其の六十六「怪談師たちの夢の囁き」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
これは、私自身の体験談です。嘘のように聞こえるかもしれませんが──本当の話です。
皆さんは、就寝中に見た夢を覚えていますか?
私は比較的覚えている方なのですが、覚えている夢は大体「怖い夢」ばかりです。
変な生き物に追いかけられる夢。
奇妙な乗り物に乗っているときに、得体の知れない生き物を轢いてしまう夢。
映画で有名な殺人鬼に追いかけられる夢。
大量の虫が背中にびっしりと張り付いている夢……。
正直、勘弁してほしいと言いたくなる内容ばかり。時には「いい夢」を覚えていたいと思うのです。
例えば──一泊十万円もする高級旅館の露天風呂で、美しい風景を眺めながらのんびりする夢とか(笑)。
そんな私に、最近友人がこんな話をしてくれました。
「怖い夢は、その夜、枕元に立った怪談師の幽霊が耳元でささやいた物語なのだよ。」
◇◆◇
草木も眠る丑三つ時。
怪談師の幽霊たちは、今日も最高のホラーエンターテインメントを披露するため街へと繰り出し、眠っている人々の枕元に立つ。
そして彼らは時間の許す限り、とっておきの怪談を眠っている人々の耳元で囁く。
その囁きは眠っている人の意識に働きかけ、囁き通りの内容を夢の中で実体験させる。
だから彼らの怪談は強烈な印象を残し、普段なら夢を忘れてしまう人でも、確実に覚えてしまうのだと。
◇◆◇
「それじゃあ、私が覚えている怖い夢は、怪談師の幽霊が私に聞かせた物語?怖い夢の登場人物になった私は、幽霊が囁く物語を体験させられているってこと?」
「うん、そうらしいよ。だから、夢の途中で目覚めると、枕元に怪談師の幽霊がいるかも。」
冗談じゃありません。私は怖い話は好きですが、映画や漫画のように視覚的に怖いものは大の苦手なのです。それを知っていて、そんな話をする友人の意地悪な笑顔に膨れながら、私は言いました。
「それなら、私を怖い夢の登場人物にするんじゃなくて、怪談師の幽霊さんも私の夢に入ってもらって、直接怖い話を聞かせてほしいなぁ。」
「咲良は、怖い映画は苦手なのに、怖い話を聞くのは大好きだものね。」
友人はそう言って笑っていました。
◇◆◇
その夜、私は夢を見ました。
とても美しい景色の見える露天風呂。
そこで、長い黒髪に白い肌をした女性から怪談を聞く夢でした。
その内容はとても興味深く、私は彼女に「この話を私が今書いている『これから広まるかもしれない怖い作り話』の中で紹介させてほしい」とお願いしました。すると彼女は優しい微笑みを浮かべ、静かに頷いたのです。
「それはぜひ、広めてください。私の怪談を広めてもらえることは、それこそ怪談師冥利に尽きます。」
その言葉を最後に、私は目を覚まし、それが夢だったことを自覚しました。
ただ、その時、私は妙な感覚を覚えていたのです。
小さな本を持つ、長い黒髪の美しい女性に膝枕をされ、頭を撫でられながら読み聞かせをされていたような──そんな感覚を。
◇◆◇
あれはもしかして、友人の語った「怖い夢を見させる怪談師の幽霊」だったのでしょうか。
もしそうなら、彼女は私と友人の会話をどこかで聞いていたのかもしれません。
「一泊十万円する高級旅館の露天風呂で、美しい風景を眺める夢」の中に、「興味深い怪談」を添えてくれた、あの女性は怪談師の幽霊だったのかも。
こういう夢なら、また見てみたい──そう思った瞬間、私はふと我に返り、背筋がゾゾゾと冷たくなるのを感じました。
本当に、怪談師の幽霊が枕元で怖い夢を囁いていた……。
◇◆◇
これが、私の体験談。嘘のような話ですが──これ、本当なんです。




