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君はjunkie   作者: ケシゴム
第九章
46/48

紆余曲折

「えっ……」


 天満と理香がなんかいい感じになってからややしばらく三人は頑固おやじのようになった理香を説得した。それは対局よりも白熱し迷走した。だが次第に禁止用語が頻発し始めたため詳細は語れない。


 そんなピンチを救ったのが霧崎だった。もうほとんどモンスターペアレントのように人の話を聞かなくなった理香に放った『詰まるところ宮川は佐藤と●●をしたいんだ』というとんでもない発言により事態は一変した。


「だから宮川がお前に好きと言ったのはそういう事なんだ!」


 馬鹿じゃねぇのこいつ! 何を言ってんだよ! これじゃ俺はただのゲス野郎じゃねぇか!


 霧崎のあまりの発言にはさすがに舞ちゃんも天満もドン引きだった。しかし幼稚な理香には効果的だったようで、俺が告白した時……というより、今初めて告白されたかのように頬を赤らめ、体を守るように胸の前で腕をクロスさせオドオドし始めた。


「ゆ、優樹……エッチ」


 いや何で!? 理香ってもう高校生だよね!? うんこで笑う幼稚園児並みなの!?


 これがもしアニメならそういうキャラとして可愛いと思うのかもしれない。しかし現実だとこの歳で幼稚園児並みのリアクションをする理香にはちょっと引いた。だがそれと同時に、理香は今までそんなものに興味が行かないくらいずっと麻雀の事ばかり考えていたのかと思うと、少し寂しい気持ちになった。


「そういう訳だ佐藤。つまり宮川は佐藤と新垣、両方と●●がしたいと言っているんだ」

「おい待て霧崎! 俺はそんな事は言ってない! 何勝手に俺をゲス野郎みたいに言ってんだよ!」

「何!? 違うのか! お前もしかして●●とか●●とか、●●とかしたいという意味か!」


 俺の知らない言葉まで出て来たよ! こいつどんだけ勤勉なんだよ!


 味方をしてくれていると思っていた霧崎だったが、実は俺を殺しに来ているとは驚きだった。それこそ霧崎君にはすぐにでも退室してもらいたいくらい。


「おめーは何を言ってんだよ! おめーの本性剥き出しじゃねぇか!」

「う……」

「こっからは俺が説明するからおめーは少しだ待ってろ!」

「くっ!」


 知られたくはない本性を指摘した事が効いたのか、悔しさの「くっ!」ではなく失態の「くっ!」が出た霧崎は、悩むように目を閉じ俯き、大人しくなった。


「理香、今霧崎が言った事は忘れてくれ!」

「い、今って……●●とか、●●とかの事?」

「あぁ」

「……でも、●●って何?」


 それは俺も知らないよ! 逆に今晩俺が調べたいくらいだよ!


「そ、それも含めて忘れてくれ。じゃないとこっからの説明が伝わらない」

「わ、分かった……」


 何はともあれ状況を把握した理香は今はそれどころではないようで、素直に受け入れてくれた。お陰でこれ以上ややこしくはならず、やっと本題に入る事が出来た。


「じゃあ改めて言う。俺は理香も舞ちゃんも両方好きだ!」


 二回目という事もあり、二人と面を合わせても緊張も躊躇いも無く、すんなり言葉が出た。そして余計な気負いが消えた分正直な気持ちを伝えられた手ごたえがあった。


 二度目だが、今度こそ俺の気持ちが伝わった二人は先ほどと違い真剣な表情で見つめるだけだった。それが自分はやり切った感を出し、後は二人がどんな答えを出そうとも委ねるほかなかった。のだが……


「で?」


 理香の一言には誰もが驚き、時間が止まったかのように静まり返った。そりゃそうだよ! ここで俺に返す!?

 しかし大真面目の理香は「だから?」と言わんばかりに俺を見つめる。


 えっ!? どどどどうしよう!? 舞ちゃーん! 助けてー!


 本来なら俺がどうにかしないといけないのだろうが、既に手札を使い切った俺には切り札など残ってはおらず舞ちゃんに助けを求める為視線を送った。すると舞ちゃんはまさかの視線外しを使ってきた。


 舞ちゃーん! さっきまで俺の味方してたよね!? なんでここで助けてくれないの!?


