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七つの鍵の物語【悪徳貴族】~ぼっちな僕の異世界領地改革~  作者: 上野文
第八部/第三章 大事を成し遂げる秘訣は、行動だ!
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第547話 悪徳貴族、世界樹に至る

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 三白眼の細身青年クロードは桜貝の髪飾りとなった青髪の侍女レア、赤髪の女執事ソフィ、金色の虎耳少女アリス、薄墨色髪の和装少女セイと共に、夜明け前の水平線を見つめていた。


「ファヴニル……」

「お兄さま……」


 クロード達が乗ったクジラ型飛行ゴーレムの前方で、彼と彼女たちが三年間戦い続けた試練、追い求めた運命の象徴が消える。

 全長三〇mの巨大竜ファヴニルと、巫女レベッカが乗る一辺五〇〇mの逆三角錐型飛行要塞がボロボロと崩れて、轟々と渦を巻きながら水底へ沈んでゆく。


「「……」」


 クロードも四人の少女達も、まるで勝利した実感がなかった。

 夢の中にいるかのように、足元がおぼつかず、思考もまとまらない。


「よっ、クロード。お互いハデな格好だが、生命があって何よりだ」

「部長、良かった。生きていたんですね」


 そんなクロードに真っ先に声をかけたのは、ドゥーエが操縦するもう一機の飛行要塞で空から降りてきた冒険者ニーダル・ゲレーゲンハイトだった。


「あ」


 ソフィは以前、かの冒険者にセクハラを受けた経験から胸を隠してクロードの手を握り。


「たぬぬう♪」


 アリスは、親友イスカの養父なのでニコニコと微笑みながら、金色のぬいぐるみめいた狸猫姿に変身してじゃれつき。


「彼がニーダル・ゲレーゲンハイトだって。なぜムラマサを持っているんだ?」


 セイは慎重に操舵輪を握りしめたまま、本来の持ち主ではないニーダルが、ドゥーエのムラマサを背負っていることに首を傾げた。


「クロード、それにお嬢さん達。ハッピーエンドで、カーテンコールといきたいが、まだ演目は終わっちゃいない」


 ニーダルは、三人の反応を知ってか知らずか、黎明れいめいの空を指差した。

 ファヴニルが召喚した世界樹は、かの竜が滅びてなお、空を覆うように緑の枝を広げている。

 

「第一位級契約神器さえあれば、世界樹に接触して願いを叶えられるからな。すぐに他国がちょっかいかけてくる」


 ニーダルはあごに浮いた無精髭をさすりながら、短い間の相方であった隻眼隻腕の剣客ドゥーエを見た。

 左手の義腕を失ったドレッドロックスヘアの元傭兵は、右手に通信貝を掴んでなにやら吠え叫んでいた。


「ドゥーエや、シャターレン閥のジシイによると、アメリアやらルーシアやら西部連邦人民共和国やらが、すでに艦隊を派遣したらしい。早くケリをつけなきゃ、世界大戦にもつれ込んじまう」

「世界樹は、部長が破壊してくれるんじゃなかったんですか?」


 契約神器と盟約者が世界樹に接触すれば、願いを叶えてしまう恐れがある。

 レアと契約を交わしたクロードよりも、神器を持たないニーダルの方が適任だったのだ。


「すまんな。壊したかったんだが、ガス欠だ。もう空を飛ぶ力もないんだ」


 ニーダルは炭化した外套から、青白い炎をあげるムラマサを引き離し、クロードに手渡した。


「クロード、レーヴァテインとヘルヘイムが混ざり合った今なら、ムラマサに呪われることもない。世界樹を頼む」

「部長、レアはファヴニルから七つの鍵たる資格、第一位級契約神器を継承しました。僕が行けば願いを叶えてしまう」


 クロードは唇を一文字に結んで辞退しようとしたが、ニーダルは肩をすくめて背中をばんばんと叩いた。


「好きにしろよ、後輩。MVPはお前だ。ギャルのパンティを願おうと、新世界の創造を願おうと、俺達が元の世界に帰ることを願おうと、思うままにやればいい」

「よーし、僕、部長のナンパ癖をなおせって願おうかなあ」

「ははは、それは、やめて欲しいかなあ」


 クロードはニーダルと肩を叩き合うと……。

 ソフィを抱きしめ、アリスの頭を撫で、セイと頷きあった。


「皆、行ってくる」


 そうして、クロードはムラマサを手に世界樹へ飛び立った。


「レア、どうする? もしも君が望むなら、一〇〇〇年前からやり直すことだって出来るかもしれない」

「いいえ、いいんです。私とお兄さまは、一〇〇〇年かけて答えを得たんです。御主人クロードさまとの三年は、私達にとって無くしてはならない、この世のあらゆる宝に勝る時間でした」


 レアは思う。

 ファヴニルがあれほどにクロードに焦がれ執着したのは、恋人の生き方と在り方が、兄の理想だったからではないか、と。


「御主人さまはどうしますか? 元の世界に戻られますか? それとも兄さまのようにカミサマを目指されますか?」

「レア。僕は……」


 クロードは、これまで出会った人々の顔を思い浮かべた。

 敵味方を問わず多くの夢があり、多くの願いがあった。

 それでも、そうであればこそ、彼らに誇れるよう自分を貫きたかった。


「僕は人間だ、カミサマにも、ドラゴンにもならない。人間のまま、君と生きてゆきたい」

「はい」


 クロードは、破壊された虹の橋と、世界樹の根元が見える距離まで辿り着いた時、オッドアイの少女が雪原で微笑むのを見た気がした。


(ボス子ちゃん)


 主従は妖刀を手に、大樹の枝で踊る。

 ムラマサの炎が、木を薪に燃え盛る。


『共に唄おう。炎と氷の神話、天と地を結ぶ大樹の歌を。我らはより良き明日を望み、祝福を伝える。

 伝承機構エッダ 世界樹之歌(ユグドラシル) ――接続アクセス――』


 火と氷が混じり合い、水が生まれ、焼けた木の残骸から新たな生命が芽吹く。

 世界樹は、その誕生を見届けて、幻のように消え去った。

 最後の瞬間、大きく優しい何かに呼びかけられた気がした。


『望みは何か?』――と。


 クロードには、レアには、ひとつだけ叶えたい願いがあった。


【僕は……】


 クロードは思い出す。

 北欧神話において、主神オーディンは世界樹で首を吊り、ルーン文字と魔術の秘奥を体得することを願ったという。


【私は……】


 レアは思い出す。

 原初ほくおう神話において、ブリュンヒルデは地上を去ってなお、愛する男と共にあることを願ったという。


【世界を渡るすべを知りたい】

【人間になりたい】

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

応援や励ましのコメント、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)

本作は、最終回まで毎日更新いたします。

明日も是非いらしてくださいませ。

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◆上野文より、新作の連載始めました。
『カクリヨの鬼退治』

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― 新着の感想 ―
[良い点]  こんばんは、上野文様。  三年という長き庭あるファブニルとの戦い、遂に決着となりました。  けれどもまだ世界樹の存在が残っており、世界樹が降臨したことを知った他国がマラヴァディアに向かっ…
[一言] >ファヴニルがあれほどにクロードに焦がれ執着したのは、恋人の生き方と在り方が、兄の理想だったからではないか そして、小さい男の子が気になる女の子に対してするような行動(規模大)をし続けたと……
[一言] 願いを叶える権利はクロードとレアが使うのですね。 レアの願いは、彼女が第一位級契約神器のままだと、 ドラゴンボールが4つくらい集まった状態なので危険ですからね。 ここで次のセリフが 「それ…
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