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公爵令嬢の恋の時間  作者: 雲居瑞香
番外編
16/23

番外編1

番外編、アウリス視点です。













 今日も、気が付いたら彼女を目で追っていた。








 アウリス・ヨウニ・カルナはカルナ王国の王太子である。金髪にアイスブルーの瞳と言う一般的なカルナ人の特徴を持つが、怜悧な美貌なので冷たい印象を与えることが多いだろうか。

 人に近づきがたい印象を与えるアウリスであるが、王太子なだけあり、夜会などではよく人に囲まれている。だが、彼の視線は周囲の彼らを通り越し、1人の少女を見ていることが多かった。


 波打つプラチナブロンド。目元は涼やかで、ジェイドグリーンの瞳を有している。アウリスと同じく一般的なカルナ人の容姿であるが、彼女は圧倒的な存在感を放っていた。

 まず、一般的な女性よりも背が高く、美人だ。中性的な面差しであるが、今は鮮やかな緑のドレスを着ているために完全に女性に見える。そして、彼女の存在感は外見だけではなく、内面からも発せられている。

 彼女はとにかく振る舞いがハンサムなのである。そして、男性貴族から嫉妬されるくらいには、女性にモテる。異性より同性にモテる珍しいタイプだ。


 名はリューディア・ティーリカイネン。公爵家の長女である。アウリスより四つ年下の少女で、アウリスの妹の遊び相手として幼いころから王宮に上がってくることが多かった。

 少女であるがかっこいい、とささやかれる彼女は、今物憂げな表情で一組のカップルを見ている。そのカップルのどちらも、アウリスは知っていた。


 一方はリューディアの妹セラフィーナ。もう一方は騎士団に所属するイェレミアス・アラルースア侯爵子息だ。2人とも、楽しそうに踊っている。


 どうやら、リューディアはイェレミアスに片思いしているらしい。その彼が選んだのは実の妹なのだから、リューディアの心情は推して知るべし、だ。

 しかし、それを都合がいいと思う自分もいて、アウリスはそんな自分に嫌気がさした。人の不幸を喜んでどうする。

 だがやはり、どう考えても、リューディアの思いが成就しなかったのはアウリスにとって喜ばしいことだった。なぜなら、アウリスはリューディアに片思いしているからだ。

 何故彼女が好きなのか、と問われると、アウリスは答えることができない。彼女が彼女であるから好きなのであって、それ以上でも以下でもない。

 笑顔を絶やさずに親切にふるまう姿とか、時々さみしそうな表情をするところとか、実妹セラフィーナをうらやましそうに見ているところとか。そのすべてが好ましいと思う。

 王女の遊び相手として王宮に上がっていたリューディアは、アウリスにとってもう1人の妹のような存在だった。王女たちよりもしっかり者で、しかし少し抜けたところのある彼女。礼儀をわきまえつつも、アウリスを王太子としてではなく、ただの友人のように扱ってくれる彼女は希少な存在だった。



 正直に言う。行動が何かと男前である彼女は、アウリスにとってもう1人の妹であり、そして、男友達のように気さくな存在だった。



 その関係が変化したのはいつだろうか。おそらく、リューディアがイェレミアスに恋したころだ。



 リューディアはこの国最強説のある剣士だ。同じく最強説のある男がいるが、彼に言わせると、彼女は「キチガイな身体能力」をしているらしく、単純な身体能力だけで言えば、彼よりも彼女の方が強いのだそうだ。


 その最強説のある2人とイェレミアスは同じ剣の師に師事した、いわば兄弟弟子だ。それを言うなら、アウリスも同じ師に剣術を習ったが、王太子である彼は少々彼女らとカリキュラムが違ったらしい。


 兄弟子にあたるイェレミアスに、リューディアは恋をした。アウリスから見ても、イェレミアスはいい男だと思うし、本来なら応援しなければならなかったのだろう。



 しかし……できなかった。



 リューディアが彼と結婚することになるかもしれないと考えると、胸が締め付けられた。なんだかもやもやして、正常に頭が働かない。リューディアを前にすると、いつも通りに振る舞おうと思っても、できなかった。彼女が自分の前からいなくなるかもしれないと考えるだけで何も言えなくなった。

 そうなるに至って、アウリスはようやく自分の恋心を自覚した。


 それが、今から半年ほど前の話。


 以降、アウリスの片思いは続いている。もともと年齢が上がるにつれてあまり話さなくなったアウリスとリューディアであるが、彼があまりにも見つめるため、彼女はとっつきにくさを感じているようだった。


「そんなに見てるなら、声をかけてくればいいじゃない」


 気づくと、背後に妹が仁王立ちしていた。第2王女ミルヴァ。リューディアは、彼女の遊び相手として王宮に上がっていたのだ。


「失恋で傷心しているところに付け込むのは常套手段だろう?」


 さらりと言ったのは、ミルヴァの婚約者のリクハルド・エルヴァスティ。アウリスの学友でもあり、リューディアの従兄でもある。爽やかな美形だが、腹黒い男だ。今の発言もなかなかひどい。


