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これから広まるかもしれない怖い作り話  作者: 井越歩夢


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其の参十九「自己送信」

これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない

いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。


全部で壱百八話。どれも短い物語です。


しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、

時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、

時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。


そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。

これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。


この話、本当なんです。

これは、私が怖い作り話のネタを探していることを友人に話したとき、彼が教えてくれた不思議な話です。


ある日、彼は交差点で信号待ちをしていました。夕方の薄暗い時間帯で、車のライトが白い光を交差点に投げかける頃だったそうです。人通りはそれなりにあり、彼はスマホを手にして、何気なく画面を眺めていました。


その時、不意にスマホの通知音が鳴り、奇妙な件名のメッセージが彼に届きました。


件名は「今すぐそこから逃げろ!」


彼は思わず眉をひそめました。誰からのメッセージなのか、なぜそんな文言なのか。

不可解に思いながらも、なぜか妙な胸騒ぎがして、彼は立っている場所から五歩ほど離れました。


すると。


ほんの数秒後、さっきまで彼が立っていた場所に車が突っ込んできたのです。


車は信号機に激しく衝突し、ボンネットが大きく凹み、金属の軋む音が辺りに響き渡りました。

人々の悲鳴が交差点に広がり、空気が一瞬にして張り詰めたそうです。


彼は呆然と立ち尽くしました。もしあの場に留まっていたら、確実に事故に巻き込まれていた。

命拾いをしたのだと、震える手でスマホを見つめました。


そしてメッセージを開いたとき、そこに表示された送信者の名前を見て、彼は息を呑みました。


送信者は「彼自身」だったのです。


どういうことなのか。未来の自分が、今の自分に危険を知らせるために送ったのか?それとも、何か別の存在が彼の姿を借りて警告を発したのか?彼は混乱しながらも、信号にぶつかった車へ視線を移しました。

信号機に激しく衝突し、ボンネットが大きく凹んだ車。もしメッセージが届かず、あの場に立ち続けていたら……と想像した瞬間、彼は怖くなり身震いしたそうです。


彼はその後も何度かスマホを確認しましたが、同じようなメッセージは二度と届かなかったといいます。履歴を遡っても、送信者の欄には確かに「自分の名前」が記されていた。しかし、そんなメッセージを送信した覚えはもちろんない。

これは未来の自分が送ったのか、それとも「事故に遭うはずだった彼」を救うために、何かが介入したのか。


彼はその出来事を誰にも詳しく話せずにいました。話したところで信じてもらえないだろうし、何より「自分自身からの警告」という事実が恐ろしくて仕方がなかったからだそうです。


私はこの話を聞きながら、ふと考えました。


なにはともあれ、もし未来の彼が危険を知らせてくれたのだとしたら、それは幸運なのかもしれません。しかし、逆に「未来の彼がそれを知らせてくれなかった時」はどうなるのでしょう。知らせがないということは、助けがないということ。つまり、未来の彼が今の彼を「助ける価値がない」と判断し、彼はそのまま事故に巻き込まれていたのではないか。


彼が受け取ったメッセージは、一体何だったのか。システムの不具合、誰かの悪戯、あるいはただの幻覚。でも、彼がメッセージを見て、その場から五歩離れたことで助かったのは事実です。そして、その瞬間に届いたメッセージの送信者が「彼自身」だったのも事実。


未来からの警告なのか、異界からの介入なのか。真相は分かりません。

ただ一つ確かなのは、彼はその日、確かに命を拾ったということ。


そして私は思うのです。


もしかしたら、私のスマホにもいつかそんなメッセージが届くのではないかと。その時、私はそれを見てすぐに行動できるのだろうか。それとも、メッセージは届かないまま……


これは、私の友人から聞いた不思議な話。


この話、本当らしいんです。


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