1番、競馬勝負。
給料日まであと一週間を残したとある日曜日。二人合わせても3000円(正確には3008円)しかない現実を目の当たりにした僕たちは、考えに考え抜いた挙句、二人の得意なギャンブルで勝負に出ることにした。
(無謀だ。勝負事は余裕のある奴が勝つように出来ていることをこいつらは分かっていない。というか、この二人はこの時本当に考えたのだろうか?恐らくただギャンブルをしたかっただけなのではないのだろうか?多分、きっと、そうだろう)
まずは僕の十八番の競馬勝負。
「払ってきた授業料の成果を見せてくれ」
僕はかっちゃんの熱い期待を背に受けて、新宿ウインズ出陣した。無論、初台から歩いて。
当日の馬場や場の流れを読み、勝負レースをじっと待った。2レース続けて万馬券の飛び出した次のレース。明らかにオッズに混乱の兆しが見えた。力の抜けた2頭の枠連馬券(当時の馬券は単複と枠連しかなかった)のオッズが5倍を超えている。新聞の予想オッズは3.1倍、かなりお得感が強い。
「ここだ、かっちゃん、ここしかない」
このレースが勝負どころだと、枠連3-6を千円一点買いの勝負に出た。結局、最終オッズは4.5倍と多少売れたが、それでも予想オッズの概ね1.5倍は美味しい。入れば4500円。つまり我々の元手3,000円が倍以上に増えることになる。
ファンファーレ。ゲート入りはスムーズだ。
「競馬の肝はスタートなんだ。頼む、出遅れだけはやめてくれ」
かっちゃんと僕は、両手を合わせてスタートを見守った。
『ガッシャン』
ゲートが開いた。出遅れはなかった。
「いよっしゃー」
と、最初のガッツポーズ。好スタートを切った3枠の本命馬を敢然と先頭に立ち、これをマークする6枠の対抗馬が追いかける展開だ。
「だから、抜けてるって、力が違うって言ったろう」
僕の鼻息が荒くなる。
「すげえよジュン、やっぱやる時はやる男だって思ってたよ」
かっちゃんが囃し立てる。
2頭が後続を引き離したまま直線を向いた。これは難なく的中と確信を持って見ていたのだが、残り1ハロン(200m)で先頭にいた本命馬の様子がおかしくなる。
「ああ、どうした」
あっという間に対抗馬に抜かれると、後続にも迫られた。しかしそれでも最後の力を振り絞るように走る本命馬。
「残せー」「頑張れ!」
喉が枯れんばかりの二人の声援も空しく、ゴール直前で団子になって押し寄せた後続に交わされて万事休す。結局本命の3枠は掲示板にも残らなかった。
ゴール直後にジョッキーが下馬。やはり直線で故障が発生していたらしい。
それを押して競争を続けさせたことについて後に議論になったが、『馬が走りたいと言っていた』というジョッキーのコメントは、僕たちに熱い涙を流させた。ありがとう。
しばしの静寂が訪れた。僕たちの前には紙くずになった1000円の馬券と、2000円の現金が残された。
「そうだまだ僕たちには、2000円があるじゃないか」
(続く)





