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女嫌い社長の初恋  作者: 合澤知里
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33/67

楽しい時間

「凄い、結構膨らむんですね。」

発酵して大きく膨らんだ生地を、怜が感心して見つめる。


「うん。発酵が終わったかどうかは、指を突き刺してみたら分かるよ。指の跡がすぐなくなるようなら、まだ発酵が足りていないからもう少し置いておいて。跡がそのまま残るのが理想なんだ。因みに空気が抜けてしぼんでいくようなら、発酵し過ぎだから気を付けてね。」

「その場合はどうすればいいんですか?」

「少しくらいなら最後の発酵時間を短くして対応出来るけど、酷いようならパンにするのは諦めた方が良いかな。そのまま焼いてもアルコール臭くなって美味しくないから。ピザの生地にするとか、ドーナツみたいに揚げておやつにしてもいいかもね。」

「成程。それはそれで美味しそうですね。」


発酵が終わった生地は切り分けてそれぞれを丸め、乾かないようラップを被せて休ませる。その後、麺棒で薄く伸ばして巻いていく。


「折角だし、中に何か入れてみる?」

咲はチョコチップを生地の上にまぶしてくるくると巻いて見せた。

「あ、良いですね!」

怜も真似をしてレーズンをまぶす。


「別に何も入れなくても良いんだよな?」

「ああ。そのままでも十分美味いぜ。食べる時にバターやジャムを塗っても良いしな。でも割と数が出来るから、色々バラエティーに富んでいた方が食べ飽きなくて良いんじゃないか?」


明の助言を受け、司も半分くらいにはアレンジを加える事にする。何も入れずそのまま巻く物、砕いたナッツを入れた物等、各自思い思いにパンを成型していった。もう一度発酵させて焼き上げれば完成だ。


「わあ、凄く良い匂いですね。」

美味しそうに焼けたパンに、怜が目を輝かせる。

「焼き立てのパンは美味しいよ!皆で食べよう!」


怜の手土産のコーヒーを淹れた所で、皆で焼き立てのパンを頬張る。


「うん!今回も良い出来ね!」

一口目を飲み込んだ咲が満足そうに頷いた。

「…思っていたより美味いな。」

自分が作ったパンを見つめ、司が意外そうに呟く。

「自分で作ったと思うと味もまた格別ですね。咲さんのお蔭で美味しく出来ました。ありがとうございます。」

嬉しそうに笑う怜に、咲も顔を輝かせた。


「司のチーズ巻いたやつ、意外と美味いな。」

早くも二個目となるパンを口にした明が目を丸くする。

「ああ。俺もこんなに合うとは思わなかった。」

自分で作っておきながら、心底驚いている様子の司に咲が吹き出す。


「あ、本当ですね。美味しいです、司さん。」

自分が作ったパンを一口齧って頬を緩ませた怜に、司は胸に喜びが広がっていくのを感じた。


「ありがとう。怜が作ったレーズン入りのも美味しいよ。」

嬉しそうに満面の笑みを見せる司に、怜は頬を紅潮させ、はにかむように口元を緩ませた。


「お兄ちゃんも、ちょっとは自分で料理する気になった?」

咲がクスリと笑って尋ねる。

「…まあ、少しくらいはな。」


照れ隠しに司が視線を逸らし、食卓に笑顔の花が咲く。各々が作った色々なパンを味見していると、すぐにお腹がいっぱいになった。


「怜さん、初めて作ってみてどうだった?」

「楽しかったです。咲さんが嵌まるのも分かるなと思いました。」

「でしょー!」

咲は嬉しそうに破顔する。


「パンって一口に言っても、食パンとかロールパンとかクロワッサンとか、本当に色々な種類があるけど、そこにココアパウダーを混ぜ込んだり、ツナとコーンを包んで焼いたり、自分でアレンジしていったら本当に楽しいんだよね!怜さんにも是非嵌まって欲しいなー。」

にこにこと期待を込めて見つめる咲に、怜は柔らかく微笑んだ。


「初めて作ったばかりなので、嵌まるかどうかはまだ何とも言えませんが、少なくともまた作ってみたいと思いました。」

「本当!?やったあ!また一緒に作ろうよ!」

「咲さんさえ宜しければ、喜んで。」


楽しそうに笑い合う咲と怜に、司と明も笑みがこぼれる。取り留めのない話は続き、楽しい時間はあっと言う間に過ぎていった。

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