お洒落心
「うん!良いんじゃないかしら。咲、どう?」
「綺麗!怜さんも鏡見てみて!」
華に化粧を施され、咲に促されて鏡を見た怜は目を見開いた。いつも自分でする薄化粧よりは濃い目だが、決してナチュラルメイクの域を出ず、かつ普段よりも数段肌の透明度が増し、目も大きく、頬も色付いて綺麗に見える鏡の中の自分に、怜は思わず溜息をつく。
「ありがとうございます…!華さん、凄いです!」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。毎日きちんとお手入れをして、肌の色に合った化粧品を選べば、誰でも綺麗になれるものよ。」
そう言って華は笑顔を見せた。
「じゃあ、今度は私の番ね。」
怜の後ろに立った咲は、ヘアーアイロンで怜の髪の毛先を巻いていく。咲の指示で、華が怜の左側の髪を少し手に取って三つ編みにし始めた。
「でも怜さんは元々の素材が良いから遣り甲斐があって楽しいわー。私もまだまだ腕は衰えていないみたいだし、今からでも現役復帰出来るかしら?」
「出来ると思うよー。でもお母さんは今更働く気なんてさらさら無いでしょ。」
「あら、分かっちゃう?趣味だと楽しいんだけれど、仕事になるとノルマを意識しちゃうから、やっぱりしんどいのよね。」
華と咲の会話に、怜は小首を傾げる。
「お母さんは元百貨店の美容部員なの。昔取った杵柄ってやつね。」
咲の説明に、怜は納得して頷く。
「成程。道理でお詳しいんですね。」
「やだ、それ程でもないわよー。それより今度一緒に服を買いに行きましょう!怜さんは服の好みはあるのかしら?」
「いえ、特には。今までは実用性重視で、動きやすい服であれば何でも良かったので…。」
「そうなんだ。確かに怜さんの私服はシンプルなものやパンツが多かったよね。もしかしてスカートはあまり持っていない?」
「はい。恥ずかしながらあの一枚だけで。」
頬を少し染めた怜の返答に、咲は苦笑した。その一枚とは間違いなく、以前自分が見立てて兄が贈った物だろう。
「この前怜さん何着せても似合っていたから、もっと色々な服に挑戦していっても良いと思うのよねー!スカートもだけど、ワンピースもどうかな!?この前入ったWESTの新作のワンピース、絶対怜さんに似合うと思うんだー!!」
そう言いながら怜の毛先を巻き終わった咲は、左側に少し後れ毛を残し、華が作った三つ編みと纏めて、右側の耳の後ろで束ねた。クールだった怜の雰囲気が、華やかながらも、落ち着いて品のある大人の女性らしくなる。
「うん、上出来!!怜さん、どうかな?」
「うわあ…。何だか自分じゃないみたいです。ありがとうございます!」
目を丸くして鏡を見つめる怜の傍らで、咲と華は楽しそうに顔を見合わせる。
「そうだわ、怜さん、少し待っていてくれる?」
部屋を出て行った華は、少しして一枚のスカートを手に戻って来た。
「これ最近色が綺麗だったから衝動買いしちゃった物なんだけど、いざ穿いてみると私には少し可愛らし過ぎるのよね。良かったら怜さん、穿いてみない?」
「あ…はい。」
華に勧められるまま怜が試着してみると、鮮やかな青のフレアスカートは怜が着ていたオフホワイトのシャツと相性が良く、化粧と髪型のお蔭で華やかで女性らしくなった今の怜には、七分丈のパンツよりは余程合っているように思えた。
「どう…でしょうか。」
怜が恐る恐る二人の前に姿を見せると、華と咲は目を輝かせた。
「わあ、似合うー!怜さん素敵!!」
「本当、サイズも丁度良いみたいね!良かったら怜さん、それ貰ってくれないかしら!?」
「ええ!?ですが…。」
華の急な申し出に、怜は戸惑う。
「気に入らなかった?似合っていると思うのだけれど…。」
「いえ、凄く素敵だと思います!」
「良かった!じゃあ気にしないで貰ってくれると嬉しいわ。私には似合わないもの。このまま箪笥の肥やしになるよりは、怜さんに穿いてもらった方が余程有意義になると思わない?」
「はあ…。では、有り難く頂戴致します。」
逡巡し、恐縮した様子で返答しながらも、スカートに目を落として嬉しそうにはにかんだ怜に、華は顔を綻ばせた。
「良かった!ごめんなさいね、押し付けてしまって。」
「とんでもない!こちらこそ、素敵なスカートをありがとうございます!」
「よーし!じゃあ怜さん、お兄ちゃんに見せに行こっか!」
楽しげな咲に手を引かれながら、怜は階下に下りる毎に少しずつ緊張してきた。
司さん、どう思うんだろう…。ちょっとは可愛いって、思ってくれるかな…?




