其の弐十弐「その赤い印象」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
怪談や都市伝説に登場する女性の怪異
彼女たちは、なぜか「赤い衣装」を身にまとっていることが多い。
赤いワンピース。赤い振袖。赤いコート。赤いスカーフ。赤い靴。
私は、怪談を読むたびに、映像化された都市伝説を見るたびに、
いつもその「赤」に目がとまり、その「赤」に強い印象を抱きます。
なぜ、彼女たちは赤を選ぶのか。
赤といえば真っ先に思い浮かぶのは、血の色。
他には燃えるような怒りの色や、赤信号などの警告の色。
しかし、同時に、情熱の赤や祝祭の色の赤も思い浮かびます。
もしかすると……これは生と死が交錯する色。
赤にはそんな意味があるのかもしれない。
ある怪談では、大きなマスクを付けコートを着た女性が夜道に現れる。
彼女は、「私、キレイ?」と尋ねてくる。
きれいと言うとマスクを取り、静かに顔を上げる。
「これでも?」
その顔は…口が裂けている。そんな彼女のコートの色は「赤」
別の話では、赤い振袖姿の女性が廃墟となった旅館の廊下を
そろり、そろり、ゆらり、ゆらりと静かに歩いている気配がするという。
彼女はまるで、誰かを探しているかのようだ。
「どこ?どこ?」
その声は、確かに聞こえるのに、姿は見えない。
だが、旅館に残る鏡の前をその気配がすり抜けるとき
鏡の中には、赤い袖が映るのだという。
赤は、記憶に焼きつく色。
特に夜の闇に浮かび上がる赤は、他のどんな色よりも強く、深く、印象に残る。
それはもしかすると、彼女たち怪異の「忘れられたくない」という意思の表れなのかもしれない。
または、「見つけてほしい」という切なる願いなのか…
昔、こんな話を聞いたことがある。
ある冬。しんしんと雪の降る夜、赤いコートを着た女性が失踪した。
彼女は、駅前で最後に目撃されたという。
監視カメラにもその姿、赤いコートの背中は映っていた。
必死の捜索も虚しく、その後、彼女は見つかっていない。
だが、同じ駅のホームで深夜になると赤いコートの女性が立っているという噂が広まった。
それは失踪した女性なのだろうか?
噂の恐怖から、彼女を見かけても誰も近づかない。
ただ、赤いコートのもつ『怖い』印象だけが、ひっそりとそこに佇んでいるという。
もしかすると赤は、境界の色なのかもしれない。
生者と死者。現実と異界。その狭間に立つ者が、赤をまとう。
それは、警告であり、誘いであり、記号であり……呪いなのか。
私は、赤い服を着た女性を見ると、少しだけ身構えてしまう。
街中で、夜道で、電車の中で。
赤いワンピースや赤いコートを見かけると、つい視線を逸らしてしまう。
でも、もしその赤が、何かを伝えようとしていたら。
もしその赤が、誰かの「最後の記憶」だったら。
そして、こう思うのです。
怪談に現れる女性の怪異が赤をまとうのは、偶然ではない。
彼女たちは、赤を選んでいる。
見つけてほしいから。忘れないでほしいから。
あるいは誰かに、何かを伝えたいから。
この話、本当なんです。