 そして気付くと天満も霧崎も既に目を合わせぬよう目線を落としていた為、やっぱり俺が自分で何とかするしかなかった。


「い、いや、だからさ、その……なんだ…………それだけ」


 理香に問われ改めて考えたがそれしか言いようがなかった。今まで理香とあんな事やこんな事をしたいとか、こうだったら良いのになとはいっぱい想像した。けれど今こうしてどうしたいかを聞かれると、夜な夜な想像した理想なんてものは理香と舞ちゃんと一緒に同じ空間にいられる“今”の前ではちっぽけな物だった。

 それに理香が応える。


「ならやっぱり優樹はマイと付き合った方が良いんじゃないの?」

「え?」

「だってマイは優樹が好きだし、優樹だってマイが好きなんでしょ?」

「そ、それはそうだけど……」

「それに私、優樹の事は好きだけど●●はしたいとは思った事ないし……」


 霧崎のせいでなんか勘違いしてるよ! これじゃ俺と舞ちゃんはただ肉体を求め合ってるみたいじゃん! 


 純粋だからこその勘違い。これには堪らず舞ちゃんが口を挟む。


「そういう事じゃないよ理香! た、たしかにキ、キスとか●●とか●●そういうのもあるかもしれないけど、ずっと一緒にいたいとか、手を繋いだりしたいとかそういうのも含めて好きって宮川君は言ったんだよ? 理香だって初恋とかした事あるでしょ?」


 舞ちゃーん! 本心がポロっと出ちゃってるよ! っていうかそっちよりになってるよ!


 舞ちゃんが思っていたよりもエロスだったことには楽しみを感じた。だが理香の一言でその思いは消えた。


「無いよ」


 理香はケロっとして言ったが、なんだか寂しい気持ちになった。


「私そういうの感じた事無いんだよね。マイの言うずっと一緒にいたいって思うのが恋ならそうなのかもしれないけど、手を繋いだりキスとか●●とか●●したいっていう気持ちになるのが恋なら違うと思うよ?」

「…………」


 小説家を夢見て様々な物を犠牲にして来たであろう舞ちゃんでさえ、初恋をした事が無いと言う理香には衝撃を受けたのか絶句した。

 

「じゃ、じゃあ理香。もし俺が付き合ってくれって言ったらどうする?」

「え? それは無理よ。だって優樹はマイと付き合うんでしょ? まぁ、麻雀に付き合えって意味なら良いけど……」


 ため息を付くしかなかった。それは舞ちゃんも同じだったようで、俺が視線を送ると“しょうがないよね”という感じで息をついた。


「なら理香、こうしよう?」


 舞ちゃんにとっては拍子抜けだったようで、これだけ複雑な場面でもすっかり落ち着きを取り戻し、子供を諭すように言った。


「私はまだ宮川君とは付き合わないから、理香の宮川君に対する気持ちだけでも聞かせて?」

「え? 何で? マイも優樹も好き同士なんだから付き合いなよ」

「それは無理だよ理香。だって宮川君は理香の事も好きなんだよ? こんな形で私だけ宮川君と付き合うのはフェアじゃないよ」


 舞ちゃんの気持ちは良く分かった。もし立場が違い、舞ちゃんが俺と霧崎に告白したのなら俺だって釈然としない。それほど舞ちゃんは真剣に向き合ってくれていた。


「ならもういっちょ勝負しようか! 今度は私とマイでどっちがトップ取るか!」


 そう言うと理香は目を輝かせた。


 するわけないだろ! どんだけ麻雀したいんだよ!


 するとそれを聞いた舞ちゃんは呆れるように鼻で大きく息を吐いた。


「いいよ」


 えっ!? 舞ちゃん本当にそんなんで納得できるの!?


「えっ! ほんとに!? じゃあもっかい席決めから……」

「ただし、今度は麻雀じゃなく、どっちが宮川君に選ばれるかの勝負ね」

「え~! それ私にメリット無いじゃん!」


 えー! 理香の俺に対する気持ちってその程度なの!?


「あるよ。理香は気付いてないだけで、理香は本当は宮川君の事好きなんだから」


 えっ!? そうなの!?


