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86話 決着

「ああ、僕の魔法は〈スペルドロー〉によるものだから一度しか使えない、なんて甘いことは考えてませんよね? 当然、スキルレベルは上げているので、さっきの〈サンダーランページ〉だって、あと四回は撃てますよ? MPを回復し続ければ、ですけどね。だけどそれも、あなたが用意してくれたアイテムで解決してしまいます。あなたは、自分を倒す人間のお膳立てをしていたんですよ。あはははっ、実に滑稽ですね!」


 勝ち誇った態度で高笑いした白石は、バカにするような視線を真也に向ける。

 そして、わざとらしく、見せつけるように〈MPポーション〉らしき小瓶の中身を飲み干した。


「――っ? ――っ!! ――っ!?」


 その直後、白石の様子に異変が起きた。

 口をパクパクと動かし、なにやら焦るような挙動を始めた。

 おそらく、〈サンダーランページ〉を使おうとしたはずだ。

 入念な準備のおかげで相手を追い詰め、勝利を確信し、後は決着をつけるだけ、白石はそう考えていたのだろう。

 だが、トドメとなる魔法スキルを発動するための、声が出せなかったのだ。


「ふう……本当に滑稽なのは、いったいどこの誰なんだか」


 混乱する白石の様子を見て、憐れむように苦笑する真也。


「何をそんなに焦ってるんだ? 声が出せないからか? そんなこと、当然の結果じゃあないか。お前が今飲んだのは、〈MPポーション〉じゃあないんだから」

「――っ!?」

「お前に渡していた〈MPポーション〉は、〈沈黙〉の状態異常を付加するアイテム、〈サイレンスボトル〉を〈偽装〉したものだったんだよ。何で警戒しなかったんだ? この手口はお前も知っていただろうに。まさか、本気で俺を出し抜けているとでも思っていたのか? だとしたら、とんだ思い上がりだったな」


 真也が心の底から蔑むような視線を向けると、白石は目を見開き、信じられないとでも言いたげな様子で呆然としていた。


「確かにお前の擬態は上手かった。いや、素で裏切っている自覚がなかったんだから、擬態じゃあなかったのか。いつお前がしっぽを出すのかと警戒していたつもりだったが、〈テイクソウル〉で経験値を盗んでいたことは気づけなかった。まあ、前衛職不足で戦闘中はしっかり監視する余裕がなかった、って理由もあったから仕方ない。いいところに目をつけたもんだと感心させられたよ。だが、宿に火をつけた件は迂闊すぎたな。敵が乗鞍だったら、あんなヌルイことはしなかった。アイツはもっと周到に準備をするし、どう転んでも確実に自分の利益になるような手を考えてくるような奴だ。逃げられることを全く考えていないような計画をするはずもないし、状況的に真っ先に乗鞍が疑われるタイミングで実行するはずもない。となると、残る犯人候補は盗賊ギルドの関係者か、お前かだ」

「――っ!!」


 声を出せない白石が何か反論でもしようとしているのか、必死の形相で口を動かしているが、真也はそれを完全に無視し、一方的に事情を語っていく。


「だから、火事の翌日、焼けた宿の様子を秀介に調べてもらった。するとどうだ、深夜、住人が寝静まった後の激しい火災だったにもかかわらず、奇跡的に死者は出ていないらしい。逃げ遅れた人でも、気を失っている状態でなぜか助かった人までいたそうだ。これで放火犯はプレイヤーだったと推定できた。そうなると白石、犯人はお前以外ありえない。どうせ、俺がシャロットとグラネルの領主にやったような仲間割れを誘う手口を真似たかったんだろ? 俺のやり方に憧れてる、とか言ってたしな。だが、俺を嵌めるにはちょっとお粗末すぎる計画だ」


 苦々しく表情を歪めた白石に、真也は彼が一番聞きたくなかったであろう現実を突き付ける。


「今まで俺が、お前の裏切り行為に何も対処しなかった理由を何だと思っていたんだ? お前の手口が巧妙だったせいで、俺が全く気付けなかったからだと思っていたのか? でも残念だったな、大ハズレだ。本当の理由はな、お前が、わざわざまともに相手をする価値もない、何かのついでに片づける程度でいいような、取るに足らない雑魚でしかなかったからだよ。自惚れるな」

「――っ!?」


 真也の言葉がショックだったのか、白石は驚愕の表情を浮かべた後、呆然自失といった様子で真也を見つめる。


「盗賊なのに魔法型にしたのは、範囲攻撃に弱い俺を倒すためだろう? だが、それが裏目に出たな。そんなあからさまなビルドをして、俺が警戒しないとでも思ったか? それに、対策も簡単だ。魔法を封じられたら何もできないなんて、考えが足りなすぎる」



