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君はjunkie   作者: ケシゴム
第八章
37/48

強敵

 俺が理香を好きな事をバラさせないために挑んだ麻雀勝負だったはずが、気付けば何故か舞ちゃんの取り合いへとシフトした。そんな訳の分からない戦いは、俺と舞ちゃんペア対霧崎、理香ペアという変則的なルールでの対局となった。


 半荘一回勝負。ありあり。赤牌は無し。持ち点は当初ペアで五万点を持つというルールだったが、振り込みやツモ上りの際に計算が面倒だという事で通常通り各家二万五千点持ちとなった。だが五万点をペアで持つというルールに変わりはなく、ペア同士ならいつでも点棒のやり取りが可能で、ペアでの持ち点がゼロにならない限りトビは無い。

 

 つまりこのルールであれば仲間同士での差し込みをしても点棒の動きは無く、ツモ上りをしても仲間が親なら通常の半分しか点棒の収支は無く、相手ペアのどちらかへの直撃が最も有効となる。


 このルールを理解した時、もしかしたら勝てるかもしれないと思った。これなら直接理香を狙わなくとも霧崎から点棒をもぎ取ればなんとかなるからだ。だがしかし、こちらには ※リーチを掛けた者の捨てた牌は安パイ、くらいしか知らない舞ちゃんがいると思うと、どちらかと言えば不利なんじゃない? と思った。

 

 ※ あがり牌を自分で捨てているとフリテンと言って他者が捨てた牌では上がれない。ただしツモあがりはOK。ちなみに気付かずに誤ロンをすると罰符が発生し、親で子三人に四千点ずつ。子で親に四千点、子に二千点ずつの支払いとなる)


 それでも点棒のやり取りがいつでも可能な点を考えると、舞ちゃんのトビで終了がないだけ絶望的というわけでも無かった。


 そんなルールで始まった対局は天満が立ち会い兼スコアラーとなり、対面に理香、上家に舞ちゃん、下家に霧崎の席順となり、当然というかやっぱり理香が起家(最初の親)で、俺の配牌もいつも通り漢字だらけだった。

 しかし一巡目が終わり理香のツモ番になると、カチャっと音を立て小手返し(二枚の牌を片手で入れ替える技術。マナーとしてはあまり良くない)をして、そこから見事な外切り(中指と親指で牌を掴み、反時計回りに牌を回して捨てる方法)をして乾いた音を立てて打牌し、さらにそこから牌を押し出すように切ったのを見て、いつも通りというわけでは無い事を知った。


 理香は麻雀を愛しているが故に誠実だ。牌はもちろん対局者への敬意も忘れず紳士的に向き合う。そんな理香が裏プロ並みの手付きで小手返しをして、プレッシャーをかけるように打牌した。それは完全に俺に向けられたものだった。だが目を合わせると真剣さの中に笑みを見せた事で、それが敵意ではなく宣戦布告なのだと分かった。


 正直困った。おそらく理香はやっと俺と本気で戦えると思い喜んでいる。だが俺は既に“あれ? これって負けた方がどっちかって言ったらいいんじゃね?”と思っており、全く勝つ気が無かったからだ。


 現在舞ちゃんは俺の事が好きで、霧崎は舞ちゃんの事が好きな事が明確になっている。そして俺が負ければ舞ちゃんは俺を諦め霧崎と付き合い、理香には告白しなくとも俺が好きな事を知られる。

 もしここで俺が勝つような事になれば、霧崎は舞ちゃんにフラれ、俺は舞ちゃんの告白に対し答えを返さなければならない。そのうえ理香には俺が好きな事は知られず、結果的に俺は舞ちゃんと付き合う事になるだろう。

 最初はやるだけ損だった戦いも、回りに回っていつの間にか負け得になっていた。


 そんな中での理香のメッセージは、舞ちゃんへの裏切りと相まってとても胸が痛んだ。

 それでも理香は、俺が本気で向かってくると思っているようで、その後もプロ張りの手つきで牌を操り、六巡目にして早くもリーチを掛けて来た。


「リーチ!」


 理香にとっては待ち遠しかった対局なのか、普段よりも大きく手を振り上げ宣言牌を河に並べる。その活き活きとした動きからは表情以上の喜びが伝わる。


「ポ、ポン!」


 勝つ気はなかった。それでも理香の気持ちには応えない訳にはいかなかった。そこでたまたま鳴ける字牌だった為、元より捨ててた自分の手を捨て、絶対 ※一発 でツモるであろう牌を喰い取った。


