44 孤児院での仕事
全然早く投稿できませんでしたね。ごめんなさい。
あと今回の話、全くといっていいほど話進んでないです。ごめんなさい。
つ、次は頑張りますとも!
前回のあらすじ:ついに孤児院での仕事、始めます。
「じゃまをするな! そこをどけ!」
「それはできないかな」
立ちふさがるわたしに向かい合うのは、十一人の小さな戦士たち。みんなそれぞれ思い思いの棒を持ってわたしを見据えている。
「きゃー助けてー!」
ノリノリで声を上げるのは、わたしの背後……にいるカグヤのさらに後ろ。人質役として捕まっている数人の女の子たち。二番手のカグヤが抑える必要もなくみんな大人しく観戦している。
小さな戦士たちは今にも攻めてきそうな気配だけど、行儀よくわたしのセリフを待っているみたいなので、精一杯あくどい笑みを作りながら威圧感ありそうな声で叫んだ。
「ここを通りたいならわたしを倒すんだね!」
「全員かかれーっ!」
「「「わーっ!!!」」」
鬨の声(……歓声?)を上げながら突っ込んでくる戦士たちを見つめる。子どもらしい無邪気な顔で棒を振り回す姿には何するか分からない恐ろしさがあるけど……まあなんとかなるかな。
全力で殺しに来るとかそういうわけじゃない、ごっこ遊びだしね。
勇者ごっこ。
孤児院のちびっこたちがよくやっているらしく、いつもはカラジャスさんが魔王役なんだけど、たまに他の冒険者が来たときはその人にやってもらってるそうだ。
今回はわたしたちがその役。
二人いるから役を分けて、魔王カグヤ、その配下のわたし、という風に纏まった。
後に本命が控えてるわけだから、配下役のわたしはそこそこのところでやられるのがベストなんだろうけど……具体的にどんなふうにすればいいんだろ?
ま、なるようになるかな。
正面から突っ込んできた子の振りおろしを構えた棒で受け流しながら、周囲を確認する。
わたしを半円形に囲む十一人は、思い思いに棒を振っているようでありながら、若干連携ってものが感じられるような動きをしていた。
普段はBランクを相手してるだけあって、自然とこういうことも身に付いたのかもしれない。
「たあっ!!」
「おっと」
リーダー格の少年が、攻撃を受け流して体勢を崩したわたしの隙を突いて渾身の振りを見せたけど、甘い。
棒で防御できなくても、避ければいいだけだからね。
さっとかわしたわたしの横で、大振りの一撃は空しく地面を叩いた。
……というか、それ結構力籠もってないかな。当たってたらけっこうひどいことになってたと思うんだけど……。
今更ながら、子どもたちの容赦のなさに戦慄する。
「くっ! こうなったらまほうだ! まほうしかない!」
地面を叩いた棒を悔しげに眺めていた少年が指示を出すと、わたしを囲んでいたうちの一人が右手を掲げた。得意気な顔でなにやらムニャムニャ唱えている。
ちょっと待って。まほうって……魔法?
異世界じゃごっこ遊びにも魔法を使うの!?
「くらえ!! 〈ばいんど〉!」
思わぬ状況に完全に混乱する中、呪文が完成したのか高らかに魔法名が叫ばれる。
何が起こるのかと全身の神経を集中させるわたしの背中を冷や汗が伝った。
そして――事態は想像の斜め上をいった。
「やあっ!」
「とぉっ!」
魔法名に合わせて飛び出してきた二人の少年が、わたしの両足にがっしりとしがみついたのだ。
「ええっ!? まさかの人力魔法!?」
でもたしかになんか子どもの遊びっぽい!
深い納得を感じどこか安心感を覚えるも、そんなわたしの姿はどう考えても隙だらけ。
Bランク仕込みの子どもたちにとっては狙わずにはいられない大きな隙だ。
「今だ!!」
「「「わぁあーーっ!!!」
「え、わっ、ちょっと待っ……!」
思わず漏れた心の呟きは、子どもたちに聞き入れられるわけもなく、容赦ない総攻撃が浴びせられた。
「くっ、の……このっ!」
不安定な姿勢のままなんとか対処しようと頑張ってみるも、絶対的に手数が足りなかった。両足を抑えられ移動できない以上腕の数の違いはどうにもしがたい。
さすがに動けない相手にまで全力の攻撃をしてくる子どもたちではなかったけど、それでも塵も積もればというか、地味につらい。
もともとやられ役であるわけだし、そろそろ潮時かな。
だけど、そう考えるのは少しばかり遅かったらしい。
「……いたたたっ!?」
突然発生した明らかに打撃じゃない衝撃に思わず叫んでしまう。
びくっとして動きを止めた子どもたちを若干強引に振り払い、包囲から離脱した。
反射的に抱き寄せていた尻尾を撫でながら涙目になっているのを自覚する。
……思いっきり尻尾引っ張られたー……。
気になる気持ちも分からなくはないんだけどね。見た限りこの孤児院には獣人種の子はいなかったし珍しいんだろうさ。でも、それとこれとは話は別。
耳とか尻尾とか、獣人特有の器官は、今までなかったからってこともあるけど、かなり敏感であるらしく無造作に触られるのはひどく不快感を覚える。引っ張るなんてもってのほか。
