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君はjunkie   作者: ケシゴム
第八章
42/48

「ツモ!」

 

 勢いよく叩きつけられた西は活きの良い魚のように踊り、倒される手牌は心地良い音を立てる。最後の逆転のチャンスが掛かる局を制したのは理香だった。


「裏ドラ乗らずの千、二千」


 リーチ、ツモ、ドラ一。待ちは二、五筒、西の変則三面待ち。これで俺達との点差は四万点を超え、二局を残し圧倒的なものとなってしまった。

 何よりこれだけ膨大なエネルギーをつぎ込んでやっとたどり着いた役満が不発に終わってしまった事には精神的にも大きなダメージを負い、逆にその絶望感が清々しく感じるほどだった。


「なぁ理香、一つ聞いても良いか?」

「何?」

「なんであの時発が通るって思ったんだ?」


 終わったという思いが心の重荷を取り払い、本来なら対局途中では聞けない言葉が素直に出て来た。

 すると理香も気が緩んだのか、柔らかい笑みを見せ答えてくれた。


「優樹が中をカンしたからよ」


 それを聞いて、清々しい敗北感が一気に消えた。


「もしあれがポンだったら私もあれ以上字牌は切れなかった。それに南切ったときだってわざわざ聴牌したって強打したし。優樹って大物手こそ隠そうとするでしょ? だからよ」


 この対局が初対面同士の戦いなら俺のブラフは間違いなく通用していた。だが俺達は気の知れた仲。それこそ何回も牌を打ち合った仲。そこを見落としていた。それでもあの局面で性格を読み取り、絶対の自信をもって理香は挑んだ。ずっと理香の事を想い好意を寄せていた俺以上に俺を見ていた理香には驚いた。


「でも、それでももしかしたら発と何かのシャンポンだったかもしれないだろ?」

「かもね。でもそれだったら初めから河見てるでしょう? 優樹マイばっか見てたもん。優樹マイに上がって欲しかったんでしょう?」


 性格だけでなく、視線や動きから思考まで読み取る理香には完敗だった。ただ感情までは読み取れてはいなかったようで、違う意味で舞ちゃんに上がらせたかったと思っている理香は憎たらしいニヤついた笑みを見せた。


「まぁそれより、次よ次! さぁ次は優樹の親番よ!」


 先ほどあれだけのエネルギーを使ったせいか、理香にはもう鋭さは無く、普段の和気あいあいとした感じで言う。


「分かってるよ」


 誰の目から見ても勝負は完全についていた。しかし形として最後までやらなければならず、例え消化試合と分かっていても俺達は再び山を積んだ。そして局が始まって淡々と消化していく。そこには重さも熱さも無く、静かで普段とはちょっと違う真面目な卒業式のような麻雀だった。そう思っていた。


「ロン。トイトイ、中、ドラ三」


 まさかの和了だった。誰もが理香達の勝ちを確信し、後はこのまま静かに終わっていくものだと思う中、舞ちゃんがまさかの理香から初の直撃を奪った。


 これには理香も小さく「えっ?」という声を零すほど驚くほどで、場が硬直するほどだった。


「理香。これ何点?」

「い、一万二千点だよマイ」

「じゃあ一万二千点」

「う、うん……」


 舞ちゃんだけはまだ勝負を諦めてはいなかった。局が始まってもずっと暗い顔をして、ただ局を消化するために鳴いていたと思っていたのに、気付けば獲物を狩る様な眼つきになっていた。

 そしてこの直撃により点差は一気に一万八千点ほどに縮まり、スコアラーの天満でさえ目を丸くする。


「これでまだ勝負は分からなくなったよ。最後くらいはしっかり決めてよ宮川君」

「え……う、うん」


 点棒を受け取った舞ちゃんはホワイトボードを確認すると、今まで見せた事の無い逞しい表情で檄を飛ばした。

 それは今まで肩を並べて歩いていた舞ちゃんではなく、一歩前へ出て俺を引っ張るお姉さんのような頼もしさがあった。


 女性は博打には向かないとはよく聞いていた。女性は感情や思考が表に出やすく、直ぐに冷静さを失うため賭け事は弱いとされていたからだ。しかし圧倒的な破壊力を誇る理香やここに来て真価を発揮する舞ちゃんを見ていると、そんな格言など全く当てにならないのだと知った。


「じゃあオーラスだよ。準備は良い宮川君」


 舞ちゃんは今まで自分が上がると嬉しそうに手牌を眺め、最後の最後までなかなか崩そうとはしなかった。それが今誰よりも早く手牌を弾き飛ばした。

 その姿はもう初心者の舞ちゃんではなく、理香と同格の勝負師のようだった。

 それを受けて、俺よりも早く理香が舞ちゃんと同じように手牌を弾き言う。


「良いわよマイ。受けて立つわ。取られた分はきっちり返してもらうから」


 俺の役満に真っ向から勝負を挑みかなり消耗していた理香だったが、油断から生まれた隙を突かれたのが相当悔しいのか、再び瞳に灯がともった。

 それに対し舞ちゃんは理香と目が合うとニヤッと笑うだけだった。


 女子二人のやり取りは正に勝負師だった。そんな熱い空気が俺にも火を点けた。


 舞ちゃんが紡いでくれたオーラス。俺達に残されたチャンスは一度しかないが、跳満ツモか直撃以上でひっくり返る。舞ちゃんの想いに応えるために最後くらいは俺が上がって決める!


 いよいよ迎えたオーラス。それぞれの想いが乗る卓に、霧崎の振った賽が転がる。

 えっ!? まだ続くの⁉ 

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