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女嫌い社長の初恋  作者: 合澤知里
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ガールズトーク

山伏峠を少し散策した後、ドライブに戻った一行は、山道と青空、見え隠れする富士山、そして杓子峠の駐車スペースから見える富士山の絶景を楽しんだ。メロディーベープを通り抜けた先にも三国峠の駐車スペースがあり、そこから見た富士山は、山頂から裾野までの雄大で美しい姿を見る事が出来て圧倒された。


芦ノ湖スカイラインを抜けて箱根スカイラインに入り、途中にある箱根・芦ノ湖展望公園からは、富士山や芦ノ湖や箱根の街並みが一望出来た。終点の料金所から見る富士山も綺麗だった。


「ねえお兄ちゃん、次は何処に行くの?」

後部座席から咲が身を乗り出して尋ねる。

「そうだな。箱根はまだまだ見所が沢山あるし、他にも大涌谷や箱根ロープウェイや芦ノ湖遊覧船とか色々あるけれど、怜は何処か行きたい所はあるか?」

「折角箱根に来たんだし、私温泉に入りたい!」

「お前な…。」

司は怜に訊いているのに、咲が元気良く答える。


「いいでしょー?ねえ怜さん、富士山を見ながらゆっくり露天風呂に浸かるって言うのはどう?」

「露天風呂から富士山が見えるんですか?何とも贅沢ですね。」

「ほら、怜さんもこう言っているんだしさ!」


咲の思惑通りに事が運んでいるようで司は釈然としなかったが、怜も乗り気のようなので、仕方なく咲に従って車を走らせた。


「全く、咲にも困ったもんだな。」

温泉施設に着いて男女に分かれ、更衣室で服を脱ぎながら、司は明に愚痴を零した。

「まーまー。怜ちゃんも乗り気みたいだったし、良いんじゃねーの?そんな事より偶には温泉に浸かってリラックスしようぜ。そんな風に眉間に皺を寄せていたら、怜ちゃんに余計な気を遣わせるだけだぞ。」

司はぐっと言葉に詰まる。


「…それもそうだな。」

悔しいが明の言う通りだ。司はふうと溜息をつき、気持ちを切り替えて温泉を楽しむ事にした。


********************


「はあ~、気持ち良いね~。」

露天風呂に肩まで浸かった咲は、満足げな笑みを怜に向ける。

「はい。富士山も綺麗に見えますし、今日は天候が良くて本当に良かったですね。」

怜も隣で気持ち良さそうに手足を伸ばして寛いでいる。


「怜さんやっぱりスタイル良いね。羨ましいなー。」

にこにこと笑いかける咲に、怜は顔を赤らめる。


「そ…そうでしょうか。咲さんの方が素晴らしいプロポーションをされていると思いますけど。」

「そうかな?でも私は食べたら食べた分だけ身についちゃうんだよね。アイス沢山食べても全然太らない怜さんが羨ましいよ。怜さんはスタイルを保つ為に何かしているの?」

「特別何かしていると言う訳ではありませんが…。それに、私は常日頃からアイスを食べている訳ではありません。」

「え、そうなの!?」

咲は目を丸くした。


「機会がある時はここぞとばかりに食べますが、それ以外の時は殆ど食べないですね。昇給した時とか、誕生日とか特別な時に一個だけ食べるくらいです。」

「そうなんだ。ちょっと意外だな。毎日必ず食べているのかと思っていたよ。」

怜の新たな事実を知った咲は気を良くする。


「ねえねえ怜さん、ちょっと訊いても良いかな?今はお兄ちゃんの事、どう思っているの?」

楽しげに尋ねてきた咲に、怜は戸惑う。

「どう、と言われましても…。」

「前はお互いに興味がないとか言っていたけど、この前お兄ちゃんに告白されていた訳だし、あれから怜さんの中でお兄ちゃんを見る目が変わったりしていないかなー、って思って。」

にこにこと笑顔を見せる咲に、怜は少し顔を赤らめて目を伏せた。湯の中で膝を抱え込む。


「…正直、何故司さんが私でないと駄目だと仰ったのか分かりません。わざわざこんな人間不信を拗らせた面倒臭い貧乏女を選ばなくても、司さんの条件に合う女性は、探せば沢山いらっしゃる筈です。それこそ私よりも素晴らしい女性が必ず見付かると思うのですが、何故たった一ヶ月程探されただけで私に決めてしまわれたのか…。司さんは女嫌いですので、婚活がお嫌になられて、手近な私で済まそうとのお考えなのかと思「そんな事ないよ!!」

声を荒らげて腕を掴む咲に、怜は驚いて咲を見る。

「お兄ちゃんがどれだけ怜さんの事を大切に想っているか、私にだって伝わってくるもん!!」

「さ、咲さん声が大きいですっ。」

怜の小声に咲は我に返り、周囲を見回して気まずそうに湯船の中に身を沈めた。


「と、兎に角、お兄ちゃんは絶対怜さんの事本当に好きだから。怜さんと居たらお兄ちゃん、凄く嬉しそうに笑うの。あんなに幸せそうに笑うお兄ちゃんは初めてなんだよ。それに、怜さんはもっと自分に自信を持つべきだよ。怜さんは美人だし、仕事も出来るし、気が利くし、話していて楽しいし、アイスに目がない所も可愛いし、偶に戸惑ったり笑ったり変化する表情も可愛いし、凄く魅力的なんだから!」

「はあ…。」

咲の言葉を聞いているうちに気恥ずかしくなってきた怜は、お湯に口元まで浸かった。


「多分だけど、お兄ちゃんも怜さんのそういう魅力に気付いて好きになったんだと思うよ。今度ちゃんと訊いてみると良いよ。」

「そう言われましても…。」


本当に自分はそんなに魅力的に思われているのだろうか。咲の買い被り過ぎではないのか。人を拒絶し続けてきた自分が人に好かれる事など本当にあるとは思えないし、自分に自信を持てと言われても今一つその根拠に実感が持てない。

だが咲の真剣な表情からは嘘を言っているようにも思えず、怜は暫くの間、顔を赤くしたまま俯いていた。

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