「まさか~? 別に私優樹と●●したいとは思わないし」


 ですよね~。


「じゃあ聞くけど、理香がず~と一緒に、それこそよぼよぼのお祖母ちゃんになっても麻雀したい人って誰?」

「え? それはもちろん夢縫部の皆だよ?」

「じゃあその中で一人だけって言ったら?」

「そりゃもちろん優樹に決まってるでしょ!」


 何故かは分からないが、これを聞いた瞬間は「結婚して下さい」と言われるなんてものじゃない程の衝撃を受けた。


「なんで?」

「う~ん……なんでって言われても……う~ん……」


 舞ちゃんの質問は理香の本心を突いたのか、今まで特に何も考えていなかった理香は珍しく頭を悩ませた。


「う~ん……そうだな~……」

「…………」


 おそらく理香が出す答えこそ俺達が聞きたい言葉だったようで、邪魔をしないよう全員が悩む理香を見つめていた。


「う~ン……う~ん……」

「…………」

「う~ん……」

「…………」

「う~ん……あっ! う~ん……」

「もういいよ!」


 どんだけ俺は理香にとって魅力無いんだよ!


「あっ! 違う違う! そういう意味じゃないよ優樹! 別に私は適当に優樹を選んだわけじゃないよ! 麻雀するならって思ったらやっぱ横か対面には優樹がいないと駄目だなって!」


 なんか物凄く嬉しい! 理香は俺の事をそんな風に思っていてくれたのか!


「でも……なんで優樹なんだろって思って……あれ? もしかして優樹が家で一緒に麻雀打ったからかな?」

「いや俺は一度もお前んち入った事無いから!」

「えっ? あれ? そうだっけ? なんかトリプル役満とか上がんなかったっけ? あれ?」

「トリプル役満なんて上がった事ねぇよ!」

「え? そうだっけ? あれ? おじいちゃんとかいて……あっそうか! ごめんごめん、あれ夢だった」


 夢!? こいつ現実と夢ごっちゃになってんの!?


 理香の発言には毎回驚かされるが、今回の発言はその中でも一番だった。しかし理香の純粋な気持ちが聞けたようで距離がさらに縮まったように感じた。


「そういう事。理香はやっぱり宮川君の事が好きなんだよ。それこそ夢に見るまで。だから今は分からなくても、ここで私と宮川君が付き合うのはフェアじゃないんだよ」

「う~ん……そうなの?」

「そう」

「でもマイと優樹が付き合ったからって、私と優樹が麻雀打てなくなるわけじゃないでしょ?」

「私が駄目だって言ったらなるよ」

「えっ!」


 本当に舞ちゃんは言葉選びが上手い。確かに付き合えば舞ちゃんとしてはほかの女子と俺が仲良くなる機会は減らしたくなってある程度の制約は付くだろうが、ここまで大げさに言わなければ理香には通じない。って今のそういう事だよね? まさか本気?


「だって私の彼氏になるんだよ? 理香はあくまで友達だから、宮川君は私としか麻雀しないよ?」

「えー! ならマイと優樹が付き合うのは反対! 優樹とは私が付き合う!」


 やっと、本当にやっと会話がかみ合った事で全員の緊張がほどけた。するとこんな修羅場のような話合いの中でも皆の顔から笑みが零れた。


「どうすんの優樹! 私とマイどっちと付き合うの!」

「ちょっと待てよ理香。折角話がまとまりだしたんだから落ち着け」

「何言ってんのよ! あんたが私とマイが好きだとか言うからいけないんじゃないの!」

「い、いやだからさ、俺は理香と舞ちゃんが好きだとは言ったけど、付き合ってくれとは言ってないじゃん? 俺だって自分で言ってることは無茶苦茶だって分かってるよ。だから告白しかしなかったんだろ? それとも二人一緒に付き合うか?」

「それは駄目だよ宮川君っ!」


 理香を宥める為に言った冗談なのに、これは癇に障ったのか今度は舞ちゃんが物凄い剣幕で割り込んできた。


「い、いや、じょ、冗談だよ舞ちゃん……」

「冗談でも駄目だよ! それなら私と付き合おう? さっき理香だって付き合えばいいじゃんって言ってたし」

「あー! それはズルいよマイ! あの時私は優樹と麻雀が打てなくなるとは思ってなかったから言っただけで、それなら駄目だよ!」

「え? でも理香、宮川君の事好きじゃないんでしょ?」

「好きだよ! じゃあこうしよう! マイは優樹と●●だけすればいいじゃん!」


 もう●●はいいよ! もう完全に理香勘違いしているよ!


