第504話 赤い導家士の研究対象
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クロード一行は、国際テロリスト団体〝赤い導家士〟の指導者イオーシフ・ヴォローニンが操る、数万体に及ぶ怪物魔像の軍勢を突破した。
残る障害は、砲台の役割を果たしている量産型〝顔なし竜〟一〇体だ。門番たる守備の要さえ撃破すれば、飛行要塞を海と空から攻撃できるようになる。
しかし、逆転までもう一息まで来た時、クロードが抱いたのは、敵将イオーシフへの強烈な違和感だった。
「ドゥーエさん、聞いてくれっ」
三白眼の細身青年クロードは、金色の大虎アリスにまたがり、目鼻の欠けた全長二〇mもの巨大蛇を二刀で斬りつけながら、縄のようにゆわえた髪が目立つ剣客に呼びかけた。
「ファヴニルは、巫女であるソフィと一〇基の〝禍津の塔〟を使って、マラヤディヴァ国から魔力を奪い、第一位級契約神器へ進化しようとしている。そのために一〇の軍勢を用意して時間を稼いでいたんだ」
「……クロード、唐突になんでゲスか?」
隻眼隻腕の剣客ドゥーエもまた、銀色の大犬ガルムに乗り、左の金属義手で巨大蛇の頭部を抑えつけながら、青白く光る妖刀ムラマサで首を落としていた。
彼は背後に同乗する、妹分? たる、薄桃色がかった金髪の少女ミズキにこづかれながらクロードを振り返る。
「わさわざ念を押されなくても、そんなことわかってるゲスよ」
「イオーシフも同じなんだよ。ダヴィッド・リードホルムを、モンスターゴーレムを、ニーズヘッグを利用して、時間を稼いでいる。ファヴニルに当てつけるように、まったく同じ方針なんだ」
「カッカッカ。そういう小狡いやり口は、実に旦那らしいでゲスねっ!?」
クロードが赤い布キレを見せながら訴えると、ドゥーエはニーズヘッグと切り結びながら、生身の右手で親指を立てた。
元〝赤い導家士〟の外部協力者であり、イオーシフの親友でもあった男も、どうやら同じ疑問に行き着いたらしい。
「旦那の目的が本当に時間稼ぎだけなら、統率個体にわざわざ〝目立つ赤い小物〟を付ける必要は無い。偶然ではなく、何かの仕掛けではないかと疑っているゲスか?」
「ああ。イオーシフは、ファヴニルの意図を理解している。自分がモンスターと同様に、使い捨ての肉壁だと承知しているはずだ。だからこちらへ寝返るとか、そういう意図があってもおかしくないだろう?」
クロードの問いかけに、ドゥーエは巨大蛇と格闘しながら、首を大きく横に振った。
「残念でゲスが、イオーシフが大同盟のような秩序側の勢力に味方するとは思えませんね。旦那は根っからのアウトロー、口さがなく言えば悪党でゲスよ」
クロードは、ドゥーエの言葉に頷かざるを得なかった。テロリスト団体〝赤い導家士〟は数え切れない人々の命を奪いさっている。
「……自分の理想を叶える為なら、どれだけ大人数を不幸に落としても平気の平左。だから、イオーシフはクロードと相容れなかったでしょうし、苅谷近衛にも『お前の身勝手に他人を巻き込むな馬鹿』と叩き斬られた」
「悪い意味で、善意を押し付けてくるのか」
「否定はしませんよ。あ、そうだ。クロードも良かれと思ってパーティで地獄顕現とかやめてくださいよ」
「あはは。そんなことするわけないだろ」
クロードもまた軽口を叩きつつ、戦う手を緩めない。ニーズヘッグが振りまく吹雪の翼をかわし、太い喉首に二刀を差し込んでえぐり落とす。
(ああ、近衛センパイのトラウマ直撃じゃないか。そりゃあ、あの人が戦うわけだ)
苅谷近衛の母親は新興宗教に狂い、非常識なまでの勧誘で演劇部の人間関係をズタズタに引き裂き、実の娘を自殺直前まで追い込んだ過去がある。