事故のようなものだと内心分かっていながらも、せめて一言謝ってほしいと、引っ張った犯人を見る。
そして、想像外の出来事に絶句した。
「少し。向こうでお話ししよう?」
――魔王が降臨していた。
いつのまに現れたのか、尻尾を引っ張った犯人(五歳くらいの男の子)を背後から抱え上げたカグヤはいつになく笑顔。
ただ抱えられているだけのはずなのに、壊れる寸前の洗濯機みたいに不自然に震える男の子は返事をする余裕もなく涙がこぼれ落ちそうだ。
周りの子どもたちも笑顔のまま暴力的な雰囲気を醸し出すカグヤにどうすることも出来ず、固い顔のままじりじりと後ずさっている。
一瞬前の興奮した雰囲気の欠片もない惨状に、今まで何を考えていたのか分からなくなった。
わたしがカグヤに話しかけられたのは、男の子の返事を待たずにカグヤが移動するギリギリ前だった。
「カグヤっ! こ、子どものしたことなんだからそんなに目くじら立てなくても!」
「でも」
「ほらとりあえずその子を下ろす!」
カグヤに発言の隙を与えないようにごり押す。
もし反論を許したら、なんだかんだで丸め込まれちゃうかもしれないし。そうなったときに男の子がどんな目に遭うのかまったく予想がつかない。
笑顔を収め普段の無表情に戻ったカグヤからは特に感情を読み取ることは出来なかったけど、それでも特に含むところはない様子で素直に男の子を下ろしてくれた。
ただ、矛を収める気はなかったらしい。
少し考え込んだ後わたしを目線で後ろに下がらせると、無事解放された男の子を囲んでいる子どもたちに向かっていく。
「よく我が配下を倒した。褒めてやろう」
どこか芝居がかった口調。
尊大さと傲慢さを感じさせるそれに、周囲は思い出した。
今は勇者ごっこの最中で、カグヤは魔王役であったと。
「次は我自ら貴様等に引導を渡してやる。かかってこい」
ついさっきの暴力的な気配とは違い、冷たく凍えるような雰囲気を染み渡らせていくカグヤを見て、勇者達は顔を見合わせて頷く。
――勇者達は降伏した。
● ● ●
勇者達降伏という異例の結末で終わった勇者ごっこだったけど、子どもたちはあまり気にしないらしく、すぐに次の遊びを始めていた。
カグヤに対してもそこまで怯えている様子は見せず、普通に接していた。
さすがに至近距離で天使の威圧を浴びた男の子は近づこうとはしなかったけど、それ以外はむしろ「圧倒的強者」なカグヤに興味津々といった感じで質問攻めにしていた。
カグヤのほうも囲まれるとは思わなかったのか若干面食らった様子を見せながらも、やっぱり嬉しいのかこころなしか口元が緩んでいる。
なんかあっさりこどもたちの人気をかっさらわれた。
カグヤって子ども受けする性質だったんだね、意外。
蚊帳の外気味の現状に少し哀しいものを感じていると、子どもたちから離れたカグヤが魔法を使い出した。期待に満ちた子どもの目を見ると見せて欲しいと頼まれたのかもしれない。
「〈カラースフィア〉」
呪文を唱えたカグヤの掌から、色とりどりの球体が浮かび上がった。
数十個の玉はシャボン玉のように風に吹かれ揺らめきながら、上がりすぎることも下がりすぎることもなく漂っている。
普通は見れない幻想的な光景に、子どもたちから歓声が上がった。
えーと、あれはたしか、無属性魔法だったかな?
色付けされた魔力製の球体(強度はゴムボールくらい)を大量に浮かべる非戦闘用魔法。
地味に制御が難しく、中級と上級の境目にあるようなのだったはず。
浮かぶボールに群がる子どもたちを眺めながら、わたしは思った。
あぁ、早くわたしも魔法使えるようになりたいな。
「姉ちゃんは何かできないのか?」
突然横からかけられる声。
タイムリーな感じもする質問に思わずぎくっとする。
話しかけてきたのは七歳くらいの男の子で、その目には期待が宿っている……気がする。
あれ、姉妹にしか見えないカグヤができたんだから、おまえも何かできるんじゃないのかって感じ。
でもそんなこと言ってもまだ魔法使えないし。
何か見せられるようなもの……あったかな。
自分のステータスを思い出す。
特殊スキル系は論外。
そう簡単に人に見せられるものじゃない。
種族スキルもまだ練習してないし、通常スキルの中で何か……。
演武とかだとカラジャスさんが見せてそうだし、射撃は銃系の武器がないし、幸運は見せられるものじゃないし。
……あれ、わたしって人に見せられるようなものほとんどないんだね。
いや待て待て、わたしにも何か、こう子どもたちの心をがっちり掴めそうな何かがあるはず!
「あ、そうだ。う、歌ならみせられるよ!」
「え、歌?」
「わたしには歌があります!」
思った以上に大きな声が出てしまったのか、周りにいるみんながこっちを向いた。
横の男の子がどこか不満そうな、具体的に言うと「そういうことじゃないんだけどな……」的な目をしてるのをがっつり無視して、喉の調子を整える。
ここまできて後には引けないのだ。
音楽スキルLV10の力、みせてやろうじゃないか!
遅筆なうえ先の見えない拙作ですが、これからもよろしくお願いします。




