55話 舞台の完成
前話の後半部分に無理がある箇所があったため、該当部分を削除しました。
副団長の手紙をすり替えた部分です。
申し訳ありませんがご了承下さい。
その日の昼休憩には、テレビ枠以外のプレイヤー達全員とリーサ救出に関する取り決めを交わすことが出来ていた。
その結果は当然だろう。
リーサとカティに同情する流れは既に出来上がってしまっており、それを変えることは難しい。
その上、現在は特に皆が強い武器を欲しがっている、という事情もある。
なぜなら第2期プレイヤーの選考が進み、じきに新規プレイヤーが入ってくることが確定しているからだ。
それも、第1期プレイヤーとの差を詰める為の特典が何かしらあるらしい。
そのため、皆は新規プレイヤーと少しでも差をつけようと焦っているのだ。
真也の話に飛びつかない理由がなかった。
三澄でさえその流れには逆らわず、苦々しい表情を必死に押し殺しながらもその取り決めに同意していた。
救出後にプレイヤーから情報が漏れ、逃げ回り続けなくてはならない可能性は低く出来たと言える。
後顧の憂いがなくなった真也は、更に準備を進めるために皆でグラネル周辺の街道へと来ていた。
「あ、二匹が来るぞ」
「ちょうどいい、ソイツらで試そう」
カティの言葉にそう答えた真也の手には、〈FANGコア〉が握られていた。
「それ、使い方分かるのか?」
「知らん、何とかなるだろ。皆で一匹は抑えておいてくれ」
秀介の疑問の声に投げやり気味な返事をしつつ指示を出す真也。
その後すぐに麦の藪から飛び出して来た狐型モンスター、〈ゴールドフォックス〉二匹のうち一匹に秀介達が皆で対処している間、真也は残る一匹を迎撃した。
しっかりと引き付けてからシャムシールで斬りつけ、怯んだところに今度はこちらから飛び掛かる。
そして、牙の形をした〈FANGコア〉の根本部分を握りしめ、体勢を崩した〈ゴールドフォックス〉の脇腹に突き立てた。
コアを刺されたモンスターの変化は劇的だった。
コアは少しづつ体内にめり込んでゆき、苦しむように絶叫した〈ゴールドフォックス〉がのたうち回る。
その最中に体格が一回り二回りと大きくなり、体表から鉄板やボルト、パイプなどが飛び出していく。
既に〈ゴールドフォックス〉ではなくなったそのモンスターは、変化が終わるとよろよろと立ち上がり、甲高い遠吠えを上げた。
「成功したのか?」
もう一匹の〈ゴールドフォックス〉を相手にしていた秀介達が、戦闘を中断して真也の方へ近付いて来た。
戦っていた〈ゴールドフォックス〉が、コアを埋め込んだ個体の遠吠えを聞いた時点で大人しくなってしまったためだろう。
「そうみたいだな」
「名前が〈FANGフォックス〉に変わってますね」
秀介の問いかけに真也が答えると、乗鞍が〈鑑定〉で得た情報のモンスター名だけは教えてくれた。
「おい、言葉は分かるのか? こちらの指示を聞いてくれるってことでいいんだよな?」
真也が問いかけると、その目に理知的な光を宿した〈FANGフォックス〉はゆっくりと頷いた。
「確かコイツは、コアを一番多く持っている人に従うって話だよな?」
「恐らく、製作者と思しきレイスコートかその仲間がコアを複数持っている筈だ。その誰かがコイツへ俺に従うよう指示してるんだろう」
そう言っている間に、〈FANGフォックス〉の下へと周囲一帯の〈ゴールドフォックス〉が続々と集まって来ていた。
「これは使えるぞ。だが、シャロット達が来るまでにしっかりと準備をしないとな」
そう言って黒い笑みを浮かべた真也は、リーサ救出作戦の舞台作りに取り掛かるのだった。
大量の麦を積み込んだ馬車の群れがグラネルの街へと入って行く風景は、この街では極々日常的なものだ。
馬車は街中の巨大な倉庫へと進んで行き、麦を下ろしては再び街の外の麦を積みに行く。
その馬車群れの中の一台に、真也達の御する馬車が混じっていた。