そしてイオーシフ率いる〝赤い導家士〟もまた、歪んだ理想をかかげ、マラヤディヴァ国やイシディア国で乱暴狼藉を働いた。
近衛もクロード同様にテロリスト達の蛮行を見過ごせず、戦いへ身を投じたのだろう。
「そうなると、イオーシフは今も善意からファヴニルに協力しているのか?」
「いや、言われてみればそれもおかしいでゲス。旦那は――究極的に妥協ができない」
ドゥーエがドレッドロックスヘアをたなびかせながら斬りつける後方で、ミズキが騎兵銃で弾丸を浴びせてニーズヘッグを牽制し、視線と注意を引きつける。
「GAA!」
「ドラゴンブレスなんてやらせるかよっ」
ドゥーエは大技を放とうした隙を逃さず、ムラマサを竜の口内へと突き込んで絶命させた。
「話の続きですが、イオーシフの旦那は、一時共闘ならともかく、ファヴニルやダヴィッドを頭に受け入れるのは、『死んでもお断り』と言いそうだ」
ドゥーエは、左の金属義手を鳴らしながら首を傾げた。
「……生前進めていた研究と、何かしらの関係があるんですかねえ?」
クロードは、ドゥーエが初めて口にした研究という言葉に悪い予感がして、額から冷たい汗が流れ落ちるのを自覚した。
「ドゥーエさん、イオーシフはいったい何を研究していたんだい?」
「なあに、今となっては目新しい研究でもありませんよ。
世界崩壊を力づくで止めるための〝人間と契約神器をひとつにする融合体〟と――、並行世界に警告を託すための〝世界を渡る時空魔術〟――を研究していたんです」
目新しくはなくとも、相乗効果が最悪な研究対象だった。
クロードがツッコミを入れる前に、ミズキとムラマサがドゥーエを殴り倒していた。
「そういうっ、大事なことは先に言えっ」
『報告・連絡・相談は、基本でしょうっ。このモンスター並みの考えなしっ!』
「オイコラ、他人の頭を太鼓のように殴るな。結局完成しなかったんだから、心配なんて無用だろう」
クロードはドゥーエのゆるゆるな見通しに、ため息を吐いた。
「未完成ということは、完成の余地があるということだ」
イオーシフがいらぬ野心に焦がれたり、別の悪党の手に渡れば、最悪の場合、戦争がこの世界だけにとどまらず、地球のような〝別世界〟にまで飛び火しかねない。
「ドゥーエさん。イオーシフの研究は〝赤い導家士〟が滅んだ後にどうなったんだ? 何処かに漏れたり、あるいは討伐したイシディア国が接収したりしたのかな?」
「いいや。旦那は決戦に赴く前に、自分が敗北した場合、研究成果の全てが苅谷近衛の手に渡るよう準備していました。あの娘がイシディア国に引き渡すとは思えない」
「それは、同感だ」
近衛センパイなら、確実に危険視する。その場で焼き捨てるか、他の演劇部員と再会するまで死蔵するかの、どちらかだろう。
「たぬう。クロード、イオーシフは何かワルイコトを考えているたぬ?」
「ドゥーエさんの推測もフワッフワだし、今はまだなんとも言えない」
クロードは両手の二刀と、金色の大虎アリスが閃かせる爪を合わせ、最後の〝顔なし竜〟をバラバラにした。
「だから、最悪を想定して動こう。ミズキさん、照明弾を撃ってくれ!」
「はいさっ」
ミズキが銃で打ち上げた光弾に反応し、臨海都市ビョルハンに入港していた艦隊が砲撃を開始する。
「御主人さま。今、御身の侍女が参ります。鋳造――線路!」
そしてレアが敷く線路に導かれ、ドリル付き機関車が、モンスターを轢き倒しながら動き出す。
「レア、こっちだ。アリス、ガルムちゃん、ミズキさん、ドゥーエさん。イオーシフが余計な陰謀を実行に移す前に、飛行要塞に乗り込むぞ!」
あとがき
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