其の五十壱「永劫二択」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
これは、私が数年前に耳にした、ある四人の男性グループについての話です。
結論からお話しすると、彼らは遊び半分で心霊スポットに足を踏み入れ、
そして二度と戻ってきませんでした。
私の耳にした話は、このとおりです。
◇◆◇
その心霊スポットは、地元でも有名な廃墟。
昼間に見れば、それはどこにでもありそうなただの古びた建物。
しかし夜になると、そこは「出る」と噂される場所。
彼らは肝試しのつもりで、軽い気持ちでそこへ入っていったのでした。
彼ら四人は同年代の友人同士。
酒の勢いもあり、怖がりながらも笑い合いながら廃墟の奥へと進んでいきます。
しかし、その中のある部屋に入った瞬間、突然、彼らはスンと異様な空気に包まれたのです。
そこは、これまでの見慣れた廃墟の一室ではありませんでした。
壁も床も天井も在るのか曖昧な、真っ白な空間。四人はそこに立っていました。
ただ果てしなく続く白の中、彼らの目の前には、黒い扉が二つ並んでいます。
「究極の二択」──扉にはそう書かれた文字が、宙に浮いている。
彼らは戸惑いながらも、どちらかの扉を選ばなければならないとどういう訳か直感しました。
一つ目の扉には「進む」、もう一つには「戻る」と書かれています。
「進む」を選んだ彼らは、気付けば再び白い空間に立っていました。
しかし、目の前にはまた二つの扉。
今度は「生きる」と「死ぬ」。
彼らは笑いながら「生きる」を選びました。
するとまた、同じ白い空間。そして新たな二択。
「友を信じる」か「裏切る」。
選んでも選んでも、終わりはありません。
二択は延々と続き、内容は次第に不気味さを増していきました。
「目を抉る」か「舌を切る」。
「母を殺す」か「父を殺す」。
「自分を捨てる」か「仲間を捨てる」。
彼らは次第に笑えなくなり、恐怖と混乱の中、それでも選択を繰り返しました。
選ばなければ進めない。しかし、選んでも選んでもそれは終わらない。
やがて、四人のうち一人が叫びました。 「もう嫌だ!戻るを選ぶ!」
しかし「戻る」を選んでも、また新たな二択が現れるだけでした。
それは「戻る」か「進む」──無限のループ。
彼らは次第に疲弊し、言葉を失い、ただ機械的に選択を繰り返すようになりました。
その姿は、もはや人間ではなく「選択するだけの存在」となっていました。
そして──廃墟に入った四人は、誰一人戻ってこなかったのです。
警察が捜索しても、廃墟の中には何もありませんでした。
ただ、壁に奇妙な落書きが残されていたそうです。
「究極の二択」 「選べ、選べ、選べ」
この事件は地元では噂程度にしか語られません。
公式には「行方不明」とされ、この廃墟は後日、封鎖されました。
◇◆◇
これが、私が数年前に耳にした、ある四人の男性グループの失踪事件についての話。
そして最近、私はこの話に、後日談があることを知りました。
失踪した四人のうち、一人のSNSが数年後に更新されたのです。
そこに書かれていたのは、ただ一言。「選んだ。救われた。」
この投稿のあとすぐに、そのアカウントは削除されていました。
遊び半分で心霊スポットに入った四人の男たち。 彼らは「究極の二択」が延々と続く空間に迷い込み、そのまま失踪。そして──「救われた」と書き残された一言。
それはいったい何を意味するのでしょうか?
この話、本当だと思いますか?




