其の参十七「赤影疾走」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
これは、日本の一部の人々の中で、まことしやかに囁かれる都市伝説です。
私も時々、それを会話のネタに使っています。
「なんでも赤く塗るとスピードが三倍になる」そんな話。
冗談のように聞こえるでしょう?でも、これ、本当なのかもしれないのです。
友人から聞いた話なのですが、彼曰く、世界では「スピード違反で検挙される車の色は、何故か赤が一番多いらしい」というのです。
私は「赤って目立つ色だからそうなるだけじゃないの?」と答えました。それに、彼は首を振りました。
「違うんだ。本当に赤い車は速くなるんだ。いや、通常の三倍速いんだよ。」
その言葉に、私は赤い車を思い浮かべました。浮かんできたのは有名な赤いスーパーカー。たしかに、その車ならとても速いし、それを試したくなる心理も理解できなくはない。でも、色が赤いだけで?
彼と別れ、帰宅した私はこのことについて調べてみました。最近勉強中のAIに質問してみると、返ってきた答えは「赤い車は心理的に早く見えるが物理的な早さは変わらない」でした。
やっぱり、そんな気がするだけなんだ。私はホッと息を吐きました。
でも。
もし、赤という色が心理的に「速さ」を運転者に要求しているとしたら?
赤は人の目を刺激する色です。血の色、炎の色、警告の色。人間の本能に「危険」と「加速」を刷り込む色。もしその色が、ただ心理的な錯覚ではなく、運転者の神経に直接作用しているとしたら?
私は思い出しました。以前、夜道で見かけた赤い車。信号が青に変わる瞬間、まるで弾かれたように飛び出していった。運転者の顔は見えなかったけれど、あれは「急いでいる」以上の何かに突き動かされているように見えました。
さらに奇妙な話を耳にしたこともあります。赤い車に乗っていた人が、気づけば目的地に着いていたのだと。距離も時間も覚えていない。ただ、赤い車に乗っていた間、景色が流れるように消えていった。まるで時間そのものが三倍速で進んでいたかのように。
赤は速さを「見せる」だけではない。速さを「強いる」色なのかもしれません。
ある人は言いました。赤い車に乗ると、心臓の鼓動が早くなる。アクセルを踏む足が自然に重くなる。スピードメーターの針が、知らぬ間に限界を超えている。まるで車そのものが「速く走れ」と命じているようだと。
赤は、運転者の意識を侵食し、車を『速さの怪異』へと変える。
私は、ふと考えました。もし赤い車が「三倍速く見える」のではなく、「三倍速く走らされている」のだとしたら?
それは、ただの都市伝説ではなく、赤という色が持つ怪奇現象なのではないか。
赤は、血を思わせる。赤は、炎を思わせる。赤は、危険を思わせる。 そして赤は、速さを思わせる。
その『思わせる』が、やがて『強制する』へと変わる。」
この都市伝説は、ただの冗談ではないのかもしれません。
赤く塗られたものは、三倍速くなる。
それは心理的な錯覚ではなく、赤という色の怪奇現象かもしれません。
これは、日本の一部の人々に囁かれる都市伝説。「なんでも赤く塗るとスピードが三倍になる」
その言葉の裏には、赤がもたらす怪奇現象が潜んでいるのかもしれない。
私は、外に止めてある長年連れ添った愛車に目を向け、
自分は大丈夫なはずだと強く心に念じました。
そこに停まっているのは、私の赤いWRX。
この話、本当なんです。