街の周囲にある麦を刈り取り、倉に運び込むバイトをしているのだ。
「今日はこれで上がります」
「おう、お疲れさん」
大量の麦を倉庫に運び終えた真也がそう言って、倉を管理している男から賃金を受け取る。
手慣れたやり取りだが、それも当然、領主の屋敷を訪れてからの二日間、ひたすらここで働いていたのだ。
じきにシャロット達がこの街に到着するため、早めに切り上げ領主の屋敷に帰ると、門番に呼び止められる。
「馬車に何を積んでいるんだ?」
乗鞍が徴税官として仕える話になっていたため、領主の屋敷に部屋を用意されている。
当然、出入りは自由なのだが、いつもは空の馬車に積荷が満載されていることを門番が疑問に思ったのだろう。
「いえ、なに、〈ゴールドフォックス〉の毛皮を仕入れただけですよ」
「ふん、そうか」
乗鞍の説明に頷いた門番は何気なく積荷の確認したが、積み上げられた金色の毛皮を一目見ると、すぐに興味を失ってしまった。
その毛皮の下に、僅かに鼓動するものがあることには気付かずに。
馬車を預けた真也達は、再び街道へと出てモンスターを狩っていた。
するとそこへ、一台の馬車と、それを護衛するように隊列を組んだ天馬騎士達の一団が近付いて来る。
もちろんそれはシャロット達の一団であり、真也達は彼女らを待ち構えていたのだ。
「おや、貴方はシンヤさんではないですか」
その一団とすれ違うとき、真也がシャロットに声を掛けられた。
気付かれなかったときはこちらから声を掛けようと考えていたが、名前まで覚えられていたとは、思いの外彼女の印象に残っていたようだ。
「これはシルフィス団長ではないですか。奇遇ですね。任務は終わったんですか?」
「そのようなものです。貴方は商隊の護衛か何かでこの街へ?」
真也が馬車の方へと視線を送って尋ねると、シャロットは余りそのことに触れて欲しくなさそうな様子で話を逸らす。
「そうですね、今は商人の護衛をしています。、マディソン男爵と取引を始め、屋敷に滞在することを許された方の護衛ですから、後でまたお会い出来る機会もあるかも知れません」
「マディソン男爵と、懇意にしている商人ですか……」
「ああ、いえ、ここだけの話ですが、男爵は余り人柄がいいとは言えず、取引はやめようという話になっているので心配はご無用です」
マディソン男爵の名前を聞くと露骨に眉をひそめたシャロットに、真也はすぐさまフォローを入れた。
生真面目な彼女には、欲にまみれた悪徳領主など嫌悪の対象でしかないのだろう。
「それが賢明かと。あの者は信用に値しない人物です」
「黒い噂も多いですからね。最近では、何やら大量のモンスターを使役した悪事を考えているとか」
「私もそういった話は、昨夜泊まった宿でグラネルから来た商人に色々と聞きました。ただ、流石に眉唾ものの噂が多いようです」
「確かに、領主は嫌われているせいで、根も葉もない噂を流されることも多いようで、荒唐無稽な話ばかりです。ですが、火のない所に煙は立たないものですから、何かしらの真実が混ざっていてもおかしくはないかも知れません。……おっと、仕事の邪魔をしてしまいましたね。お時間を取らせてしまって申し訳ありません」
「いえ、そんな、こちらから話しかけた訳ですし、私の落ち度です。では、先を急ぎますのでまた機会があれば」
真也が、天馬騎士団の隊列が街道で立ち往生してしまっていることを気にした風に謝罪すると、シャロットは少し焦ったように隊列を進め、去っていくのだった。
その姿を眺めながら、真也は満足げに微笑む。
真也達が故売商など、その手の人物達に金を払って流した噂が、しっかりとシャロットの耳にまで届いていたことを確認し、計画が上手くいっていることが確信出来た為だ。
「救出作戦は計画通り今夜に決行だ」
真也は周囲にいる仲間達にそう伝え、計画の段取りを再確認していった。




