90話 運営イベント
クロスストーリーズオンラインには、芸能人をプレイヤーとして参加させ、そのプレイ動画についてトークを交わすバラエティ番組が、日本だけでも四つあり、地上波でテレビ放送されている。
ただ、売名目的で大勢の一般プレイヤーが芸能人に群がる事態を防ぐため、一般プレイヤーと芸能人がパーティを組むなど積極的に関わることはイベント規定で禁止されていた。
しかし、一般のプレイヤーが起こす騒動に芸能人たちが関われない弊害が大きいと判断されたのか、その規制は解除されることとなり、それに合わせて、ゲーム内での特別なイベントが企画されていた。
『さて、ついにゲームの運営者が主催するイベントが開催されることになりましたが、皆さん、自信のほどはいかがでしょうか?』
日曜日の午後七時、ゲームを終えてホテルに戻っていた真也が自室でテレビを眺めていると、ちょうどそのイベントについて話している番組が放送されていた。
それは以前に日村がゲストとして呼ばれていた番組で、女子アナが進行役を担当し、三人の有名芸能人がプレイ動画を挟みつつトークをするというバラエティ番組だ。
『自信いうてもなぁ、結構レベルに差がついてるから、キツイかもしれんなぁ』
『まあ、ダンジョンの攻略競争ですから。レベル二十後半程度の僕たちじゃあ難しいところがありますよ』
『私たちは一日中ゲームしてる訳にはいかないなんて不利すぎですよー。私だってゲーム漬けの日々を過ごしたいんです。他の仕事もしないと事務所に怒られちゃうなんてヒドくありません?』
女子アナにイベントについての話題を振られ、三人の人気芸能人たちが悲観的な意見を述べている。
『まぁ、先行する高レベルプレイヤーが公開する情報で後続が楽に進めるようなデザインのダンジョンらしいし、ある程度は勝負になるんだろうがねえ……』
『問題は高レベル組がすぐに動画の公開をするのかってところですよね。動画の再生数より、一番最初にダンジョンをクリアすることを優先されたら、僕たちくらいのレベルじゃあ太刀打ちできませんよ』
『でも、きっと事情がない限りは公開してくれると思います。そうしないと後続の攻略者たちの動画に視聴者が流れちゃうんですから。初めての運営主催イベントで、いつもよりずっとこのゲームに注目が集まってるのに、ここで動画の公開をもったいぶるなんて、絶対に損じゃないですか』
今回のイベントの舞台は運営の用意した迷宮型ダンジョンであり、そこをクリアする速さをプレイヤーたちに競わせるというものだ。
高レベルのプレイヤーほど有利になるイベントであるが、運営の説明では、比較的低レベルのプレイヤーでもチャンスはあるらしい。
ダンジョンは入り組んだ迷路のようになっているようで、先に進むには各所に設置された仕掛けやトラップなどを解除しながら進まなくてはならない。
そのため、先行者のプレイ動画から攻略情報を得られれば、低レベルプレイヤーでもトッププレイヤーたちに追いつくことが容易になる、という話だ。
先行してダンジョンの攻略を進めるプレイヤーが動画を公開しなければ、視聴者は公開されている中で最も前線に近いプレイヤーの動画に移っていってしまう。
そうなるとファンを失うことになりかねないので、情報の完全な秘匿は難しい。
そのため、高レベルプレイヤーたちは、できるだけ他のプレイヤーに情報を渡さないように、工夫して動画を編集することになるだろう。
そして、先行攻略者同士でも、攻略情報を探り合う情報戦になるのではないか、と真也は予測していた。
『問題は何がクリア報酬なのか分からないことですかね?』
『そうなんだよなぁ、ゲーム内の力関係を変えるほどのアイテムが用意されてたりしそうな気がすんだよね。初めての運営イベントだし、運営者も盛り上げたいだろうし。せっかくだし一般プレイヤーと手を組んだりして高レベルプレイヤーたちに対抗してみるべきか?』
面白い流れになってるな、と思いながら真也は興味深そうにテレビを眺めていた。
そんなとき、ドアを控えめにノックする音が聞こえてきて、真也は眉をひそめる。
一瞬だけ白石が来たんじゃないかと警戒する真也だったが、白石はとっくにこのホテルから追い出されていたことを思い出し、すぐに緊張を解いた。
来客の姿を確認するためドアスコープを覗くと、そこにいたのは車椅子の少女。
意外な来訪者に首を傾げつつ、真也はすぐにドアを開けて彼女を出迎える。
「いらっしゃいルリハちゃん。一人で出歩くなんて珍しいね。どうかしたの?」
「こんばんは真也さん……その、すこし、真也さんにお願いがあって……」
「お願い? そんな遠慮しなくていいよ。ルリハちゃんには色々と付き合わせちゃってるから、俺にできることなら大抵のことは引き受けるよ?」
なにやら申し訳なさそうに言いよどむルリハだったが、真也に促されると、意を決したかのように口を開く。
「その、私の友達を助けてほしいんです!」
「友達……?」
「真也さんのお隣のポッドを使ってる、アイドルの瀬川さんのことです」
「ああ、なるほど、彼女のことか……」
ルリハの言葉に、納得顔になった真也。
つい最近、瀬川に起きたトラブルを思い出し、ルリハが何をして欲しいのかを察したのだ。
「まあ問題ないな。いや、むしろ都合がいい」
「ホントですか!? ありがとうございます!!」
真也がすぐに了承すると、不安そうだった表情を笑顔に変え、とても嬉しそうに礼を言う瑠璃羽。
そんな純粋な笑顔を眺めつつ、真也は今回のイベントに瀬川の問題を活用しようと、算段を立て始めるのであった
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