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女嫌い社長の初恋  作者: 合澤知里
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閉め出し

「まあ、本当なの!?十一個も食べてお腹を壊さないなんて、雪原さんは筋金入りのアイスクリーム好きなのね!」

華が楽しそうにころころと笑う。


「筋金入り…ですか。私としてはそこまで言う程ではないと思っていたのですが、やはりそうなるのでしょうか?」

「いや普通十一個も食べられないし、お腹壊すから。」

小首を傾げる怜に、明が肩を震わせながら突っ込んだ。


「あの時は本当に見物だったな。八種類全て盛って来た時点で唖然としたが、その後更にお代わりして来たものだから、もう笑わずにはいられなかった。呆れ果てた神崎君を見るのも初めてだったから、暫く笑いが止まらなかったよ。」


懐かしそうに語る聡に、怜は少し不貞腐れたような表情になった。司は苦笑しながら怜の頭を撫でてやる。


「怜、しっかり食べているか?この肉、もう焼けているから。」

「あ、ありがとうございます。先程から皆さんに勧めて頂いているので、お腹も結構膨れています。司さんの方こそちゃんと召し上がっていますか?先程から焼いてくださってばかりのようですが。」

「大丈夫だよ。焼いている合間に食べているから。」

「それなら良いのですが。」

司と怜の会話に、華は微笑む。


「ふふ、雪原さんは気遣い屋さんで優しいのね。」

「そうでしょうか?」

「そうだよー。怜さんは気遣い屋さんで優しいの!」

まるで華に自慢するかのように、咲が笑顔を見せる。


「咲は随分雪原さんと仲良しになったのね。羨ましいわ。そうそう、雪原さん、もうお腹が膨れているのなら、デザートは如何?雪原さんが好きなアイスクリームを用意しているんだけど、どうかしら?」

アイスクリームと聞いて、怜は目を輝かせる。

「お気遣いありがとうございます。頂きます。」

どことなく嬉しそうに見える怜に、皆が顔を綻ばせた。


「じゃあ雪原さん、中でゆっくり食べましょうか。貴方達はまだいいわよね?特に司、どうせ普段は碌な物食べていないでしょうから、しっかり野菜を食べておきなさいよ。」

「え…、ちょっと、ずるいぞ母さん!」

怜を連れて家の中に入る華に、司は慌てる。


「お母さん、私もアイス食べる!」

後を追いかけた咲が家の中に入った時点で、ガラス戸にはご丁寧に鍵まで掛けられてしまった。

「全部残さずに食べて頂戴ね。後片付けも宜しく!」


笑顔で手を振ってレースカーテンを閉めた華に、司は焦った。怜が余計なプレッシャーを感じずに過ごせるよう、今日は常に横にいるつもりだったのに。


「落ち着けよ、司。怜ちゃんなら咲が一緒だから大丈夫だろ。」

司の内心を見抜いたかのように、明が声をかける。


「だが、母さんが何を言い出すか、分かったもんじゃないだろう。」

司は不安気にガラス戸の向こうを見遣った。


「司、安心しろ。母さんだってその辺は心得ている筈だ。自分が迂闊な事を言ったせいで、折角の息子の初恋の相手を失うような事態にはしたくないだろうからな。何、家族が皆何らかの形で雪原君と交流がある中で、自分だけないのが寂しくて、少しでも雪原君と距離を縮めたいだけだろう。大目に見てやれ。」


聡の言葉に、司は黙り込む。結婚の件は心外とは言え、母に心配をかけている事は事実なので、父の言う事にも一理あるとは思う。だが、母が変に恋愛話に首を突っ込んで、怜に余計な心理的負担をかけないか、それだけが不安で仕方がない。今すぐ乗り込んで行きたいが、もし怜が母と妹と、女同士の会話を楽しんでいるとしたら、それは野暮でしかないと躊躇われた。


「ところで司、さっきの母さんの様子だと、我々が残りを全部平らげて後片付けも綺麗にし終えるまで、家の中へは入れないつもりだぞ。雪原君が心配なら、早くここを片付ける事だな。私はもう年のせいか、そんなには食べられないから当てにするなよ。」

聡の言葉に、司は溜息をついた。父の言う通り、怜達に合流したければ、早くここを片付けるしかない。


「明、手伝え。」

「へいへい。」


半ば八つ当たり気味に猛然と野菜を口に入れていく司を、明は呆れたように眺めながら肉を頬張った。

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