 舞ちゃんもこれには頭に来たのか、むーっという表情を見せ矛盾した事を言い始めた。


「それなら理香は宮川君と麻雀だけすればいいじゃん!」

「でもマイと付き合ったら優樹は私と麻雀出来ないんでしょ!」

「そうよ! でも理香には天満や霧崎君もいるし、教頭先生や校長先生だっているじゃない! あ~あ、理香は一杯男の子に囲まれていいな~」


 舞ちゃんなりの嫌味のつもりなのだろうが、校長先生や教頭先生まで引き合いに出し良く分からなくなっている辺りを見ると、相当頭に血が上っているようだった。

 そうなると逆に幼稚過ぎて理香と噛み合う。


「じゃあマイも教頭先生や校長先生と付き合えば?」

「そしたら理香は麻雀出来なくなるよ?」

「別に良いよ? 別の人探すから」


 子供か! 


 所詮似た者同士。熱くなる二人はとても高校生には見えなかった。が、あまりに幼稚過ぎて油断していると理香から流れ弾が飛んできた。


「で? 優樹は結局どうしたいの?」

「えっ!?」

「私と付き合うの? それともマイと付き合うの?」


 まさかの堂々巡り! 今日帰れないんじゃないの!?


「い、いや、だからさ。別に俺は付き合ってくれとは言ってないだろ? 俺としては理香と舞ちゃんに好きって伝えられただけでも十分なんだから」

「別にって何よ! じゃあそれなら好きって言ったの無しにしてよ! 優樹のせいでこうなったんだから!」


 ええっ!? そんな事ってある!?


 そこに舞ちゃんが参戦する。


「宮川君、“私のは”撤回しなくても良いよ。そうすれば問題解決するでしょ? ねぇ理香?」


 それは無理じゃね!? 


「良いよ」


 良いのかよ!?


「ただしマイと優樹が付き合うのは無しね。今から夢縫部は優樹の恋愛禁止だから」

「良いよ。じゃあ私は宮川君とは付き合わないから」


 俺だけ!? そこピンポイント過ぎじゃね!? それに舞ちゃんも普通そこは退部するからじゃないの!?


「じゃあ決まりね! 優樹は誰とも付き合っちゃ駄目!」

「えっ!?」

「それでいいマイ?」

「いいよ。部長が決めたんならそうすればいいじゃん」


 こうして二人のただの意地の張り合いにより、何故か俺だけ恋愛禁止にされてしまった。そして話がまとまったようで、怒り冷めやらぬ舞ちゃんは険しい顔で立ち上がった。


「じゃあ私もう帰るから! 行きましょう宮川君!」

「え?」

「私達ペアだったんだから帰って反省会しよう?」

「え? ……うん」


 多分今舞ちゃんと一緒に帰ってはいけないのだろうが、完全に怒っているのが分かる舞ちゃんの言う事を聞かなければ大変な事になる気がして従うしかなかった。しかしそれはそれでやっぱり問題があるようで、結局大変な事になる。


「それは駄目よ! 優樹は私と帰るんだから!」


 え? 俺モテモテ?


「なんで? 理香は霧崎君とペアだったんだから関係ないじゃない?」

「関係あるよ! そう言って二人でデートするつもりなんでしょ!」

「そんな事するわけないじゃない! 私達付き合ってるわけじゃないんだから!」


 え! しないの!? 


「とにかく駄目よ!」

「何でよ!」

「夢縫部は”優樹の”恋愛禁止なんだから、そう思われるのも禁止なんだから!」


 厳しいねぇ~うちの部長。


「じゃあ理香も宮川君と帰るの禁止ね!」

「良いわよ別に。そういう訳だから優樹、先に一人で帰って。優樹のせいでこうなったんだから」


 えええっ!? 確かに悪いのは俺だけど、こんな事ってある!?


 上手くまとまった筈なのに全くまとまっていない。唯一まとまったのが全部悪いのは俺で、とにかく鬱陶しいから今日はもう一人で帰れという事だけだった。


「さぁ早く帰って優樹! じゃないとみんな帰れないじゃないの!」


 くそがっ! これならまだ「最低」って言われて二人にビンタされてた方がマシだったよ!


 それでも理香も舞ちゃんも夢縫部も失う事も無く収まった事には心底安堵した。


「……はい、すみませんでした。じゃ、じゃあお先に失礼します……」


 こうして霧崎の暴走から始まった俺の告白は、なんだかんだ言って丸く収まった。


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