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詰め込みすぎた幸運が混沌としてる。  作者: 夜彦
第三章 異世界の街、そして出会い
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34 街の外

「というわけで街の外にやってきましたーっ!」


 目の前に広がる草原にわたしの声が響き渡る。

 眩い太陽に照らされ風に揺れる草木の姿は、現代日本ではなかなか見られない雄大なものだった。

 なんというかこう……童心が刺激される?


 こういう風景っていいよね。

 ゆるやかに吹く風とは関係なしに、尻尾が揺れる。


 きっとここで寝転がったら気持ちいだろうな。

 ちょうどピクニック日和な天気だし。


「そういうのは薬草を集めてから」


「……分かってるよ?」


 冒険者ギルドで問題なく薬草採取の依頼を受けてきたわたしたちは街の外にいる。

 もちろん要塞じみた街壁に面している森側じゃない。朝に馬車で賑わっていた門側の、のどかなほうだ。


 個人的には、ああいう何かありそうな森のほうが良いものが見つかる気がするんだけど、さすがに発言はしなかった。

 初依頼だし、余計なことはしないほうがいい。


「ん。まずこれ。採取対象の薬草」


「へー、これが…………どこで手に入れたの?」


 カグヤが軽い感じで見せてきたのは、丸い葉っぱにいくつか小さな白い花の付いた草。

 どうやらこれが薬草らしい。


 ただ、慌てて周りを見回してみても同じものは一切見つからない。

 唐突に手の中に現れた薬草に疑問が生じる。


「【倉庫】にそこそこの量があった」


「あー」


 そっかぁ。【倉庫】かぁ。


 地球二個分の大きさはある倉庫だけど、そこには最初わたしが練習で作ったコンテナ群とアーシュが用意してくれた食料(コンテナ一つ分)と替えの服(たしか十数着)くらいしかなかった。

 ただわたしがフェールリアに戻った後も、アーシュはなにやらいろいろ用意してくれたらしくてコンテナが二つ三つ埋まった。

 さらに、いつのまにか兄姉が増えていた時にお祝いと称して贈られた品々でコンテナが数十埋まった。

 さらにさらに、わたしに贈り物をするのが神様たちの間でブーム(?)らしく、現在進行形でコンテナが埋まっていってる。


 正直、持ち主であるはずのわたしはもう中身を把握してない。


 カグヤはなぜか把握してる節があるけど。

 ノルンがリアルタイムで更新される【倉庫】の目録を書いてくれてるから、それを受け取るまでわたしには把握しきれないと思う。


「依頼内容は薬草十本の採取。それ以上でも持ってきた分だけ報酬の追加。【倉庫】にあるのを持っていけばこの時点で依頼達成できるけど」


「せめて最初の依頼くらいは真っ当に達成したいかな」


 まあ最初から持ってた薬草を納めるのが真っ当じゃないとは言わないけど。

 わたしが思ってるのとは少し違う。


「ん。そういうと思った」


 カグヤもわたしの返答は予測してたのか、手の中の薬草を【倉庫】にしまう。


 そして薬草の説明をしてくれた。


「薬草は大気中の魔力を吸収した植物が変質したもの。だから植物が生えうるところにはどこでも存在してる」


 元が違う植物だからか、薬草から種を取っても薬草は生えてこないらしい。

 種は種で使い道があるらしいけど、薬草の栽培は今のところできてないので、こうして冒険者ギルドの常駐依頼として発行されてる。


「魔力が溜まりやすい土地に多く存在する傾向があるから。魔力の"濃い"ほうに行けば比較的見つかりやすい」


「魔力の濃いほう、か……」


 魔力感知の仕方は教えてもらったけどまだうまくできないんだよね。

 そもそも大気中の魔力の差なんて微々たるもので、それを数時間程度で感じ取れるようになれなんて無理難題だと思う。

 【空間征服】を併用すれば分からなくはないけど。


「似たような草もあるけど。ヤクモには【叡智の書庫】のサポートがついてるから大丈夫」


「迷ったらすぐ調べられるからね」


 見たものの情報が分かる鑑定系のスキルは持ってないけど、特殊スキルのひとつ【開架:叡智の書庫】を部分発動すれば鑑定と同じことができる。

 即応性は鑑定スキルより悪いけど鑑定系のスキルじゃないから偽装とか鑑定妨害は効果ないし、区別するために【慧眼】とでも呼ぶことにしようかな。





 ● ● ●




 そんな風に情報の確認とかスキルの話とかしながら歩くこと一時間弱。

 のどかな草原は終わり森の入り口が顔を見せていた。

 

