表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女嫌い社長の初恋  作者: 合澤知里
お試し期間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/67

ボウリング

翌週の日曜日。明が連れて来たのは、バウンドワンだった。


「何処にしようか考えたんだけど、多分怜ちゃん、こういう所来た事ないんじゃないかと思って。」

「はい。初めて来ました。」

明に返答しながら、怜は物珍しそうに賑やかな店内をきょろきょろと見回している。


バウンドワンって、割と庶民的なイメージだけど、明さん達でもこういう所に来るんだ…。


極彩色の光を点滅させ、派手な音を立てているスロット台やクレーンゲーム機等に圧倒されながらも、高校生くらいの男女や親子連れの客を見かけた怜は、少し肩の力が抜けた。


「怜ちゃん、何かしたいものはある?」

明が店内施設を指しながら尋ね、怜は少し考える。どれもあまり馴染みがないが、どうせするなら、やはりバウンドワンと言えば…。


「…ボウリング、でしょうか。した事ないですけど…。」

怜は自信無げに呟く。

「大丈夫。俺が教えてあげるから。」

司が笑いかけ、怜はほっとしたように口元を緩めた。

「はい。宜しくお願いします。」


司が怜に大まかな説明をしている間、主に明と咲で手続きを済ませ、四人はシューズを借りてボールを選ぶ。だがボールが沢山あり過ぎて、怜はどれにしたら良いのか分からない。


「重過ぎず、無理なく投げられそうなボールを選ぶと良いよ。怜ちゃんの場合は、八か九くらいが良いんじゃないかな。」

「指穴に指を入れてみて、自分の指に合う物の方が良いぞ。」


明と司のアドバイスを受け、怜は八ポンドと九ポンドのボールを持って重さを確かめる。九でも持てそうだな、と思った怜は、並んでいる九ポンドのボールに手当たり次第に指を入れてみて、そのうちの一つを選んだ。


「じゃあ、まずは俺がお手本を見せるとしますか。」

明が綺麗なフォームで勢い良くボールを投げる。スピードのあるボールは真っ直ぐにピンに向かい、気持ちの良い音を立てて全てのピンを薙ぎ倒した。


「イェーイ!」

両手でVサインをする明に、怜は目を丸くして拍手する。

「あーくん、流石!」

レーンからソファーに戻って来た明は、咲と司とハイタッチを交わす。自分の前でも構えられた怜は、慌てて両手を挙げて手を合わせた。


「次は俺だな。」

司も明に負けず劣らずの腕前のようで、ボールは快音を立ててこれまた全てのピンを沈めた。笑顔で戻って来た司は明と同様、全員とハイタッチを交わす。


「どうやら腕は落ちていないみたいだな、司。」

「ああ。お前もな。」

明も司も口角は上がっているのに、目が笑っていないように見える。二人の間の空気に緊張感が漂っているのは気のせいだろうか。小首を傾げる怜の横で、咲は呆れたような苦笑いを浮かべる。


「咲、お前の番だぞ。」

「はいはい。」

司に促された咲は席を立つ。咲は二人よりもゆっくりした動作で、丁寧にボールを投げた。

「あー、ずれたー!」

咲の言葉通り、ボールは少しずつ右にずれていき、六本のピンが残る。


「一球目で全部倒せなかったら、もう一球投げられるから。」

「そうなんですね。」

司に教えてもらいながら、怜は咲を見守る。咲の二球目は残ったピンを目掛けて真っ直ぐ左側に向かったものの、全部倒し切れずに二本残った。


「スペア取れなかったよ。」

咲は苦笑しながら戻る。いよいよ次は怜の番だ。


「怜、投げ方分かるか?」

「はい。何となく、ですけれど。」

レーンに対峙した怜は、皆の手本を思い出す。


えっと、右投げだから右足から助走して、四歩で投げる、と…。


司から教わった投球動作を思い出しつつ、怜はボールを投げる。ぎこちないながらもそれなりのフォームで投げる事は出来たが、ボールは左にずれていき、やがて溝に落ちてしまった。


「ドンマイ怜さん!次頑張って!」

「怜、レーンに矢印があるだろ。ピンよりもそこを目掛けて投げた方が良いぞ。」


司に言われてレーンを見ると、確かに幾つかの矢印があった。立ち位置と矢印とピンを見比べた怜は、司の助言通り矢印の一つを目標にして投げる。先程よりは多少スムーズに投げられたボールは、少し右にずれながらも五本のピンを倒していった。


「司さん、倒せました。ありがとうございます。」

ソファーに戻った怜は、少し晴れやかな表情で礼を言い、司は顔を綻ばせた。

「スピードを出そうとしなくていいから。それよりも、立ち位置とフォームを一定にして、狙う所と立ち位置の間にある矢印を見ながら、真っ直ぐ投げられるようにすれば上達が早いよ。立ち位置も床に丸い印があるから、それを参考にすれば良い。」

「そうなんですね。分かりました。」


怜は司に教わった事を意識しながらゲームを進めた。一定に投げる事はなかなか難しく、ガターも多かったが、それでも回を重ねる毎に少しずつコツが分かってきた気がする。


「あ!」

ゲームも終盤に差し掛かった頃、初めて十本全てのピンが倒れた。


「司さん、ストライク取れました…!」

目を丸くした怜は、やや興奮気味にソファーに戻る。

「やったな、怜!」

「怜さん凄い!」

「やるじゃん!」

両手を挙げた司とハイタッチを交わし、咲と明とも両手を合わせる。


「怜ちゃんは初めての割に筋が良いね。」

明がレーンに向かいながら声をかける。

「そうでしょうか?司さんの教え方が上手だからだと思います。」

そう答えた怜はスコアボードを見上げる。明と司は共に大半がストライクで、ミスをしてもスペアはほぼ確実に取っており、スコアも拮抗している。初心者で、偶々ストライクを取れた程度の自分とはレベルが違う、と怜は感心した。


「そうか。俺も負けてられねーな。」

怜の視線の先を辿り、気合が入った明は、勢いのあるボールでまた全てのピンを薙ぎ倒した。

「っし!」

戻って来た明と全員がハイタッチを交わし、司がレーンへと向かう。


「司さん、頑張ってください。」

思わず声をかけた怜に、司は驚いて振り返る。

「ああ。ありがとう。」

蕩けそうな笑みを浮かべた司は、今まで以上に気合が入った投球できっちりとストライクを取った。


「なかなか崩れてくれないねー。」

「何とでも言え。今日はお前に負ける気がしない。」

ハイタッチを終えた司は、怜の隣に腰を下ろす。


「司さん凄いですね。」

「怜の応援のお蔭だよ。」

嬉しさを隠そうともしない司を見ながら、明は苦笑する。


変にやる気出させちまったな…。まあいいか。それにしても、怜ちゃんは思っていたより運動出来るんだな。楽しんでいるみたいで何よりだ。


スペアを取って戻って来た咲とハイタッチを交わす怜は、生き生きとした表情で目を輝かせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