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君はjunkie   作者: ケシゴム
第九章
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それぞれの道

 日に日に気温も上がり、歩道に残る雪がズボンの裾を濡らすようになった。世間では卒業シーズンの色合いも濃くなり、新しい門出の中に少し寂しさを漂わせる。


「あっ! あった!」


 大学の合格発表の掲示板に自分の受験番号を見つけると、はしゃぎ過ぎだと思っていた周りと同様に思わず声が出た。


「よしよしよし!」


 他から見たら一流大学でも何でもない大学だったが、俺としてはかなり頑張っただけあって、その喜びは一人でガッツポーズをするほどだった。


 この三年間俺は夢縫部で活動し、様々な人の夢に触れた。しかしそれでもなお俺自身が目指す職業は見つからなかった。そんな中でも夢縫部の仲間たちは次々目標を立て夢を叶えていった。


 理香はプロテストに合格し、四月からプロ雀士として内定が決まっている。

 舞は、二年生の時に大賞こそ逃したが新人賞で佳作を獲り小説家としてデビューしており、既に二作目を執筆中で実質上就職している。

 天満は、東京の一流大学に先日進学が決まり、そこで知り合いの手品師の元で修業しながら腕を磨き、将来はアメリカでのステージを目指すと言っていた。

 霧崎に関しては、結構色々あったがやはり野球への情熱は消えてはおらず、選手は無理でも自分と同じような思いをしている人のために役立ちたいと、スポーツトレーナーを目指し専門学校への進学を決めた。

 他にも後輩が、賞こそは獲っていないがコンテストで出版社の目に止まり漫画家の先生の元に勉強しに行ったり、「俺はユーチューバーになりたい」とか言ってちょっとだけ夢縫部にいた奴があっという間に登録者数十万人超えて勝手に学校辞めちゃったり、親父が勝手に転職しちゃったり、なんか俺だけが置いてけぼりになっちゃって……そんな事もあり、なりたい職業が決まらなかった俺はとりあえず大学に進学し、将来給料の高い職業にでも就こうと思っていた。


 それでも夢は見つかった。それは……


「あ、いたいた。どうだった優樹?」

「え? あっ! どうしたんだ二人とも!? 何でここにいんだよ!?」


 今日は俺と霧崎の合格発表があり、その結果を報告するため昼から皆で集まる約束をしていた。それなのに、郵送で結果が届くが待ちきれなくて朝早くからこうして大学まで来て、戻ったらどういう演出をして驚かしてやろうかとさえ考えていたのに、声のする方を振り返るとそこにはまさかの理香と舞がいた。


「え? だって今日は優樹の合格発表日だから、マイと買い物がてら来たに決まってるでしょ?」

「そうだよ。優樹落ちたら私達困るじゃない。将来結婚した時優雅な生活させてくれるんでしょう?」


 あれから俺は理香とも舞とも付き合うことは無く、微妙な三角関係を築いていた。それでも二人は特に文句も言わなかった。そのせいで今でもこうして良く分からない関係になっていた。


「それに丁度欲しい物あったし」

「ついでかよ!」


 就職を決め、特に舞に関しては既に収入を得ている為二人がやたら憎く見えた。


「で、どうだったの優樹? あんた“やっぱり”落ちたんじゃないでしょうね?」

「なんで落ちた前提何だよ! 普通そこはまさかだろ!」

「そうだよ理香。あれだけ皆で教えたんだから落ちるわけないじゃん」

「まぁね。逆にあれで落ちる方が凄いか」

「お前はほとんど役に立ってねぇけどな理香」


 俺が大学進学を決めた時、夢縫部はその活動目的を発揮し一丸となって俺や霧崎を応援してくれた。

 舞は得意の国語やレポートや書類の書き方を教えてくれ、天満は数学と理科と社会と英語と社会常識を教えてくれ、東大合格を夢に持つ後輩の二人は勉強から鉄道まで全て教えてくれ、教頭先生は模擬テストをガチテストとして監修してくれ、霧崎はスポーツを、漫画家を目指す後輩は漫画の描き方を、プラモデラーになりたい後輩は接着剤の塗り方から色の塗り方まで教えてくれ、アナウンサーになりたい後輩は無駄に言い辛い早口言葉を教えてくれ、魚博士になりたい後輩はマニアックな海の生物教えてくれて……って、後輩ろくなのいねぇ! 