 スキュルムの森と呼ばれる場所で、ギルドで薬草の場所を聞くとここにあると言われた。

 討伐依頼のランクで言えばC、Dランクくらいの魔物が多く生息していて、奥にはさらに強力なものもいるらしい。

 はっきり言って初心者が受ける薬草採取の舞台としては不適切極まりないと思うんだけど、この辺りではここにしかないと言われるとここに来るしかなかった。

 まあ、あまり奥地に入らなければ魔物は出てこないらしいから、突き進まないように注意すれば大丈夫かなと思わなくもない。


 ちなみにここに来るまでの草原では一匹の魔物にも遭わなかった。

 カグヤ曰く「大気中の魔力が非常に薄いから。魔物も生息しないし薬草も生えない」とのこと。

 魔物は本能的に魔力の濃いほうへと向かうそうだ。



 あまり疲れは感じていなかったけど一応森に入る前に少し休憩する。

 買っておいた串焼きをカグヤと一緒に食べながら、まだ【空間征服】してない森の中を征服していき……今まで歩いてきたほうにも空覚を向ける。


「んー……」


「ヤクモ?」


「いや、ちょっとね」


 その場で後ろを向く。

 普通の目視じゃ見えないから【遠距離狙撃】スキルから〈鷹の目〉(遠くのものが見えるようになる効果)を使用。


 あー、うまくピントが合わない。

 使い方を覚えたとはいえ十全に使いこなすにはもう少し時間がかかりそう……っと。

 うん、うまくいった。


 延長された視界の先、わたしたちからだいたい二キロくらい後ろで二人組が休憩してるのが見える。


「何か見える?」


 わずかに険しい顔をしたカグヤが尋ねてくる。


 あれ? カグヤは気付いてなかったのかな。

 カグヤのことだからもう気付いてると思ってた。


 二人組から視線を外し、カグヤのほうを向く。


「ずっと後ろのほうに二人。他に人がいないから、少し気になって」


 さっき思い返した通りこの辺りには魔物はいない。

 それどころか空覚で確かめても少しの虫たち以外生き物がいない。

 そんな中、二キロも後ろとはいえわたしたちを追いかけるかのように動く二人組の存在は印象に残った。


 スキュルムの森は狩場としてサザール(今いる街)ではメジャーだし、進む方向が同じ同業者(冒険者)なんだろうけど……なんだか()()()()()()みたいで快く思えなかった。


 空覚は便利だけど、周りの様子が分かりすぎるっていうのも問題かな、なんて思う。


「……ん。気にしすぎ」


 ぼんやりとした雰囲気を出して後ろを眺めていたカグヤが、軽い口調でそう言った。


 ま、そうだよね。遠くのこともいちいち気にしてたら心の休まるひまもないよ。

 まだまだ【空間征服】もそれに付随する空覚も使いこなせてないんだから、もう少し空覚の範囲を落として細部まで把握する練習をしてもいいかもしれない。


「せっかく偽装したのに。直接見られたんじゃ意味がない」


「え?」


 何かぼそりと呟く声が聞こえた気がして、意識をカグヤに向ける。


「どうかした?」


 わたしの声に反応したカグヤは不思議そうに首を傾けていた。

 ……やっぱり気のせいだったかな。


 少し引っかかったけど、それもすぐに消えてしまった。


 一際強く吹いた風に草木が揺れ、太陽に雲がかかったのか辺りが少し暗くなる。

 頭上の狐耳が風を受けて少しくすぐったかった。


「……ヤクモ。薬草採取だけど」


「んー?」


 のどかな雰囲気に合わせるような、静かな声でカグヤが言う。

 その顔はわたしのほうを向いていない。


「一旦別れて。別々に探すことにしよう」


 それは、少し予想外の提案だった。




 ● ● ●




 予想外の提案だったとはいえ、特に反対する理由もなかったわたしはカグヤの提案に賛成して、今一人で森の中を歩いている。


 スキュルムの森は転移地点だった森と違ってだいぶ明るくて、鳥の鳴き声が似合いそうな雰囲気だった。


 わたしの視線は周りの景色に釘付けで、端から見るとただ散歩してるように見えるかもしれない。

 だけどちゃんと薬草は探している。

 有言実行、練習がてら空覚を範囲内の詳細が分かるようなサイズ……わたしを中心に半径三メートルくらいに落としてみた。これで歩いてるだけで薬草を探すことができる。

 今までみたいにキロ単位の範囲に比べたらあまりの小ささに心細く感じたけど、そこはこれから少しずつ広げていけたらいいなと思ってる。


 ちなみに二十分くらい歩いたけど薬草は一本も見つかってない。

 ほんとにここに生えてるのかな。カグヤのほうはどうなんだろ。


 別れてすぐカグヤを気にしてる自分に苦笑しながら探索を続ける。


 見つからなーい、見つからなーい、なんて即興のリズムに乗せて言いながら、さらに歩くこと数十分。


 薬草は当然のように見つからないし、景色にも飽きてきた。

 だってほとんど変化ないし。

 たしかに景色はきれいだけどさ、特筆すべきことが何もないんだよね。そろそろ何かあってもいいんじゃないかな。

 ほら、やせいの魔物が飛び出してくるとか。

 まー、この辺りには魔物は出ないんだけどさ――――



「きゃあああああああ!!!」



「――っ!?」


 突然聞こえてきた悲鳴に緩んでいた意識が叩きなおされた。

 思わずへにゃっとなってしまった耳を立て直し、制限していた空覚を解放する。


 声のしたほうに目を向けても障害物だらけで見えないけど、空覚は問題なく機能した。

 だいたい三百メートルくらい森の奥、木を背中に女性がひとり、囲むように男性が三人。聞こえてくる声から察するに男性側が問題を起こしているので間違いない。


 念のため、もう少し空覚の範囲を広げていくと…………っ!?


「い、今すぐ行かなきゃ!」


 それ以上の情報確認を放棄して駆ける。

 木が邪魔とはいえ、今のわたしの身体能力ならこの距離十秒もかからない。



 騒ぎにひかれたのか、彼らに向かって三匹の魔物が向かってきていた。




 

いつも遅くてごめんなさい。

鈍亀更新ですがお付き合いいただけるとうれしいです。

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