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これから広まるかもしれない怖い作り話  作者: 井越歩夢


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其の六十八「黒靄相貌(こくあいそうぼう)」

これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない

いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。


全部で壱百八話。どれも短い物語です。


しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、

時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、

時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。


そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。

これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。


この話、本当なんです。



これは、私の友人──仮にA子さんとしておきます──から聞いた話です。


A子さんは私より少し年下で、市役所に勤めるごく普通の女性です。

……少なくとも、外見だけを見れば。


けれど彼女には、昔から“ある不思議な能力”がありました。


それは──初対面の人の「為人ひととなり」を、一目で読み取ってしまうこと。


為人とは、その人が本来持っている性質や気質、人柄、行動の傾向を指す言葉。

A子さんは、それを初対面の一瞬で感じ取ってしまうのだと言います。


彼女によれば、為人の良い人からは初対面では何も感じない。

でも、為人の悪い人──つまり“関わらない方がいい人”の背後には、最初から強烈な違和感がまとわりついているのだとか。


その違和感を感じた瞬間、A子さんは全力で距離を置く。

関わらなくても済むように、自然と避けるようにしているのだそうです。


「それは、主に“顔の周り”に現れるんです。」


そう言われた私は、興味津々で詳しく聞かせてもらおうとしました。

A子さんは最初「個人の感想みたいなものだから」と教えてくれませんでしたが、最近になってようやく、あくまで“個人の感想”として話してくれたのです。


A子さんは、少し声を潜めて言いました。


「為人の悪い人の顔を見ると……その周りに、黒い靄みたいなものが、ぐるぐると渦巻いているんです。」


黒い靄。A子さんによれば、その黒い靄は“色”のようなものとしてぼんやり浮かび上がり、違和感として見えるのだそうです。


最初は「なんだろう?」と不思議に思っていたものの、ある時から、それが見える人の顔をさりげなく観察するようになったといいます。


すると──黒い靄が見える人には、ある共通点があったのです。


一見すると普通の顔。特に怖そうでも、威圧的でもない。むしろ優しそうに見えることすらある。

けれど、よくよく観察すると──

表情はどこか無関心で、目は虚ろなのに、瞳の奥だけがギラギラと光っているように見える。


「まるで、人の目を見ている気がしないんです。蛇を見ているみたいで……」


そう語るA子さんの表情は、少しだけ強張っていました。そして、彼女は話を続けます。


「私がそういう印象を持った人……みんな、職場で問題を起こすんですよ。パワハラとか。」


私は思わず「それって、見た目が怖そうな人とは違うの?」と首を傾げました。


A子さんは、はっきりと首を振りました。


「外見が怖そうでも、黒い靄がない人は、ただ見た目が怖いだけの“いい人”でした。逆に、本当に怖い人は……ぱっと見は優しそうなんです。」


「じゃあ、黒い靄が見える人は、見た目が優しそうでも中身は悪い人……?」


私の問いに、A子さんは静かに頷きました。


「だから咲良さんも気をつけてくださいね。本当に悪い人は、怖そうに見えない人の中にひっそり隠れてます。」


──黒い靄。それはいったい何なのか。


A子さんは「霊感はない」と言います。ですが、私は思いました。黒い靄。それって、霊なんじゃないの?と。

A子さんは、黒い靄という形で“霊”を見ているのでは?

そして、為人の悪い人というのは、黒い靄──つまり霊に憑かれて、そうなってしまっているのでは?


そんな考えが頭をよぎった瞬間、私は背筋がゾゾゾと冷たくなるのを感じました。


もしそれが本当なら──世の中のパワハラする人は、みんな霊に取り憑かれている……?

そんな馬鹿な、と笑いたいのに、笑えませんでした。


そして、もう一つ気になることがありました。


「A子さん。初めて会った時、私の顔の周りには……何が見えたの?」


彼女はニッコリ笑って、こう言いました。


「後光が差していました。」


そう言って、私に向かって手を合わせるA子さん。

私は思わず「拝むなー!」と笑いましたが、内心ほっとしていました。──私は黒い靄をまとっていなかったのだ、と。


これが、A子さんから聞いた話です。


怖い話かどうかは微妙かもしれません。

けれど私は、これを聞いて以来、ハラスメントの場面を見ると、ついその人の顔をじっと見てしまうようになりました。


私には見えるはずもありませんが、その顔の周りに黒い靄が渦巻いていないか──と。


この話、私は本当だと思っています。


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