第506話 第八、第九の塔破壊とイオーシフの死?
506
燃える松明に照らされた地上から、厚い雲に閉ざされた夜の曇天に向かって、ひとすじの灯りが昇って行く。
クロード一行が乗り込んだ大型掘削装置付き機関車は、地上に住む人々の声援を受けながら、あたかも童話のように天へと漕ぎ出した。
機関車の先端部では、ドリルが螺旋を描きながら回転。邪竜ファヴニルが大地から魔力を奪う為に建てた、ねじくれた塔を真っ二つに粉砕する。
「よし。八番目の〝禍津の塔〟を破壊完了。次は飛行要塞にある九番目だ!」
「辺境伯様。エンジンは臨界を維持している。まだ行けるぞ!」
三白眼の細身青年クロードが機関室で喝采を上げるや、同乗したトーシュ教授が煤と油で黒く汚れた白衣を翻し、〝非常用〟と書かれた取っ手を押し込む。
「皆様、もう一度身体を固定してください。このまま九番目の塔を破壊し、飛行要塞を落とします」
「頼んだよ、レア。線路は僕が作る。鋳造――!」
クロードが空中へ作る線路に導かれ、車両は更に高く飛翔する。
黒く光り輝く機関車は、一辺五〇〇m高さ一〇mの逆ピラミッド型岩盤に乗った砦と、もう一基のねじくれた塔を目指し、流星のように突っこんでゆく。
「まさかまさか、空を飛ぶとは思わなかった。素晴らしいっ、さすがは我が友ロジオンが見込んだ英雄殿だ!」
元テロリスト団体〝赤い導家士〟の代表イオーシフ・ヴォローニン。
橙色の髪を香油できっちりとまとめ、入念な化粧で若作りした白スーツの男は、岩盤に築かれた砦の天守閣に立ち、飛来するドリル機関車を真っ向から睨みつけていた。
「しかし、まだですっ。私の目的を果たすためには、この飛行要塞〝清嵐砦〟をっ、落とされるわけにはいかない!」
イオーシフが赤いハンカチーフを掲げるや、風がびゅうと吹いた。
〝清嵐砦〟の名前に相応しい強烈な風が吹きすさび、岩盤から土を削り出して、要塞を囲むようにドーム型の防壁を創りだした。
「これまで破られた防壁で、その機関車のスペックは把握した。辺境伯はご存じかな? 土とは鉱物の宝庫だ。チタン、シリコン、ガラス、アルミニウム、タングステン……。これらの金属を神器の力で増殖し、酸化、炭化させて組み合わせることで、鉄鋼をも凌駕する防壁を創り出すことができるっ」
「やかましいぞ、イオーシフ。お前のウンチクなど聞いていられるか。何が立ち塞がろうとぶっ壊す!」
クロードが線路を作って誘導するドリル機関車は、卵の殻にも似た何十枚もの装甲板をバリバリと割りながら前進を続けた。
しかし、破壊すればするほどに速度は下がり、焦げ付いたエンジンが悲鳴をあげる。
「トーシュ教授。エンジンはまだ持つかい?」
「厳しいね。それより素晴らしいっ。固い金属装甲と軟らかい陶磁装甲を重ねることで、より衝撃に強い複合防壁を作りあげたのか。閃いた! 神器頼りなのが玉に瑕だが、このアイデアは今後の研究に活かせるかもしれないっ」
「うわあ、教授の悪癖が出た。何でもかんでも研究に結びつける。我が師ながら、ネジが外れているよ」
トーシュ教授はピンチにもかかわらず高らかに笑い、弟子の生徒達は悲鳴をあげながら車体の維持に走り回る。
「うえっぷ。さすがはイオーシフの旦那と感心するべきか、トーシュ教授の図太さを賞賛するべきか」
「ドゥーエさん、褒めてる場合じゃないっ。手伝ってくれ」
「せめて、九番目の〝禍津の塔〟だけでも壊しますっ」
クロード達の努力が実を結んだか、ドリル機関車は複合防壁を辛くも突破した。
もはや飛翔を続ける力はなく、岩盤の上へ着地。花で飾られた中庭を滑るように走りながら、九番目の塔へ激突し……沈黙する。
「ありがとう、機関車。ここまでよくやってくれた。レア、塔をぶっ壊すぞ」
「はい御主人さま。これであとひとつっ」
クロードとレアが、機関室の扉を蹴破るように飛び出して、雷の刀と炎の脇差しを、塔の根元へと叩きつけ――。
「たぬぬうっ、ガッちゃん。一緒にジャンプキックたぬっ」
「バウワウっ」
金色の大虎アリスと銀色の大犬ガルムが高々と跳躍して、塔の中部を蹴り飛ばし――。
「ムラマサの姉貴、力を貸して」
『もちろんですわ、ミズキさんっ』
薄桃色がかった金髪の少女ミズキが、妖刀ムラマサに取り憑いた幽霊の力をのせた銃弾で塔の上部を撃ち抜く――。
「うえっぷ。トーシュ教授、皮袋はないか。乗り物酔いしちまった」
「こちらをどうぞ。ドゥーエさんも中々に図太いですよ」
そして、ドゥーエが暢気に酸っぱい胃液を吐き出す中――。
九番目の塔は、機関車の激突と、三カ所の猛攻に耐えきれずボロボロと崩壊した。
「……」
クロード達は、当初の目論見とは異なり、飛行要塞の破壊には失敗した。しかし、最重要目的である塔の破壊には成功している。
「お見事です。よくぞここまで辿り着いた」
不意に風が止んで、無音の要塞内にパチパチと手を叩く音が響いた。
クロードが周囲を見渡すと、中庭に植えられた花や草、苔が光を発していて、薄闇の中でも人の姿を視認することが出来た。
橙色髪の伊達男、イオーシフ・ヴォローニンが砦から中庭へと降りてくる。
彼の傍には、トウモロコシ色の髪をコーンロウスタイルにまとめ、赤いダボダボのパーカーに似たチュニックとタイツズボンを着た、緑色の瞳の青年ダヴィッド・リードホルムが付き従っていた。
「辺境伯。私はこの時を待っていました」
「ひょうっ。そうとも、待っていた。待っていたぞおっ」
ダヴィッドはいきなり歯を剥き出しにして、竜の爪のように変貌した右手でイオーシフの心臓を背中から貫いた。
人型顔なし竜だからだろうか、人間のモノではない青黒い血が石床に噴水のように飛び散った。
「ひゃはっははは。イオーシフ・ヴォローニン。貰ったぞお前の生命。この要塞はオレのものだあっ!」
あとがき
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