 白石の動揺は、その手下たちにまで広がっていて、先ほどからナイフの〈投擲〉は疎らになっていた。

 その隙をついて、真也が反撃のためのスキルを使用する。

 直後、真也の周りに展開される、輝く黄色い魔方陣。

 それを見た白石の手下たちにどよめきが広がる。

 秀介の〈サンダーランページ〉が巻き起こした惨状を思い出したのか、標的である白石の周囲にいる盗賊たちが皆、逃げ惑い始めた。

 だが、その退避が間に合うことはない。

 魔法スキルの発動速度は、〈技術〉と〈素早さ〉に依存するため、真也の魔法は圧倒的な速さで発動したのだ。


「〈サンダーランページ〉!!」


 当然、それは〈スペルドロー〉の効果で使用された魔法スキルだ。

 真也も、スキルレベルは1であるが、白石と同じくそのスキルを取得していたのだ。

 唸りを上げた雷撃が、慌てて防御姿勢をとる白石に向けて突き進み、直撃と同時に、雷光がその一帯を真っ白に染め上げる。

 だが、光が消え去った後、倒れ伏している人は誰もいなかった。

 それもそのはず、魔法の威力は〈魔力〉で決まるので、〈魔力〉が5しかない真也の魔法は、その派手な見た目に反して、ほとんどダメージを与えられないのだ。


「……?」


 その魔法を使った真也の意図が掴めなかったのか、困惑の表情を浮かべる白石。


「――っ!?」


 だが、盾にしていた外套を戻して周囲を窺うと、その表情は驚愕に彩られた。


「最後に聞いておこう。お前曰く俺の時代はもう終わったそうだが、それで、お前の時代は一体いつ来るんだ?」


 白石の目の前に立っていたのは、既にシャムシールを振りかぶった状態の真也。

 〈サンダーランページ〉は、敵のリーダーである白石を直接叩くために、取り巻きたちを散らしつつ、雷光を目くらましにして観客席に乗り込む目的で放ったものだったのだ。

 絶望の表情を浮かべる白石に、真也は躊躇なく刀身を振り下ろし、その意識を一瞬にして刈り取る。


「俺のようになりたいと言っていたが、残念ながら、お前じゃあ完全に力不足だったようだな」


 〈昏倒〉した白石を見下ろし、裏切者へと侮蔑の視線を向ける真也。

 だが、まだ問題の全てが解決したわけではないのだ。


――パチ……パチ……パチ……


 突然、真後ろから聞こえてきたおざなりな拍手に、真也は気を引き締め直す。


「ご苦労。下らん茶番劇だったが、少しは楽しませてもらったぞ」


 真也が振り返ると、そこにはいつの間にか、冷めた表情のロケが立っていたのだった。


「だが、個人的な話だが、観劇をするならば喜劇よりも悲劇の方がいい」


 そんな不穏なことを言うと、ロケは背負っていた大剣の柄に手をかける。


「いいんですか? あなたが直接、盗賊ギルドのいざこざに手を出したことが知れ渡れば、ギルドの所属派閥、国王派はいい顔をしないと思いますが?」

「知れ渡れば、の話だ」


 この場には、ロケの行動の証人となる観客たちが大勢いる。

 だが、今はその誰もがパニック状態で逃げ惑っているため、真也たちの方に注目している人物など、ほとんどいない。

 今、ロケが何をしたとしても、不確定な噂程度のものにしかならないだろう。


「それに、取るに足らん下っ端を一人、切り捨てたところでどこに問題がある?」

「私が取るに足らない存在などではないこと、あなたが気付いていない訳がない。ビゲルの不自然な成長には、思い当たる節があるはずです」

「フン、噂の救世主とやらだろう? 下らん。そんなものをありがたがるのは、愚かな宗教家たちだけだ。殺したところで、誰も文句など言わん」

「それはどうでしょうね? そろそろ、来ていただける頃合いですよ」


 そう言って、真也は意味ありげに空を見上げる。

 眉を寄せ、不審げにその様子を眺めるロケ。

 だがそこに、ロケの部下と思われる盗賊が音もなく近づいて来ると、耳打ちをして何かしらの情報を伝えた。


「……あの小娘か」


 途端に分かりやすく不機嫌になったロケが、吐き捨てるように呟いた。


「どうします? 今、この場で私を切り捨てますか?」

「……今回の礼はいずれしよう。貴様のその顔、覚えておくぞ」


 イラつきを隠すように無表情になったロケは、そんな捨て台詞を言い残すと踵を返し、部下たちを連れて闘技場から引き揚げていった。

 そのすぐ後、闘技場の上空には、シャロットの率いる天馬騎士団が飛来するのであった。

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