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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十五節 娼館、逆月のしずくにて
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2-15-1.「話が見えないけど、嫌な予感は広がってくる」







 ミラースと会った日から数日。ヴォルハッドと並べて「ダリオス」についての情報も募集したところ、集まるわ集まるわ。何年前に誰が殺された。何年前に何とか団が潰された。当時の「ダリオス・ファンダリア」は相当名前を売っていたようで、今までの進捗のなさから一転、俺たちは毎日情報を持ち寄る客たちの相手に追われるようになった。


 客からの話だけでなく、グァルダードにも古い記録がいくつかあり、その辺りの確認はレマに一任した。「信じられるますか? これ手当出ないんでますよ?」ブーブー文句を言いながら、それでもしっかり有用な情報をまとめてくれた。


 おかげで、敵の過去の行動記録については随分まとまった。一方で、現在のガゼルダの情報は一向に集まらない。ミディアの情報整理によると、ダリオスの活動は九年前の記録が最後で、それ以降の話は入ってこないらしかった。


 焦りもある。ミラースに下された、ガゼルダと俺の力量差。


 勿論今の時点で及んでいるなんて慢心してはいなかったけど、追い付くのが絶望的な程とも思っていなかった。よもや夜空の月ほども遠い距離にあると評されるとは。


 やっぱりもっと強い敵と戦わなければ。焦る俺は、グァルダードに集まる短期の仕事を片端から請け負っていった。シーラやゼノンの手も引いた。もっと強くならなきゃ、と声を大きく伝えた。


 どれほど剣を握っても、手応えは小さい。仲間たちにもなかなか、この危機感が伝わらない。焦らないはずが、なかった。




「ちょっと特殊な話が入ってきてるんでますけど」


 いつもの個室。受付の向こう側、レマが、少し言い辛そうに話を切り出してきた。


 呼び出されたのは俺とゼノン。なんだか不思議な組み合わせだ。


「どんな話だ?」


 俺とゼノンと、声を揃える。レマは書類を持ち上げ、ペンの背中で頭を掻きながら。


「ヴォルハッドの一員と会って話をした人物、を、知っているので引き合わせる。その人物のいる店に来て欲しい。報酬は、前金でその店の入店料。情報に価値があれば、その店 の最後までの支払いを持ってほしい。――ってことでます」


 なんだそりゃ。訳が分からず小首を傾げる俺に対し、ゼノンは横で、興奮気味に机に手を付き身を乗り出させている、


「それってひょっとして! なぁ、店の名前は何てんだ?」


逆月(さかづき)のしずく、でますよ」


「やっぱりかっ! なんだよなんだよ、随分いい依頼じゃねぇかよ!」


 よくわからない興奮の仕方をしている。欠片も聞いたことがない店の名前だけど、この辺りじゃ有名なんだろうか。


「意外でますね。ゼノンさん、お好きなんでますか」


「嫌いな男がいるかよっ! な、いつなんだ? いつの日付なんだよ?」


「慌てないで欲しいでます。まずは契約成立の回答をして、それから日時の折衝を行うでます。ゼノンさん、ウェルさんの希望はあるでますか?」


「いつでもいいぜっ! な、ウェル!」


「ああ、まぁ、いつでもいいけど……。でも、実際決めるのはシーラとミディアに相談してからでも――」


「バカかよお前、なんであいつらに相談すんだ。俺たちだけで行くんだぞ!」


「は?」


 拳を振り上げ力説するゼノン。


 疑問符で頭の中を埋め尽くされる俺。話の流れが、まるで見えてこない。


「まぁ、お二人だけの方がいいでましょうねぇ。どうでますウェルさん? 本当にいつでもいいんでますか?」


「え、えーと……」


「まぁ悩むようなら、後のことは組合長に聞いてほしいでます」


「え?」


 そこでなんでハルトスが出てくるんだ? また一個、頭の中の疑問符が増えた。組合長まで絡んでくる話なのか? 結構大ごとなのか、だとしたら余計シーラたちに相談しないとよくないんじゃないのか。


「今回はあちしも同席できませんでますからね。上にご相談した結果、今回の担当は組合長がするという話になったんでます」


「なんでぇ、いい汁吸ってんだな、あいつも」


 ニヤニヤと笑うゼノン。溜息交じりのレマ。


 なんだか話が全然見えてこないけど、嫌な予感だけはどんどん広がってくる。


「確認するんだけどさ。その、サカズキノシズク、とかいう店は――」


「ああ、ウェルさんはご存知なかったんでますか」


 レマが意外そうに目を丸くした後、努めて無表情を作り、淡々と。


「逆月のしずくは、レアンの国最大、最高級を謳っている娼館でますよ」




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