置いたまま、ゼノンとジーナはくっついたまま個室席を離れ、どこかへ行ってしまった。ゼノンの様子に呆れ半分、あいつ俺より年下の癖にこういうの慣れてんのかな、とちょっと複雑な気分にもなった。こういう店に来ること自体に落ち着かなさを感じる、俺の方が変なのかなって。
「へへぇ、いい感じに話が進んだぁね。じゃ、俺の支払いも任せたからな」
そう言って、手許のグラスをぐっと呷り、丸い大きな氷が一つ残るだけにした後、バラーバもどこかへ行ってしまった。どうやら相手の女性を探しに行ったらしい。あちこちふらふら動いては、手の空いている様子の女性に声をかけている。
「支払いって、どうするんだ?」と首を捻っていると、横からハルトスが教えてくれた。
「店を出るときに支配人にでも渡せばいいんだよ。額は教えてくれる」
ああ、なるほど。俺は軽く礼を伝えた。
「さて、どうやら仕事は片が付いたみたいだけど、ウェルはこれで帰るのかい?」
グラスの縁を撫でながら、ハルトスが質問をよこした。




