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これから広まるかもしれない怖い作り話  作者: 井越歩夢


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其の四十七「駆け込む者」

これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない

いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。


全部で壱百八話。どれも短い物語です。


しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、

時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、

時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。


そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。

これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。


この話、本当なんです。


これは、私が友人から聞いた怖い話です。


彼は私と同年代の一般社員で、とある会社に勤めています。

朝は八時半から仕事を始め、夕方五時十五分まで業務をこなし、十八時までには退社する。

春と秋の繁忙期を除けば残業もほとんどなく、人間関係から一定の距離を置いていれば、悪くない会社だと彼は言いました。


その一言で会社の雰囲気をなんとなく察した私ですが、それはさておき……

彼が体験したのは、そんな日常の中で起きた出来事でした。


ある日のこと。


彼は仕事を終え、いつものように十七時半に事務所を出ました。デスクを片付け、狭い通路を歩いてエレベーターホールへ向かいます。節電のため照明が間引きされ、少し暗い雰囲気。それも慣れてしまえば気にもならない。彼はそう思いながら歩いていました。


ホールに着いた彼は、下行きボタンを押し、一階に降りていたエレベーターが四階へと上がってくる表示を見ながら一息ついて、扉が開くのを待っていました。


「四階です。」


アナウンスとともに扉が開き、彼はさっと乗り込み、一階行きのボタンを押して閉ボタンを押しました。スゥーっと扉が閉まりかけたその時……


ドンッ。


何かを挟んだように扉が開いたのです。


もちろん、そこにいたのは彼ひとり。何かが挟まったはずもありません。おかしいなと思いながらも、もう一度閉ボタンを押すと、今度は扉は閉まり、エレベーターは一階へと降りていきました。


それから数日後のこと。


彼は会社でも数少ない、「話をする同僚」と退社時間が重なり、一緒にエレベーターホールへ向かいました。彼は下行きボタンを押し、表示を見ながら同僚と何気ない会話を交わします。


「四階です。」


扉が開き、二人はエレベーターに乗り込みました。同僚が一階行きのボタンを押し、流れるように閉ボタンを押します。スゥーっと扉が閉まりかけ……


ドンッ。


この日もまた、何かを挟んだように扉が開いたのです。


「ああ、時々あるねこれ。」


同僚は気にする様子もなくそう言い、もう一度閉ボタンを押したそうです。


「僕も前にこんなことがあったけど、あれって何なんだろう?」


彼がそう言うと、同僚は間髪入れずに答えました。


「幽霊がいるんだよ。」


「は?幽霊ってどういうこと?」


「扉の閉まるエレベーターに駆け込もうとして、挟まれている幽霊がいるって話。どうよ?面白くないか?」


同僚はニヤリと笑い、それが冗談だと分かった彼も、なるほどなぁと笑い、その話に乗ったそうです。


そしてまた数日後。


彼はいつものように十七時半に事務所を出て、エレベーターホールへ向かいました。下行きボタンを押し、一階から上がってくるエレベーターを待ちます。


「四階です。」


扉が開き、彼はエレベーターに乗り込みました。一階行きのボタンを押し、閉ボタンを押します。スゥーっと扉が閉まりかけ……


ドンッ。


またしても、何かを挟んだように扉が開いたのです。


彼は「またか」と思い、閉ボタンを押そうとしたその時──


「痛いじゃないかぁ。」


背後から、確かにそう言う声が聞こえました。


思わずバッと振り返った彼。しかし、そこには誰もいません。エレベーターの中は彼ひとり。エレベーターホールにも誰もいません。


「痛いじゃないかぁ。」


再び聞こえる声。彼は恐怖に駆られ、ダッと慌ててエレベーターから飛び出しました。

聞こえた。確かに聞こえた。背後から「痛いじゃないかぁ」と、二度も!!


その体験以来、彼はエレベーターを使わず、階段を使うようになったそうです。


幽霊が出るという逸話もない、その会社のビル。あれはいったい何だったのか。

それを彼は……調べませんでした。理由は、怖いからだそうです。


これが、私が友人から聞いた怖い話です。


ですが、私自身も同じく、誰もいないのに閉じかけたエレベーターの扉が何かを挟んだかのように開いたという経験があります。まさかその時も、駆け込もうとした幽霊が挟まれていたのか。そしてそのまま乗っていたら、エレベーターの中で幽霊と一緒にいることになっていたのか。


みなさんは、こんな経験をしたことがあるでしょうか。


この話、本当なんです。


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