婚活パーティー
翌日。
司はホテルで行われる婚活パーティーに参加していた。受付でプロフィールカードを受け取り、指定された席に座って記入していく。年齢と誕生日を書いた所で、司はふと昨日の同窓会を思い出した。
そう言えば雪原君は、二十七だったな…。誕生日は何時だろう。
二年間、彼女と一緒に働いていた割には、年齢も誕生日も知らなかった。それどころか、思い返せば彼女のプライベートなど殆ど知らない事に、司は今更ながら気付く。
趣味…彼女の趣味は何だろう?休日の過ごし方…今頃何をしているのかな。
そんな事を考えながら、ドライブ、寝だめ、と空欄を埋めていく。
やがてパーティーが開始された。参加者は男女十数人ずつだ。前半は目の前の異性とプロフィールカードを交換して会話し、時間が来れば男性が隣の席へと移動して、また別の異性と会話する。司が正面の席に座ると、どの女性も例外なく目を煌かせ、勢い込んで質問攻めにしてくる事に司は閉口した。
雪原君だったら、もっと穏やかな口調できちんと会話の受け答えをしてくれるのに…。
一周して元の席に戻り、休憩時間に入る。運悪く、正面の席の女性は司の苦手なタイプだった。気疲れと話し疲れで少しでも休みたいのに、司の様子を察する事なくマシンガントークを繰り広げてくる。
雪原君なら、一見するだけで俺の様子を察して、コーヒーと焼き菓子を差し入れてくれるんだろうな…。
そう思うと、無性に彼女が淹れてくれるコーヒーが飲みたくなった。
休む間もないまま後半が始まる。後半は全員が席を立ち、気になった異性の所に行って立ち話をするのだが、司が話をしたいと思う女性は今回もいなかった。にもかかわらず、相変わらず司の周囲には女性が群がって来る。
どうせなら、雪原君と話がしたい。何故彼女はいつも伊達眼鏡をかけているのか、とか…。
司は女性達の応対をしながら、そんな事ばかり考えていた。
そして結果発表。数組のカップルが成立したようだった。司は席を立ち、会場を後にする。会場を出た所で何人かの女性に呼び止められ、お茶に誘われたり連絡先を書いたカードを無理矢理押し付けられたりしながら車に戻った。スマホを取り出すと、明から着信があった。司はすぐ折り返す。
『おー司、折り返しサンキュ。』
「いや。こっちこそ昨日はありがとうな。幹事お疲れ。何か用だったか?」
『ああ。次はどうしようかと思ってな。司、お前まだ女の子紹介して欲しいか?』
明の質問に、司は口ごもった。正直、婚活はもううんざりだ。自分に合う女性など見付かるとは思えない。だが、だからと言ってこのまま何もしなければ、独身希望の雪原に迷惑をかけてしまう事になる。
「…一応まだ頼めるか?」
渋々ながら司が頼むと、電話の向こうで溜息が聞こえた。
『仕方ないな。分かったよ。』
明が呆れたような声を出す。
『日時を決めたらまた連絡する。』
「悪い、頼む。…なあ明、雪原君が何故独身希望なのか、お前知っているか?」
気付けばそんな事を明に尋ねていた。明と雪原は出会ってまだ二週間程しか経っていない。だが、自分が知らなかった彼女の年齢を明は把握していたから、もしかしたら知っているかもしれない。そう考えた所で、司は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
『恋愛に興味がない、って言っていたぜ。その先は踏み込まれたくなさそうだったから訊いていない。』
明の言葉に、司は目を見開いた。彼女が恋愛に興味がない事は自分も知っている。だが、踏み込まれたくなさそうだったと言うのはどういう事なのだろうか。司はすぐさま明に問い質したくなったが、止めた。その先は自分で直接彼女に訊くべきだ。
「そうか。ありがとう。」
明日、彼女に訊いてみよう。
そう決意した司は、すぐにでも雪原に会いたくなった。




