表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君はjunkie   作者: ケシゴム
第八章
44/48

決着

「ロン」


 霧崎と理香がリーチを宣言して僅か二巡後。


「ホンイツ、イッツ―」


 最終局を制したのは舞だった。だがその手は条件の跳満には届いてはおらず、放銃した理香は様々な想いに駆られた。


 親友の恋。ライバルとの勝敗。一生に三度目の九蓮聴牌。ほんの数秒の間に沢山の想いが過った。それほど理香にとってもこの対局は大きなものだった。だが己の上りで終りたかったという未練こそ残ったものの後悔は一切なかった理香は、神妙な面持ちに対し清々しい気持ちで静かに手牌を伏せた。

 

「わ……」

「俺達の勝ちだな、理香」

「え?」


 勝負が決し「私達の勝ち」と勝ち名乗りを上げようとした瞬間、優樹のまさかの発言に理香は驚いた。

 自身の計算上点差は一万八千点以上あり、天満がホワイトボードに記した点差とも一致していたからだ。それに最後の放銃によりトップは舞に取られてしまったが、ルール上ではペアでのトータルによる勝負だったことを覚えていた理香には、優樹の言葉を理解出来なかった。


 しかし確かめようとした瞬間だった。優樹が理香と霧崎が出した供託のリーチ棒を手に取ったのを見て、目を見開く事しかできなかった。

 それは霧崎も同じく、二人目を合わせると自然とホワイトボードの横に立つ天満を見た。

 その姿を見て優樹が言う。


「そうだろ天満?」


 意外な勝利に理香達同様驚いていた天満は、優樹の問いかけに我に返った。そして確認するかのようにホワイトボードに書き始めた。


 一位、舞、四万四千三百点。二位、理香、三万四千九百点。三位、霧崎、一万四千八百点。四位、優樹、六千八百点。

 優樹、舞ペア合計、五万千百点。理香、霧崎ペア合計、四万八千九百点。 

 

 これにより優樹、舞の勝利が確定した。しかしそこに高校生らしい空気は無く、勝った舞と優樹はホッと息を吐き穏やかな笑みを見せ、負けた理香と霧崎は悔しさを滲み出すように俯く。

 それは正に死闘を終えた勝者と敗者そのもので、唯一卓外にいた天満が、“え? ちょっと重すぎない?”と思うほどだった。


 そんな中、勝利を確信した優樹が切り出す。


「じゃあ俺の……俺達の勝ちで良いな霧崎?」


 何を賭けていたのかなど既に忘れていた優樹だが、戦っていた事に変わりはなく、勝負のケジメとして敢えて霧崎に確認を取った。その時俺ではなく俺達と言い直したのは、この勝利は舞がいたからだという感謝から来たものだった。


「あぁ」

 

 それを受けて霧崎も、この二人の間に入るには無粋なのだと悟り、負けを認めざるを得なかった。しかしその時だった。


「俺達の負け……」

「ちょっと待って優樹!」


 霧崎が負けを認めようとすると、突然理香が遮った。


「なんだ理香?」


 理香が声を出した瞬間は、また理香の我儘が始まったと思った優樹だったが、その表情には幼さは無く真剣だったため止めなかった。


「優樹はこれを狙ってたの?」


 普段なら理香の言葉不足により理解できない優樹たちだったが、激闘を繰り広げた今は“全ては優樹のシナリオ通りだったのか?”という意味を理解出来た。

 すると言葉の意味を理解した舞と霧崎だけでなく天満までも驚き、全員が優樹を見た。


「まさか。でも麻雀漫画見たく言えば、『最後は“俺達”がリーチを掛けさせた』くらいは言えるかもな」


 それを聞いて理香は愕然とした。優位に進めていた対局、優樹の字一色、その後の舞への放銃、霧崎のリーチ、そして最後の九蓮。全ては偶然かもしれないが、運を信じない優樹がそう言うとあり得ないミスすらも必然に感じたからだ。

 そしてさらに優樹の言葉に目を丸める。


「だってお前九蓮だったんだろ?」

「えっ! な、なんで分かったの……?」


 捨て牌から萬子の染めだと分かる上、一・九萬が一枚以上見えておらず、尚且つオーラスでの不必要なリーチを目を輝かせて打った理香からは、優樹でなくとも容易に想像出来た。

 しかしこのタイミングでの発言には、理香には全ては優樹の掌の上だったと錯覚さえした。


「さぁ、なんでだろうな?」


 そう言い優樹はここで初めて手牌を伏せた。するとそれを見た理香に直感が働いた。

 

