青春 ②
「――それで、お前は新垣の事をどう思っているんだ?」
しばらくますかけ線をエロの線だと勘違いしていたエロガッパのせいで、駅で不毛な時間を費やしていたが、親切丁寧な説明で彼を落ち着かせるとなんとか家路につく事が出来ていた。
「どうって。まぁ~確かにただの友達ってよりは親友に近い感じかな?」
誤解が解けた事で霧崎も話しやすくなったのか、結構深い話題を振って来た。しかし俺も誤解が解けたせいか、普通に特に親しくもない霧崎に本音を打ち明けていた。
「だがここ最近の新垣の態度は、お前に気があるようにしか見えなかったぞ?」
「えっ! マジで!?」
「あぁ」
俺ももしかしたらそうじゃないかとは感じていたが、むっつりスケベの霧崎君がそう言うと確信に変わった。
「部活でしか新垣を知らないが、ミニチュアハウスを頼んだり、やけにお前と話したがるように見えた」
ミニチュアハウスはお前等が作れないからだろ! それに話したがるじゃなくて、頼んでるから申し訳なくて話掛けて来てるだけだよ!
霧崎の言葉を聞いて、“やった! 舞ちゃん俺の事やっぱり好きだったんだ!”と有頂天になったが、よくよく聞いてみると、俺が舞ちゃんに振られるための布石のようで、エロガッパの罠に感じた。
「そ、それは勘違いだろ? お前の話聞いて思ったけど、それ俺がミニチュアハウス作ってるから話す機会が多いだけで、それが無かったら俺よりお前の方が良く話してないか?」
「……それもそうだな」
くそがっ! こいつどんだけ単純な考えしか持ってないんだよ! 引き下がるの早すぎるだろ!
霧崎君はどうやらあまり賢いタイプではなかったようで、ほとんど確証も無い俺の考えにあっという間に勢いを失くした。それでも一応プロ野球選手を目指していただけに根性はあるようで、頑張って応戦してきた。
「だが、さっきの、こ、ここういう手の繋ぎ方は普通はしないんじゃないのか?」
霧崎にとっては相当恋人繋ぎはエロスに満ち溢れているのか、躊躇うように自分の手を絡め俺に見せた。それを見て、今度こいつにはエロサイトの見方でも教えてあげようと優しい気持ちになった。
「ま、まぁそれはそうだけど……で、でもさ、女子って占いとかそういうの好きじゃんか? だからそれはどっちかって言うと手相のせいだと思うぞ?」
「まぁ……そうだが……だがそれでも普通はしないと俺は思うぞ? 恐らくこの繋ぎ方をするのは親子や兄弟くらい親密でなくてはしないんじゃないのか?」
「ま、まぁ……」
霧崎君の言葉は俺が望む物その物だった。俺は舞ちゃんには恋心を抱いてはいないが、舞ちゃんに好きだと想ってもらえるのは是非ともお願いしたい。あまり説得力の無い霧崎でも、そう言って貰えるだけで嬉しかった。
「どうするんだお前?」
「どうするって、べ、別に舞ちゃんは告白してきたわけじゃないんだぞ? 特に俺からは何もしないよ」
俺は理香が好きだ。それはあれだけ積極的な舞ちゃんの攻撃を受けた今でも変わらない。だから今まで通り接しようとは思っていた。……しかし、正直告白されたらどうするかと言われれば……どうする!
舞ちゃんは小さくて賢そうで正直可愛い。その上理香よりもずっと話が合う。だがやっぱり理香の事が好きだ。それでももし今すぐに舞ちゃんと付き合うチャンスが来るなら、悩まざるを得なかった。
そんな俺の心中を察したのか、ここで男霧崎が活を飛ばす。
「お前は本当にそれでいいのか!」
「え?」
「新垣はお前に自分の気持ちを気付いてもらうために、今日恥を忍んで手を繋いでくれと頼んだんじゃないのか!」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
どうした霧崎! お前というキャラが良く分からん!