「……私には、そんな器用なことはできない」


 アウリスはすねたように言った。政治とか、戦の指揮とか。そう言ったことはどんとこい、なのだが、女性の気を引くにはどうすればいいかわからない。アウリスは王太子で見目もいいため、仏頂面で立っていても女が寄ってくるのだ。そのため、意中の女性の口説き方など思い浮かばないし、そもそもリューディアはその辺の女性とは違うのだ。

 ミルヴァとリクハルドがこれ見よがしにため息をついた。何だろう。いらっとする。


「お兄様、無駄に頭が回るのに、そう言うことろは不器用よね」

「深く考えなくていいのに。今まで通り、友達に接するようにさ」


 2人とも口々に言うが、それができないから困っているのではないか。

 表情に出ていたのだろう。リクハルドが肩をすくめた。


「じゃあ、僕がリューリを誘って来よう」


 そう言った彼は、婚約者のミルヴァの頬にキスをして、本当にリューディアを誘いに行った。ミルヴァがアウリスを肘で小突く。


「ほら。お兄様もあれくらい図太くないと」

「言ってはあれだが、自分の婚約者に対して、ひどいな、お前」


 思わずツッコミを入れると、ミルヴァは「愛よ、愛」とのたまう。どうしてこんな娘になってしまったのだろうか。さすがはじゃじゃ馬姫と呼ばれるミルヴァ。

 ふと見ると、リクハルドは無事にリューディアを誘い、ダンスフロアで踊っていた。思わずじっと見つめていると、ちょうどターンしたところでリューディアと目が合った。一瞬見つめ合い、彼女の姿はリクハルドの背に隠れる。アウリスは自分自身に呆れてため息をつき、視線を逸らした。気づけば、隣にいたミルヴァもいなくなっている。


 アウリスのまわりにだれもいなくなったためだろう。吸い寄せられるように彼のまわりに人が集まってきた。見え透いた媚を売る彼らに辟易しながら、アウリスは周囲を見渡した。ふと、ミルヴァがリューディアとセラフィーナの姉妹と話している姿を目撃した。

 声をかけられるだろうか。かけても、いいだろうか。自分がそんなことをしてもいいのだろうか。貴族たちの話を聞きながらしながら、アウリスは考えた。

 ここは夜会会場。そして、アウリスは王太子で、リューディアは公爵令嬢。アウリスが彼女に声をかけたところで、夜会では珍しくない光景だ。まあ、アウリスから女性を誘うことはめったにないのだが……。


 つまりは、後はアウリスの度胸の問題だ。


 数秒、逡巡した。だが、アウリスは覚悟を決めて、自分を囲む輪を出た。そのまま、うつむいているリューディアの方に向かう。アウリスが近づいてきたことに気が付いたのだろう。彼女が視線を上げる。


「……よろしければ、私と踊っていただけないだろうか」


 そう言って、アウリスはリューディアに向かって手を差し出した。セラフィーナの方が、「まあっ」と楽しげな声をあげた。ミルヴァが驚きの表情でアウリスを見ている。そして、リューディアがじっとアウリスのことを見つめていた。……否、睨んでいた。

 その目が『何言ってんだ、こいつ』と言っているような気がして、アウリスは動揺した。だが、勤めて表情に出さないようにする。まあ、気を張らなくても彼の表情は動かなかっただろうが。

 セラフィーナがリューディアに何かをささやく。それでもリューディアはアウリスを睨み続けた。

 そろそろ沈黙が苦しくなってきたころ、不意にリューディアが笑った。


「喜んで」


 ほっとしてリューディアをダンスフロアへいざなったアウリスだが、踊っている間の彼女は楽しくなさそうだった。笑顔が強張っていた。

 楽しくないか、と尋ねると、彼女は笑みを張りつかせて、そんなことはない、と答えた。しかし、どこに王太子に対して素直に『楽しくない』と答える人間がいるのか。

 やはり嫌われているのだろうか、とアウリスは悩みながら一曲踊り終え、リューディアと別れた。彼女と別れた途端、アウリスは令嬢たちに囲まれた。彼女たちは自分から主張はしなかったが、アウリスがリューディアと踊っていたのを見て、自分とも踊ってほしいと考えたようだ。

 そんな令嬢たちを適当に相手しながらまたリューディアの方を見ると、彼女も令嬢たちに囲まれている。周囲の少女たちより、リューディアはやや背が高いので、アウリスとばっちり目が合った。

 相変わらず彼女は異性より同性にモテるようだ。アウリスは思わず苦笑を浮かべそうになり、あわてて表情を引き締めた。しかし、彼が笑いそうになったことは彼女に伝わったらしく、俄かにリューディアはむっとした表情になった。


 その表情に、アウリスはそれなりに仲の良かったときを思い出す。


 今思えば、あの時はリューディアを友人として、妹として認識していたから、普通に仲が良かったのだろう。もう、あのころには戻れない。アウリスが彼女に恋情を抱いている限りは。


 なら、その先に進むしかないのだろう。アウリスはそう判断した。













ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


見てみたら、2話分しか書き溜めてない……仕方がないので、別の新連載と交互に隔日更新にしようかなと思いました、まる。

本当にそうなるかは不明です……申し訳ありません。

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