「ね、ねぇ! 優樹の手見せてよ!」


 優樹の手牌はこの時、ホンイツ、三暗刻、北の聴牌だった。そしてその待ちは理香が舞に放銃した牌と同じ二筒だった。


 優樹は四暗刻を諦めた時、僅かな可能性を感じ舞と待ちが同じになるよう手組を変えた。それはほとんど運に任せた願いのようなものだったのだが、優樹は奇跡的に待ちを合わせていた。


「…………」


 もしこの対局が何も掛かっていないものだったのなら優樹は自慢げに手牌を晒していただろう。しかしこれ以上は必要ないと判断した優樹は、逡巡するように俯くと伏せた手牌を弾き飛ばした。


「あっ! 何すんの優樹!」

「ノーテンだよ。ホンイツ狙ってたけど聴牌できなかったんだよ」

「そういう事じゃなくって、優樹あんたまさか……」


 そこまで言うと理香は、麻雀にたらればなど存在しないという自論を思い出し、言葉を濁した。


「いえ、何でもないわ。結果は結果。私達の負けよ優樹」


 少し残念な気持ちはあった理香だったが、優樹の言葉により人生最高とも言える対局が清々しさを与え、敗因を探るより勝負の余韻に浸る気持ちが勝った。


 こうして優樹の気持ちを賭けた戦いは終わった。そう誰もが思い、そうなるはずだった。ところが……


「でも、結局霧崎君はどうして優樹と麻雀で戦おうと思ったの?」


 これには優樹だけでなく、舞も天満も驚いた。何故なら対局前にはっきりとは霧崎は言わなかったが、舞へ告白し、舞が優樹へ告白したのを見れば一目瞭然だったからだ。だが理香は戦いへ至った経緯ではなく、何故勝負に麻雀を選んだのかという意味で訊いていた。

 

「あぁ。それは……」

「ちょっと待てよ霧崎! お前それ言っちゃ駄目だろ!」

「そ、そうなのか……?」

「当たり前だろ! それを言わないために勝負したんだろ!」


 この時霧崎は理香の質問の意味を理解していた。そして素直に「自分は宮川が羨ましかった」と答えようと思っていた。それは舞に好かれ、理香に恋し、天満に認められる自分には無い物を持つ優樹への率直な気持ちだった。

 しかし勘違いした優樹にそれすらも答えては駄目だと言われ、霧崎としては綺麗な形で締めくくろうと思った矢先の出来事にかなりショックを受けた。


「そ、そういう訳だ理香。だ、だから……俺から言うよ」

「えっ!?」


 まさかの優樹の発言に、霧崎だけがさらに大きなショックを受けた。


「ちょ、ちょっと待て宮川。それはお前が言ってはいけないんじゃないのか?」

「い、良いんだよ。どのみち天満にもバレてるし、どうせこのままってわけにはいかないだろ?」

「そ、それはそうだが……し、しかし、その……なんだ……それではこの勝負は一体なんだったんだ?」

「この勝負があったから言えるんだよ。だから気にすんな。なんだかんだ言ってもお前のお陰だからな」

「そ、そうか……」

「あぁ」


 少し腑に落ちないが、“お前のお陰”と優樹に言われた事により、霧崎の気持ちには青空が広がった。


 霧崎の表情が穏やかになったのを確認すると、優樹は背筋を伸ばし舞に体の正面を向けた。


「舞ちゃん」


 優樹が呼びかけると舞は何も言わず目を合わせた。だがすぐに寂しそうに目を伏せた。

 

 舞は休憩中トイレで「宮川は理香が好き」だという言葉を聞いてしまっていた。そのことから優樹の答えは「NO」だと知っていた。それでも勝てばもしかしてという思いから最後まで死力を尽くしたが、優樹の目を見てそれは幻想に過ぎなかったと悟ってしまった。

 その時間は舞にとって死刑宣告を待つ受刑者のような気持だったが、ここまで来た以上ケジメとして受け入れなければならなかった。


「俺は舞ちゃんが好きだ」

「……え?」


 予想外の言葉に舞は一瞬理解出来ず、思わず優樹と目を合わせた。すると優樹は恥ずかしそうに頬を緩めていた。だが優樹は理香が好きな事を知る舞はすぐさま疑念に駆られた。

 しかしそれを確認するため舞が口を開こうとすると、それより早く優樹が理香を見て口を開いた。

 

「理香。俺はお前も好きだ!」

「え?」


 これにより部室には沈黙が訪れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