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女嫌い社長の初恋  作者: 合澤知里
胸を張る為に

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55/67

相談

翌週の日曜日。ゴールデンウィークの真っ只中でもあるこの日、偶には実家に顔を出せ、と言う両親の命令で、司は実家を訪れていた。一ヶ月前にもきちんと顔を出しただろう、と言う司の抗議はいつもの如くさらっと無視され、ついでに怜も連れて来い、と言う母の追加命令が下ってしまい、相変わらず人の予定を考えない強引さに司は辟易した。だが断るとまた怜の所に直接連絡が行きかねないので、渋々怜にも事情を話し、快諾されたから良いようなものの、いざ連れて来ると息子はそっちのけで母が怜ばかりを構い倒している現状に、寧ろ怜がメインで自分がオマケだろうと嫌味の一つでも吐きたくなる。

因みに妹夫婦も日を合わせて来ているので、母と一緒になって妹も怜を構い倒している事は言うまでもない。折角の連休なので、怜とデートでもしたかったのにと、司は先程からずっと不貞腐れていた。


「まあー!怜さんは優しいのね。司の誕生日に二つもプレゼント用意してくれたなんて!」

「私も手作りのお弁当だけで、お兄ちゃんは十分喜ぶよって言ったんだけど、何だかそれだけだと申し訳ないからって。ネクタイとどっちか片方だけで良いと思ったんだけどねー。」


ソファーで怜を間に挟み、華と咲が楽しそうに盛り上がる様子を、聡が目を細めて眺めている。


「良かったなー司。念願の怜ちゃんの手料理が食べられて。後でちゃんと咲に礼を言っておけよ。で、美味かったか?」

「当然だ。」


からかうように尋ねてくる明に、司は仏頂面のまま返事をした。怜の料理は何を食べても美味しい、と続けて喉元まで出かかった言葉を慌てて呑み込む。実は二週間程前から、藤堂家との一件のお礼だと言って、怜が毎日手作り弁当を持って来てくれているのだが、それを知られてしまうと、絶対にからかいのネタにされるだけなので、わざわざそれに繋がりそうな話を自ら提供する気などさらさら無かった。


「本当に怜さんは良く出来た娘さんねー!司のお嫁さんには勿体無いくらい!司、あんた怜さんの事、ちゃんと大事にしなさいよ!」

「言われなくてもそのつもりだ。」

「本当かしら?あんた女心には疎いから、心配で心配で仕方ないわ。」

華が大袈裟に溜息をつく。


「司さんには、本当に凄く良くしてもらっています。寧ろお世話になりっ放しで…。」

恐縮した様子の怜の言葉に、華は一転して笑顔を見せた。

「あらー本当?怜さんがそう言うなら良いけど。」


ころりと態度を変える華に、今度は司が溜息をついた。だが母の言葉にも一理ある。女嫌いでずっと女性に興味を持とうともして来なかった自分が、女心を理解出来ている自信など皆無。怜との仲をもっと深めたいと思っていても、どうすれば良いのか皆目見当がつかないのだ。


「…なあ明、お前なら女性をデートに誘う時、どんなプランを立てるんだ?」


後でまた弄られるネタになるのだろうなと覚悟をしつつ、司は渋々明に尋ねる。思えば明と咲を交えたダブルデートらしき事はしてきたが、何だかんだで怜と二人でのデートらしいデートは出来ていない。このゴールデンウィーク中に怜とデートしたいと思うものの、行きたい所が特に無さそうな怜が喜んでくれそうな計画を立てる事が出来ないでいた。


「ん?そりゃ女の子に行きたい所を訊くのが一番だけどな。何処でも連れて行ってあげるって言えば、大抵行きたい所の一つや二つは出て来るし。こっちがリードする場合は、その子の趣味に合わせてテーマパークとかショッピングとか映画とか博物館とか色々あるだろ。まあ怜ちゃんの場合は行きたい所も趣味も特に無さそうだから難しいけど、多分彼女なら何処に連れて行っても喜んでくれると思うぜ。」

「それはそうなんだが…。だからこそ困っているんだよ。どうせなら怜に存分に楽しんでもらって、何時までも思い出に残してもらえるような一日にしたいからな。」

「へーえ。お前の口からそんな言葉を聞ける日が来るとはね。」


にやりと笑う明に、司は眉間に皺を寄せた。また茶化すつもりなのか。こっちは真面目に相談しているというのに。


「お前に相談した俺が馬鹿だった。」

「まあまあそう言うなよ。良い事思い付いたからさ。聞きたいだろ?」

司が臍を曲げつつも、明の話に耳を傾ける一方で。


「…と言う訳なんですが、お二人はどう思われますか?」

怜は隣の二人にしか聞き取れないくらいの声で相談事をしていた。


「「可愛いいい!!」」


両隣から二人同時に叫ばれた上にぎゅう、と抱き付かれ、怜は目を白黒させる。急に上がった黄色い歓声に、何事かと男性三人からの視線も集まってしまった。


「お兄ちゃんの為に可愛くなりたいとか、怜さん可愛過ぎっ。」

「本当ねっ。そのままでも十分可愛いけどっ。」

今度は声を潜めてくれた二人に安堵しながらも、怜は男性陣の視線が気になって仕方がない。


「そうね…。じゃあ怜さん、こっちにいらっしゃい。咲も協力してくれるわよね?」

「勿論!!」


急に立ち上がった華に手を引かれ、咲からは背中を押され、男性三人が呆気に取られて見守る中、怜は戸惑いながらも二人に従って部屋を移動して行った。

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