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13話 協力体制

少し重い話が入ってますので注意してください。

瑠璃羽が車椅子で去って行くのを見送っていると、ポケットのスマホが震えだす。

取り出して見ると、画面には海堂秀介と表示されていた。


『おーす、メシ食い行かね?』

「ああ、いいけど……他のヤツは?」

『いや、今回はサシだ』

「なんだ、俺もちょうどサシで話したいところだったんだ」

「だろうな、まあ、なんかあると思ったし」

「ん?」


電話越しの声と本人の声が両方聞こえた。

振り返ると、そこには案の定、ウルフショートの髪を軽く茶髪に染めた男がしたり顔で立っていた。


「もう来てんのかよ」

「逃がさない為にね。何か面白い情報もってんだろう?」

「まあな」

「ホテルの食堂じゃない方がいいよな?」


クロスストーリーズオンラインのイベントでは、プレイヤー達に寝泊まりと食事の為にホテルが用意されている。

会場であるコンベンションセンターの直ぐ隣に建つビジネスホテルで、費用はプレイヤー達に一切請求されないため、ほとんどのプレイヤーはそこを利用しているだろう。


「もちろん別の所で」


プレイヤー達が一同に会す場所で話をすれば、聞き耳を立てられかねないからだ。


「あ、あとラーメン以外で」

「ゲームのせいで体ほとんど動かせないのにラーメンはキツイだろ」

「だよな! こんな状態で家系ラーメン食うヤツの気がしれねーよな」

「なんか具体的だな」


そんな軽口を叩きながら会場の外へと向かうのだった。









二人はコンベンションセンターの周辺をうろつき、偶然見つけた蕎麦屋に入った。

一番奥の角の席に座り注文を済ませ、話を始める。


「いやーでも、俺らよく受かったよな、プレイヤー選考」


秀介はまず、コミュニケーションから始めるつもりのようだ。

普通に聞いても情報を吐かないとでも思っているのだろうか。


「まあ、シュールな面接だったな」

「何聞かれた?」

「やってきた仕事の詳細とか、プレイしたゲームの内容とか、どんなプレイをしたのかとかを根掘り葉掘り聞かれたな」

「やっぱ似たようなものか。俺の場合、ネットに上げてあった自分の実況動画、全部チェックされてて、その内容をつつき回されたよ」

「まあ、お前の場合、それが本業だもんな。面白い世界もあるもんだ」


秀介はプロのゲーム実況者だ。

真也もそんな職業が存在するのか半信半疑だったが、どうやら実在するらしい。

動画の広告収入とゲーム会社からのステマ収入で生計を立てる、ゲーム実況者の中でもトップの人気を持つ者達。


「そういや儲かってたの?」

「結構ね。この仕事で一生食っていこうって思えるくらいには。でも、真也こそ稼いでただろ? 給料良かったらしいじゃん?」

「知ってるか? カネって、使う時間が無いと無意味ってこと」

「あー……成る程。……じゃあそのせいで辞めたん?」

「まあ、そうなるな」

「……いやー。それだけじゃないな」


秀介の雰囲気が変わった。


「……ん?」

「お前はそんなに簡単に物事を投げ出すヤツじゃなかった筈だ」

「……」

「何か切っ掛けでもあったんだろ?」

「……なんでそんなことが聞きたいんだ?」


秀介は少し考える仕草をすると口を開く。


「俺がお前をこのゲームに誘った理由は予想してるよな?」

「……初めから信用出来る仲間をプレイヤー達の中に入れることで、ゲームを有利に進めたい。そんなところか?」

「大正解。だからお互いのことを理解出来るように聞いておきたかったんだけど」


大学を卒業し、ほとんど会わなくなって七年。人を変えるには十分すぎる時間だ。

その溝を埋めておきたい、という話のようだ。


「……クソつまらない話だぞ」

「だろうな」


そんなことは覚悟の上といった様子の秀介を見て、真也は口を開く。


「会社の上司がな、死んだんだよ。過労死だった」

「……」

「仕事が出来て、尊敬出来る良い上司だった。俺はあの人を目標に仕事を頑張って来たんだよ」

「そうか……」

「あの人のように仕事が出来る人間になりたい。そんな風に思ってたのに、あの人の結末はそんなものだ」

「……」

「それでな、行ったんだよ、葬式。そしたらな、親族がそんな場で喧嘩してんだ。遺産の取り合いだとよ。あの人は仕事一筋で結婚してなかったから、関係の薄い親戚達で誰の取り分が多いだの少ないだのってな」

「……それはキツイな」

「まだ続くぞ。その親戚達が、会社を訴えたんだ。当然会社は補償金を払うと思いきや、徹底抗戦をした。本人が勝手に頑張り過ぎたんだ、会社に責任は無いと言って。確かに商社マンは多くの権限を個人に委ねられるから、本人の落ち度もある。だが、頑張り過ぎなければ生き残れない環境を作ったのは会社だろう。商社は人材が資本、とか言いつつ、結局社員は使い捨ての駒でしかなかったんだよ」