 ※ リーチ後一巡以内でツモやロンで上がる役。鳴きが入ると無効となる。


 すると理香は嬉しそうに頬を緩ませた。


「さすが優樹やるね! 最後まで絞ったのにやっぱり字牌持ってたね!」

「ま、まぁね……」


 普段なら勝負所でもない限り一発消しはしない。一発ツモなんてものは狙って出来るような物でもないのに、それをわざわざ手を崩し、安パイを減らしてまで阻止するようなものでは無い。

 そんな普段とは少し違う対応が嬉しいのか、理香は目を輝かせる。


 この鳴きでツモ順がズレた事により、同順理香のツモ上りはなかった。が、例え一発を消しても理香の勢いは本物のようで、次順勢いよくツモると楽しそうな声を上げた。


「ツモ! 六千オール!」


 おいマジかっ!? 四筒喰い取ったのに四筒引くってどうなってんの!?


 開始早々、リーチ、ツモ、ピンフ、タンヤオ、一盃口に裏ドラのおまけ付きと、喰い取った筈なのに全く関係無かったかのように平然と四筒をツモる理香には、例え勝つ気が無くともやる気が失せた。

 そして天満がホワイトボードに点棒を書き込むと、既に絶望的な点差に感じた。


 ペアで六万二千対三万八千。元の数字がデカいだけにまるで役満でも喰らったかのような気分だった。そしてさらに個人別の持ち点を見ると、俺達一万九千点に対し既に四万三千点持つ理香に、まるでナメック星にでも来た気分だった。


「じゃあ次! 私の一本場ね! さぁ早くみんな混ぜて!」


 理香にとってはまだ序の口だったらしく、点棒の受け渡しが終わると豪快な上りには一切未練を残さず牌を混ぜ始めた。その手つきは普段の優しい女の子ではなく歴戦のおっさん並みだったが、表情は俺達が何のために戦っているのかを忘れたように無邪気だった。

 そんな理香の表情がとても愛しく、切なかった。


 だが迎えた東一局一本場も十一巡目にしてまたも理香のリーチが掛かり、口がへの字になってしまった。


 この局は舞ちゃんも理香の親を流す事を考えたのか序盤から果敢に攻め、中くらいしか役は無いが既に三副露しておりテンパイ濃厚だった。

 これには俺も賛成でなんとかして振り込んで流すつもりだった。だが待ちも読みではピンズのシゴロ(四五六)辺りだと分かっていても持ってはおらず、どうすべきかと悩んでいた矢先のリーチには正直ムッとした。


 舞ちゃんもこれには眉を顰めた。そしてツモると全く降りるつもりは無いようで、無筋の危険牌をそのまま強打した。


 超危険な状態だった。舞ちゃんはそれなりに麻雀を覚えたがまだまだ素人で、点数に関係無くテンパイすると自分の手に惚れ込んでしまう。そうなるとあとはひたすら全ツッパ(全部突っ張る)。それを知る理香は先ほど得た点棒と親というアドバンテージを活かす。

 やはりこの勝負は最初から俺達には勝機はなかった。


 それでも再び理香に上がられて、次局でトビ終了となるにはあまりにも早すぎるため、ここで舞ちゃんの当たり牌を掴むしかなかったのだが、俺が引いて来たのは残念ながらいつもの字牌で、舞ちゃんに自分でどうにかしてもらうしかなかった。


 当然今の理香にチャンスを与えるのは愚の骨頂で、ツモ番が回ると理香は一発で上り牌を引き当てた。


「ツモ! 四千オールは四千百オール!」


 開始二局目にしてのダブルスコア越えには帰りたくなった。現代の麻雀ゲームにおいてもここまでイカれたCPUはいないだろう。それほど今の理香はあり得ない程激強だった。その強さは仲間であるはずの霧崎でさえ苦笑いするほどで、もう仲間を巻き込んで和了する理香はただの破壊神だった。


「じゃあ次次! どんどん行くよ~!」


 こうして早くも三万点を切った俺達は絶望的な状況に追い込まれた。だがこれだけ好き勝手やられ過ぎたせいか、ここから俺はせめて一矢報いてやろうと思うようになっていった。


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