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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十五節 娼館、逆月のしずくにて
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2-15-3.「さっさと仕事の話をしよう」







「失礼しました。ミルレンダインのオレンジと申します。こちらはゼノン――、ええっと、エンポリル。本日はジーナの名で席を取って頂いていると聞きましたが」


「……ああ」グァルダードで言われた名前を伝えると、アルドアールはやや意外そうに目を見開き。「失礼、あなた方でしたか。確かに、お約束のお相手は先にいらしています。ご案内致しましょう」


 そしてアルドアールは、もう一度深く一礼してからようやく背中を見せ、店の奥へと歩き始めた。続いて歩く。ゼノン、俺、ハルトスの順。すぐ後ろを歩くハルトスに、小声で「何かまずいこと言ったかな?」と聞いたけど、問題ないと思うよとあまり緊迫感のない答えが聞かれただけだった。


 しばらく薄暗い廊下を歩いてから、扉を潜って広間に出る。世界が、一気に変わった。


 一言で言えば、狂熱。


 中は、空間ごと酔っ払っているような異様な雰囲気だった。


 部屋は大きく円形。中央に丸い舞台が置かれ、周りをぐるりと客席が囲んでいる。客席は、ねこの尻尾のようにくんねりと曲がった脚の、楕円形の木製テーブルに、皮張りの底の深いソファ。机の上に小さな蝋燭が一つ灯されている。


 その他、外周の壁の高いところに炎が揺れるランプが等間隔に。こちらは淡い桃色のガラスで覆われていて、部屋の外周を全面ピンクに染め上げている。


 中央舞台は逆に光の吹き溜まり。天井から床から、白を基調に赤青黄色緑、鮮やかな色合いが集められて明るくなっている。炎の光じゃないな。ミディアが「ハクネツデンキュウ」とか呼んでたマシーナだろうか。


 そして。ソファの八割以上は、羽振りのよさそうな男たちで埋まっている。どいつもこいつもグラスを片手にふんぞり返り、あの女はどうのその女はこうのと身勝手なことを言っている。自分たちのすぐ隣にも様々な格好の女を侍らせながら。


 一方彼らの注目を集めながら、舞台の上には薄い服装で妖艶に踊っている女性たち。皆、体に纏う布は胸と局部を覆うばかりで、中には胸すら曝け出している人もいる。


 あらゆる風景に見惚れながら、俺たちはアルドアールの後をついて歩いた。


「失礼致します。お約束の方がお見えになりました」


 案内されたのは、舞台を正面にした一番奥の部屋。大きな長机の三方を囲むソファ。その後ろ三面と、上を小さな壁で囲われ、個室のように区切られている。


 その席に、先に二人の人間が座っていた。


 一人は男。短く刈り揃えた坊主頭にくたびれた駱駝色の上着。垂れた細い目に愛想笑いがへばりついたような口許。汚らしくはないんだけど全体的にヨレっとしていて、十年履き潰した革の靴のような印象を受ける、年は四十代くらいのパッとしない男だった。


 一人は女。肩に少しかかるくらいに切り揃えた黒髪。染髪しているのか、生え際だけ少し色が薄い。少しだけ男に似た垂れ目勝ちの青い瞳と、似ても似つかぬ厚ぼったい唇。首から下は胸許深くまで肌色を見せ、赤いドレスと紫の首飾りで妖艶さを飾っている。


「よぉ、来たな来たな。まずは座れ、早く座れって」


 無暗な馴れ馴れしさで、男がソファをぽんぽん叩いて招いてくる。


 彼が仕事の相手なのは間違いないらしい。抵抗を覚える態度だけど、仕事は仕事。誘われるままにソファに座り、よろしくと小さく頭を下げた。


「ただいまお飲み物をお持ち致します。ご希望を伺ってもよろしいでしょうか」


 半歩下がってアルドアールが腰を落とした。俺は穀物酒の水割りを、ゼノンは炭酸砂糖水(シーデリャ)をそれぞれ頼んだ。また、先にいた男女も既にグラスを手許に持ってはいたけれど、中身は半分以上減っていたようで「同じものをもう一つずつ」とにたり笑って注文していた。


 ハルトスは、慣れた様子で「いつものを」と頼み、それから「あと仕事が終わった後、ミアを」と謎の注文を追加していた。全て理解した様子で、アルドアールは畏まりましたと深々頭を下げ、去っていった。


「さっさと仕事の話をしよう」


 真っ先に俺が口を開いた。正直、あまり居心地のいい場所じゃない。


 席順は、横に長い机、舞台を向いて右手側にハルトス。左手側に坊主頭の男。舞台を正面にした席に、俺、黒髪の女、そしてゼノンが右から並ぶ。女はさっきから、きょろきょろ首を動かしながら、俺とゼノンに交互に愛想を振り撒いている。


「まぁそう焦んなよ、とりあえず自己紹介といこうぜ。俺はバラーバ。こっちはこの店の女で、ジーナって名前だ」


 中身の少ないグラスを片手に、片方だけ目を吊り上げて男、バラーバが名乗った。あんまり気分は乗らなかったけど、まぁ見た目や状況で相手を判断するのもいいことじゃない。商談の相手に最低限の礼儀は必要かと、俺とゼノン、それからハルトスも名乗りを上げた。


「へぇ、驚いたな。組合長サマがご一緒たぁ、なかなかご立派な方々なんだなぁ」


「ハルトス様はうちのお得意様だもの。ちょっとした繋がりがあればすぐに来てくださるよ。私だって前に一度ご奉仕させて頂いたものね」


 片目を瞑って微笑みかけるジーナ。受け取るハルトスは額に冷や汗を乗せながら、「そ、そうだったかなぁ、あはははは」と乾いた笑いを浮かべている。


 ちょうどそのとき、飲み物が届いた。


「お待たせしました」


 グラスを五つ、銀の盆に乗せ。持ってきたのは小柄な女性だった。低い背、細い腕。子供のような童顔に、胸ばかり大きくシーラ並。何より驚かされたのは、その子が、上半身裸という格好でやってきたことだった。


「うわ」思わず声を上げる俺。そんな態度の方がおかしいのか、他の四人は涼しい顔で話を続けている。どういう店なんだここは。


「おっぱいくらいで何そんな慌ててんだよ。シーラので見慣れてんだろ」


 すぐ隣、ゼノンがにやついた顔でいじってくる。見慣れてねーよと小さく怒鳴って顔を背けた。


「そんで、バラーバさんとやら。あんたはどんな情報を持ってるんだ」


 目の前に置かれたグラスを手に取りながら、俺はもう一度男に話を向けた。いい加減嫌気が差してきた。さっさと話を聞いてこの店を出なければ。


 ところがバラーバは、飲みかけのグラスの中身をぐっと飲み干した後、平然と「俺は何にも持っちゃいねーよ?」なんて言ってのけやがった。


「は? どういうことだ。情報をよこすって話だったろ」


「そいつぁ、確認ミスじゃないか? 俺は情報をやるなんて一言も言ってねぇ」笑って、新しいグラスを自分の胸のすぐ前に引き寄せ。「情報を持ってる奴に引き合わせる、って言ったんだ」


 なるほど、確かにレマはそう言っていた。


「じゃあ質問を改めよう。そいつはどこにいるんだ?」




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