「……」

「……葬式で、上司の苦渋に満ちた死に顔を見たとき、思ったんだよ。俺の未来はこれなのかって。だから会社を辞めた。後悔はしてない。俺は使い捨てになんてされる気はない。だから俺は好きに生きる。このゲームで盗賊を選んだのもきっとその影響だ。大学時代の俺がゲームでも盗賊を好き好んでやるヤツじゃなかったから、お前は疑問にでも思ったんだろう?」

「ああ、そうだ。だから何かあったのかと思って話を聞いたんだが……大丈夫みたいだな。お前は今も昔も変わっちゃいないよ。」

「どうだかな」

「相も変わらずのクソ真面目なヤツだ、ってことが分かって良かったよ」

「ハッ、どこが。やめだやめだ、こんな下らない話は止そう。無駄な時間だったな」


そう言いつつも、話すことで楽になった自分がいることに、真也は気付いていた。

そういうことも考慮して秀介はこの話を聞き出したのか知れないな、とも思い、少しだけ感謝する。


そこでタイミング良く蕎麦が運ばれて来て話は中断される。

ザルに盛られた蕎麦をとろろの入った汁に付け口へ運ぶ。

落ち着く味だ。


「いやーでも、あのゲームはホント凄いな」


秀介がさっきの話など無かったかのように明るく切り出したので、真也もそれに倣う。


「確かにな。NPCの人工知能なんて桁外れの性能だ。人間と全く変わらん」

「俺は異世界に転生したんじゃないかって錯覚したよ」

「分かる分かる。科学はここまで進歩したのかって実感したなあ」

「でもさ、さすがに初期装備無しは笑ったわ。賞金がかかってるんだから楽にクリアさせる気はないって運営に言われてるみたいだ。まあ、その分、街の人達と仲良くなれて楽しいんだけどね」

「ああ、それ。俺ら盗賊のせいだわ」

「……え?」

「本当は皆、1人1万ゴールド初期資産持ってたっんだけど、盗賊が盗んじゃったって話」

「……マジで?」

「マジマジ。て言うか気付けよ」

「……いやいや、だって、これ普通のゲームじゃないから。賞金を賭けた謂わばチャレンジイベントだから。多少の鬼畜仕様は簡単にクリアさせない為にしょうがないって思うじゃん」


このイベントにはゲームクリアに対して莫大な賞金が掛けられている。

人間、疑問を感じたときに、目の前にそれらしい回答が転がっていれば、それで満足してしまうもののようだ。


「だって賞金20億を賭けたゲームだぜ。それだけあったら何が出来るって」

「7億のロボ買って維持費も払えてオプションでオールレザー内装まで付けられるな」

「エンジン無いぞそれ。て言うか革張り要らねえよ!」


かなりショッキングなカミングアウトだったが、秀介は結構冷静である。

秀介はゲームはゲームとして楽しめる人間なのだ。


「て言うか、俺に何か言うことは無いのか?」

「ちょっと借りてるよ?」

「40秒で謝罪しな!」

「まことに遺憾なことであると認識しております」

「謝る気無いよね! それ!」

「俺は、お前からは、盗んでない。だから謝る義理はない」

「マジかよ真也最低だな」

「ああ、自覚してる」


秀介は怒っているようなことを言っているが、本気で怒っている訳ではない。

この状況を楽しんでいるようである。


「器が小さいやつだ。笑って許せよそれぐらい」

「これを許せるヤツは中々いないと思うぞ。だって俺、金策の為に土木工事してんだぜ、ゲームの中で」

「はははっ。駄女神と一緒に転生でもしたのか?」

「お前らのせいだよ!」

「さっき街の人と仲良くなれるからよかったとか言ってたじゃん」

「撤回するわそんなもん!」


ひとしきり言い合うが、双方とも楽しげである。


「さて、当初の予定通り協力していこうか?」

「この状況で良く言えるな、そんなこと。まあ、いいけど」


真也はポケットからスティック状の小さな機械を取り出し、テーブルの上に置いた。


「このICレコーダーに盗賊プレイヤー達の秘密会議の内容が録音されてる。公開はしないでくれよ」

「お前、いつもレコーダーなんて持ってんの?」

「言った言わないの水掛け論が俺は大嫌いなんだよ。コイツがあればすっとぼけ野郎も一発で黙る。まあ、相手の同意の無い録音だから裁判なんかでは使えない可能性があるんだけどな」

「シビアな生き方してんなー」

「まあな」


秀介がそれを受け取ったのを確認して真也が言う。


「まあ、これからいろいろと融通利かせていこうか」


そんな言葉に秀介もニヤリと笑うのだった。

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