突然熱くなった霧崎には正直驚いた。というかほとんどギャグのようにしか見えなかった。しかし霧崎君は大真面目らしい。
「なら今からでも遅くない。新垣を追い掛けて好きだと伝えろ!」
「いやちょっと待って!? 何で!?」
どうやら霧崎君は熱血系のアニメやドラマで育ったようで、夕日が似合うような熱い事を言い始めた。
「お前は女性の口から好きだと言わせるつもりか?! 男だったらそれだけのことをされたら例え好きでなくても抱きしめてやるのが漢だろ!」
まさか霧崎がエロに対してはこんな奴だとは思わなかった。だが言っている事がエロに対してだけに、付いてはいけなかった。
「何でだよ!? まだ舞ちゃんが本当に俺の事好きかどうかも分からないだろ! それに好きじゃないのに告白すんのもおかしいだろ!」
「馬鹿やろう! じゃあ新垣の気持ちはどうなるんだ!」
「いや舞ちゃんの気持ちより俺の気持ちを考えろよ!」
「お前の気持ちなんてどうでも良いんだよ! 漢なら女性を受け止める度量くらい持て!」
ヤバいわ霧崎君。こいつ絶対エロ本とか見た事ないタイプだ。野球も良いけどエロ本くらいは見ようよ霧崎君?
昔聞いたことがあった。男子校などで女性から遠い環境に置かれると、男はどんどんおかしくなっていくらしい。恐らく霧崎は幼少期からプロ野球選手を目指し厳しい環境で育って来たのだろう。それこそエロ本どころか女性の靴でさえ興奮するほどに。
霧崎は英才教育を受け、哀しい化け物に育ってしまったようだった。
「おお、落ち着け霧崎! 先ずは落ち着け!」
「俺は落ち着いている!」
いや完全に興奮してるよね? こいつどんだけ初心なんだよ!
「大体舞ちゃんはお前の事が好きなはずだろ?」
「なっ!?」
余りに迸り過ぎる為、少しでも話題を反らそうと咄嗟に思い出した事を言った。するとこれが効いたのか、霧崎があり得ない程動揺し始める。
「そそそそれは本当か宮川!? ににに、新垣がおお、俺の事をすすす好きなのか!?」
落ち着け霧崎―! お前どんどんメッキ剥がれてるよ!
「い、いや好きかどうかは知らないけど、お前が初めて部室来た日あるじゃん。その時お前は舞ちゃんの事知らなかったのに、舞ちゃんはお前の事知ってたろ? お前舞ちゃんとどっかで会った事あったのか?」
「い、いや……記憶に無い……」
「だからさ、多分だぞ、多分舞ちゃんはお前の事好きだんじゃないかと思って……」
「そ、それは本当か!?」
「い、いや今は分かんないよ? もしかしたら違うかもしれないし……だからさ……」
「お、おお俺はどうすれば良い宮川! 告白した方が良いのか!?」
落ち着け霧崎―! お前はどんだけ初心なんだよ!
「待て待て待て! 少し落ち着け! これはあくまで可能性の話だ。もしかしたら俺の勘違いかもしれん」
「そ、そうか……それはすまん……」
危うく大変な事になるところだった。それでも単純な霧崎に落ち着きが戻った事で、なんとか事なきを得た。
「しかしそうなると、俺はどうすれば良い宮川? 俺は普段通り新垣と接すれば良いのか?」
ほんと落ち着け―霧崎! こいつ見た目と違って全然イケメンじゃないよ! どんだけ女に飢えてんだよ!
「それにお前はどうする?」
「どうするって?」
「お前は既に新垣と手を繋いでいるだろ? その場合やはり新垣はお前の事が好きなんだろ? やはり一度お前から告白すべきじゃないのか?」
堂々巡り! こいつもう混乱してて何言ってんのか分かってないよ!
「だから何で俺が舞ちゃんに告白しなきゃなんねぇんだよ!」
「それは新垣がお前の事が好きだからだろ! お前新垣の気持ちを考えろ!」
「だから俺は別に舞ちゃんの事は好きじゃねぇって!」
「何っ!? じゃあお前は好きでもないのに手を繋いだのか!?」
「だからちげぇって言ってんだろ! 俺が好きなのは理香だ! あっ!」
「何っ!? お前佐藤の事が好きだったのか!? お前は最低だな!」
うっかり自分が理香を好きな事を霧崎に教えてしまった。が、そのことよりも何故か最低呼ばわりされた事の方にびっくりだった。
「ちょっと待って! なんでだよ!?」
「お前、それは二股ってやつだろ!」
「ちげぇよ!」
またここで霧崎君の勘違いが発覚し、やっと着いた家路が遠のいた。しかししばらく親切丁寧な説明をすると、かなり苦労したが不毛な時間は過ぎ去った。




