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遙かなるユイス・ゼーランドの軌跡  作者: 乾 隆文
第二章 第十四節 会合と情報と水泳肌着
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2-14-8.「俺の力を見てくれないかな」







「さて、私が提供できる情報はここまでだ。そこそこ価値があるのではないか、と思うが?」


 真意を語らない口が、話はここまでであると、そう告げた。


 すごく役に立つ情報ばかりだった、ありがとう。真っ先に立ち上がって礼を言うのはシーラ。次いでゼノンも、ミラースに歩み寄ってその二の腕を強く叩いた。


「こんないい話いっぱい知ってんだもんな、さすがミラースだよ。なぁ、良けりゃ、俺達と一緒に来てくんねーか?」


 仲間の誰にも相談しないで勝手に始めた勧誘。俺やシーラが口を挟む前に本人が断じた。


「断る。……この程度の話は、バスラやセーラも知っているはずだぞ。グァルダードに依頼など出す前に、聞きに行けばよいだろう」


「……姉ちゃん、教えてくんねーんだもん」


 ガキみたいに頬を膨らませて拗ねるゼノン。ミラース(かつての仲間)に出会ったおかげか、ずいぶんと可愛らしい。「一緒に来てくれ」なんて発言も、ひょっとしたら断られるのを承知の上で甘えてみただけだったのかもしれないな。


 ……それにしちゃ、一番甘えられるだろう実姉に会ったときは、終始怯えてたけど。


「それで、報酬はいくらと判断したんだ?」


 一方、甘えられたミラースは冷たいもの。拗ねたゼノンには一瞥もくれず、仕事の話にあっさり舞い戻る。


「そうでますね。あちしから見ても、今日のお話はずいぶん有用だったと思ったでます。ただ直接的な現在の彼らの情報はなかったでますから、このくらいが妥当かと思うでますが」


 レマが俄か、ポケットから取り出した紙切れに何やらさらさら携帯したペンで書き込み、全員に向けて見せる。示された数字を真っ先に覗き込むのは、ミラースとシーラだった。


「……渋いな」ミラースの感想。


「まぁ、いいとこかな」シーラの感覚。


 レマをじろりと睨むミラースは、どうやら内心ではあんまり面白くなかったみたいだ。けど、特に不満を主張することはなく、レマの計算に従ってシーラから金を受け取った。明朗会計。と言うよりあまり金に執着していないように見えた。


「余計なことかもしれないが、一つだけ忠告するぞ、監視員」ぼそりと、レマを睨んで。「受諾者に厳しい数字を出すなら、依頼人とはあまり馴れ合わない方がいい。信頼を失うぞ」


「だって! このないすばでー(・・・・・・)なお姉さんに、ぜひぜひ可愛い水着を着てほしかったんでますもん! 何だったら、もっかい着せてお客さんにもゆっくり鑑賞してもらいますでますよ? 目の保養、いかがでますか?」


 指を差されてそんなことを言われ、シーラがレマを睨む。


 指を差されなかったミディアも睨んでいる。


 そして、にひひと嫌らしい笑いでそんなことを提案され、ミラースも「いらんっ!」と声を荒げた。彼が感情を顕わにするのを初めて見た、それがまさかこんな会話だとは。


「もういいだろうっ! 話は終わったな、私は帰るぞ」


 語調を荒げて、踵を返すミラース。助かったよ、ありがとうと、ゼノンがその背中を叩きながら礼を言った。


 まだだ。最後にもう一つ、確かめたいことがある。俺はすっと立ち上がり、ミラースの前に立ちはだかった。


「なぁ、ミラースさん。あんたは、ガゼルダの実力を知ってるってことだよな」


 質問に彼は足を止め、「昔の、ならな」と小さく答えてくれた。


「ひとつ、頼みがあるんだ。……俺の力を見てくれないかな。あいつらと、どれくらい差があるか。傍から見た目で教えて欲しい」


 立ち上がって、じっとミラースを見つめる。彼はゆっくりとこちらを振り向き、前髪に見え隠れする鋭い目でこちらを睨めつけ。


 そしてしばらく、無言のまま立ち尽くしていた。


「頼む! ……いや、お願いしますっ!」


 腰を曲げ、頭を深く下げてミラースに頼み込む。ちょっとウェル……? 今の声はシーラか。何でこんなことに頭を下げているのか、理解できないと言いたげな声音。


 ミラースはかなり長い沈黙の後、ついに一言。


「二分だけなら」


 言って、マントの下から細剣を抜いた。


 ありがとうございますっ。大きな声で礼を言う。いつの間にか口調も丁寧になっていた。


「今から二分だ。早く抜け」


 はいっ! 返事をして、剣を抜いて、構えて、見つめる。


 ミラースの構えは仁王立ち。マントも脱がず、前髪も上げず。真剣勝負だったら、随分ナメられたもんだと苛立っていたかもしれない。


「行きますっ」


 掛け声一喝、砂を蹴る。


 勝手な見立てだけど、多分、この人は強い。おまけに時間が極端に短いとなれば、探りを入れてる暇なんてない。初撃で決着を狙うくらい、思い切り叩きこまないと。やったことのない打ち込み方、感じる困惑を必死に飲み込んだ。


 振り上げる。その細い剣で受けることはできないだろう。さぁ、どうする。


「……」


 ミラースは喉を震わせることなく、マントの下から左手を出し、腕の甲で俺の刃をぐっと受け止めた。獣の皮でできた小手には、鋼鉄製の芯が入っているらしい。斬るつもりで振り下ろした刃は、力をもろに返され、弾き飛ばされる。


「くっ」


 苦笑いしながら次の太刀筋を探す俺。


 けれど次の攻撃は、ミラースが早かった。




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