 だがその中でも理香が一番役に立たなかった。符の計算やら清一色の上り牌やらプロ雀士の名前やら麻雀大会の日程やら、たしかに社会常識は俺よりもあり一生懸命応援してくれたが結局邪魔にしかなっていなかった。


「またまた~。こう見えても一応プロ雀士だよ? 私が教えた事は大学に行っても必ず役に立つよ?」

「行ってからじゃ遅ぇんだよ。それにお前の役立つは友達どうしで麻雀打つ時くらいしか役に立たねぇよ!」

「な~に言ってんの。サークルがあるじゃない! それに大学で有名になればいずれプロになれるかもしれないんだよ?」

「俺は別にプロ雀士になる気はねぇから!」

「そう? 残念」


 理香は既に俺がプロ雀士を目指さない事は知っている。それでもたまにこういった冗談を言うのを聞くと、理香なりに寂しいのだろう。しかし俺が目指す夢の為にはそこに寄り添うわけにはいかなかった。


「それよりさ二人とも、早く買い物行こう? 早くしないと昼になっちゃうよ?」

「あっ! そうだった! こんなとこで時間潰してる場合じゃなかった!」

「こんなとこって、お前らほんと何しに来たんだよ!」

「買い物に決まってるじゃない!」

「てめ~!」

「まぁまぁ落ち着いて優樹。優樹の合格も無事分かったし、今日はマイが印税入ったから合格祝いに何か買ってくれるって。ねぇマイ?」


 そう言うと理香は悪代官のように憎たらしい笑みを浮かべた。


「うん」

「えっ! ほんとに!」


 さすがプロ作家! 俺達貧乏学生とは違い大人だ!


「でもそんなに高いのは無理だよ? 印税って言っても私の本まだ三万部くらいしか売れてないんだから」


 それを聞いて理香が訊く。


「えっ! マイの本って一冊千円くらいしなかった!? それが三万って……」


 点棒や府計算は異様に速い理香だが、それ以外は異様に遅いようでこんな単純な計算に空に視線を送り考え始めた。


「三百万!?」

「ちげぇよ! 三千万だよ! ……」

『三千万!?』


 自分で言っといてなんだが、あまりの金額に理香と一緒に舞の顔を見てしまった。


「エッ!? マイって三千万も持ってるの!?」

「まさか。それは本の単純な売り上げでしょう? 私が一人で本作って売ったわけじゃないんだからそんなに貰えるわけないじゃん」

「そ、そりゃそうだ……」


 小説家はかなり厳しい職業だとは舞は言っていたが、この言葉を聞いて俺が思うよりも遥かに厳しい世界なのだと知った。

 そんな事は他人ごとなのか、理香は平然と訊く。


「でも著作権とかあるから半分くらいは貰ってるんでしょ?」 

「そんなに貰えないよ」

「じゃあどのくらい?」

「う~ん……」


 出版社から口止めされているのか、それともただ単に言いたくないのか、舞は困ったように理香から視線をそらした。

 そんな舞に理香が詰め寄る。


「ねぇいくらよ?」

「あっそうだ! そう言えば理香の就職祝いまだ買ってなかったよね!?」

「え?」

「この際だから優樹のと一緒に買ってあげる! 理香は何が欲しいの?」

「えっ! 良いの!」

「もちろん! 何が欲しい?」

「じゃあ雀牌買って!」

「良いよ。じゃあ早く行こうか?」

「うん!」


 さすがに三年間一緒にいただけあって舞は見事に暴走する理香をコントロールする。ある意味この二人は良いコンビだ。


「ほら優樹行くよ!」

「え? あ、あぁ……」


 俺の告白から始まった三角関係は傍から見たら不純かもしれない。だけど俺達は純粋にお互いを尊重し嘘無く向き合っている。そしてこの関係がこの先もずっと続かない事は知っている。これから先それぞれが違う道を進む中どうなるかは分からないが、今は新しい門出に向け残り僅かな時間を大切にしたいと思う。


 そんな事を思いながらこの後俺達は舞に合格祝いを買ってもらい、それをぶら下げて皆が待つ夢縫部の部室へ向かい、無事合格を決めていた霧崎と共に祝ってもらった。


 本音を言うと、今話で最終話にして『やっと終わった』と言いたかったです。しかし所詮プロットを作っていないため、切り抜いた場面は悪いし霧崎は出てこないし天満は出てこないし優樹の夢は語られないしでどうにもならなくなりました。そのうえ最終話はオールラストというサブタイトルにしたかったしで詰みました。なので次話最終話のはずです。

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